##41 【AWO】世界は、広い【ミドリ】
宿の個室。
私の部屋にはお寿司屋さんという強敵を乗り越えた私とコガネさんの二人っきり。
何も起きないはずがなく――
「――なあ、ほんまにわかっとる?」
「あまり私をなめないでくださいよ。えっち!」
「物理的に舐めとらんわ!」
「意外かもしれませんが、私って地図は読めるんですよ」
何も起きないはずがなく、次の妖怪退治の相談をしていた。
葉小紅さんいわく、一日にそう何回もやるべきではないらしいが、大丈夫とごり押して次の標的である土蜘蛛の居場所を聞き出した。彼女は妖刀を使って今日はこれ以上戦闘を避けたいとのことで、唯一動ける私とコガネさんで向かうことにしたのだ。
エスタさんはみんなの介抱をしてもらっている。
そしてなぜ地図の話になっているかというと、私の迷子力が発揮してはぐれた場合に備えてあらかじめ目標地点を把握しようという流れになったのである。
「切り替えはや……ほななんでいつもそないな迷子になるん?」
「私、地図見ない主義ですので」
「はあ?」
コガネさんが割と本気でピキッってらっしゃる。
「
「ほーん、あれって?」
「いや、でも活動範囲が限られるのなら慣れますから!」
「ほんで、うちらは各地を転々として慣れとは縁遠いなぁ?」
「うっ……でも地図使ったら負けた気分になりません?」
「ならへん」
「ですよねー」
仕方ない。そこまで言うなら私も折れてあげてもいい。
そもそもはぐれなければいいだけだし。2人なのにはぐれるなんてありえないからね。
◇ ◇ ◇ ◇
「――と、いうわけで迷子になりました」
[焼き鳥::??]
[タイル::なるほどわからん]
[セナ::うん????]
[カリカリカリー::今の説明でどこに迷子になる要素が?]
[供物::迷 子 定 期]
[死体蹴りされたい::地図とかもらってないの?]
[階段::配信が始まってる時点でオチが決まってたんだよね]
迷子になる要素なんて、人がそれなりにいる場所で、美味しそうな店があったり面白そうな店があったり、脇道があったりしただけで成立してしまうのだ。私の興味を引く店を称賛するとともに責めるべきだと思う。
「地図代わりのメモは預かっていたんですけどね、残念ながら地図は読めても結局自分がどこにいるか分からないのでアナログでは意味ないんですよ」
[チーデュ::それ地図読めるって言うのだろうか?]
[燻製肉::自称地図読める人こんにちは]
[壁::アナログでも無理そう]
[紅の園::つまり地図を視聴者に見せて道案内させようとしてたり?]
[病み病み病み病み::タイトルの意味って言い訳だったんだ……]
[風船パル~ん::絶対一緒に旅行したくないタイプの人だ]
「そう、みなさんに道案内してもらおうと思いまして。ほら、これなんですけど……どっち行けばいいですかね?」
[枝豆::メモの割にしっかり書き込まれてるなー]
[とんぼの眼球::今右手に見える茶屋の奥の十字路を右へ]
[あ::コガネさん親切すぎる……]
[芋けんぴ::コガネさんの描いた線がきれいすぎる。これはA型と見た]
[梃子で動くニート::むしろこれでわからないのがわからない]
おー、私を責めることなく案内してくれる心優しい方がいらっしゃる。世界は広いし平和らしい。
ちゃんと言われた通り十字路を右折する。
「よし、それでここからはたぶん真っ直ぐですかね」
十字路とは言っても、現在地は町はずれののどかな山のふもとだ。
方向さえ分かればあとは道なりに行けば問題ないだろう。
しばらく道なりに歩いていく。
「そういえばこれ、見てください。私の新しい相棒の{
[田中::白くてかっこいいねえ]
[キオユッチ::ジャパニーズカタナじゃん]
[天々::腹話術下手くそだね]
[ジャンクフード::それただの裏声]
[とけない紐::そろそろ引き返さないと迷子にならん?]
「もう二度と腹話術しません。あーあミドリちゃんすねちゃった……あれ、ここどこですか? 私いつの間にこんな竹林に入ってました?」
[あ::刀を自慢し始めたころから]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::今ならまだ元の道に戻れるはず!]
[壁::気を抜くとすぐわき道に逸れるのある意味才能]
今なら戻れるようだ。急いで駆け足で来た道を引き返す。何となく見覚えのある方へ。
[こんぐらつれーよ::どこいくねん]
[芋けんぴ::方向音痴が勝手に動くな]
[味噌煮込みうどん::こら]
[ヲタクの友::終わりましたこれ]
「いくら何でも失礼ですね。数十秒前くらいの道くらい分かりますよ」
ちゃんと戻れてるはずだ。間違いない。
――数分が経過した。
「ふむふむ?」
――十数分が経過した。
「ここまで来たらコメント見ませんよー。今頃罵詈雑言の嵐でしょうし、方向音痴の私にだってプライドはありますから」
しかし、見渡す限りずっと竹だ。これだけあればかぐや姫が居ても不思議じゃない。
むしろここはゲームなんだしありそうだ。
「おや? こんな所にお屋敷……どこかのお偉いさんの別荘でしょうか? 道を尋ねるには最適ですねー」
かなり古びたお屋敷だけど、それほど荒れているわけでもないし、放置はされていないはず。
誰かがいるという希望に賭けて向かってみる。
――ん?
視界の端で落下した竹の葉が不自然な軌道を描いたように見えた。物理法則には従っているが、葉のくぼみ方がほんの少し歪んでいる。
午前中の集中力がまだ残っているようだ。
「そこにいるのは分かってますよ。出てきなさい」
「――――ほう、只者ではないようだ。見たところ同業ではなさそうだが……何者だ」
竹の葉1枚から明らかに忍者っぽい装束を身につけた人が現れた。
まさか本当にいるとは。私の目もだいぶ洗練されてきている、私凄い。
人生で一度は言ってみたいセリフランキング4位のセリフも言えたし、迷子で上昇していた不機嫌ゲージも落ち着いてきた。
「私はミドリです。えーと、まあここに来た理由は――」
「ミドリか。言わずとも君のような者が来た理由は分かっている。敵意もないようだしついてきたまえ」
「え、あはい」
察しの良い人で助かった。
私以外にも迷子になってここに来る人もいるのだろう。
「こっちだ」
「おー」
忍者さんは玄関の床を踏み抜いて地下に入っていった。
私も同じように床を回転させて地下へ。
「忍者屋敷、すっごいですね」
「次はこの壁だ」
◇ ◇ ◇ ◇
「あのー、いつになったら部屋に着くんでしょうか?」
「これで最後だ。外敵の侵入を防ぐためのものだから50は必須だから我慢してくれ」
忍者屋敷とはいえ、からくりを50個も用意するとか正気の沙汰じゃない。
帰りも同じ長さだと思うと憂鬱だ。
「さて、本題に入ろう」
「そうですね。ありがとうございます」
ようやく道を教えてくれるようだ。焦らしてくれるなー!
「まずは入門の証、忍装束だ。免許皆伝した暁には黒のものを渡す。それまではこの白の装束だ」
「え?」
何か知らないけど白い忍装束を貰った。
状況が全く理解できないんですけど?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます