##バカアホエルフの行方##

 



 時は少し遡り、地上に穴が開いてプリエットが半死半生の状態で転がった頃。


「……ぁ、あ、ここが、地上――なんて広くて自由な世界。結果的には……コホッ!」



 血反吐を吐き散らしながら、ポケットから小箱を取り出した。それは地下の保管室に置いてあったものであり、ミドリには核爆弾だと誤魔化したケースの中にあった物だ。

 場合によっては核爆弾よりも残酷な結果をもたらしうる危険な物なのには変わりないが。



「【解錠】」



 小箱が開き、箱のサイズに見合わない鎖が出てきた。プリエットはそれを掴み、悪い笑みを浮かべている。


 〈【どらごん】!〉

「【光の矢】」



 ツタがプリエットを拘束し、腕に矢が突き刺さった。


「【黒竜脚】!」



 更に追撃とばかりにウイスタリアの全力の蹴りが入り、地面をゴロンゴロンと転がった。


 ――しかし、プリエットは鎖を手放さずにいた。




「『全ては我が思うがままに、鎖をくくれ愚者共よ』【擬似神器解放:縛世のドミネート・チェ――」



 鎖が鈍く光りかけたところで、首が飛んだ。

 風のように駆け抜け、嵐のような斬撃を放った者の仕業である。執事服に身を包んだ盲目の男。

 その男の耳は長く、少し長めの金髪は太陽を反射して輝いているようにも見える。




「腕が落ちましたな、殿下」


「セヌス!? なぜここに……」



「誰なのだ? この老剣士は」

 〈どらごん?〉




此奴こやつは吾輩の故郷の執事、そしてエルフの里一の武人のセヌスという者だ」

「ほーん、そんなのがどうしてここに?」

 〈どらごん(特別意訳:手柄取りやがって)!〉



「殿下、もうよろしいでしょう。約束の期日はとうに過ぎております。お戯れは程々にお願い申し上げます」




 あくまでも紳士な立ち振る舞いで、ストラスに膝をつくエルフの老剣士セヌス。ストラスのことを“殿下”などと呼び、恭しく膝をついている様子からウイスタリアもどらごんも、ストラスがどういう立場なのか首を傾げる。



「吾輩は運命を見つけた! あんな辺鄙で窮屈な田舎に帰るものか!」



「――殿下。まさかすべての重荷を妹君に背負わせるつもりではありますまいな?」



 目は潰れていても、視線の代わりに凍てつくような剣気がストラスを刺す。



「世のため民のため、どうか懸命なご判断を」



「…………竜の、吾輩の旅はここまでだ。皆にはよろしく伝えておいてくれ」




 ストラスはウイスタリアとどらごんの傍を離れ、セヌスのもとへ歩み寄る。そしてエルフの王族だけが着ることを許された、煌びやかながらも自然との親和性の高い羽織りを被せられた。



「断る」

 〈どら……どらごん?(特別意訳:こと……え、断るの?)〉


「何?」



「断ると言ったのだ! そんなもの、自分の口で言わないか。残される側のことも考えないバカに手を貸すほど、我は安くないのだぞ」

 〈どらごん……〉


……そうか、吾輩から話すことはこれ以上ない。さらばだ」




 ストラスはセヌスを従えて森へ歩いていく。

 俯きがちで表情の見えない二人を心配するように、どらごんだけがキョロキョロと動いていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 ――新芽に魔法で水をやる者がいた。


 周囲に日を遮るものは無く、のびのびと育っていくだろう。

 土からの養分も十分与えられているため、そう遠くないうちに立派な大木になるかもしれない。



「王子は見つかったか」


「は。只今嵐剣のセヌスが迎えに向かいました」





「そうかそうか。それなら明日にでも連れ帰るだろうな」



 水をやっていた長耳の男は、従者から差し出された王冠を被る。




「――さあ、再建芽吹きの刻だ」



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