##74 怒りの拳
巨大な聖剣が迫る。
私は貸し与えられた【
光と光が衝突する。
「な!? なぜなの! 大聖剣は聖剣77本もの力があるというのに――!」
「私の気持ち一つ分が、貴方の野望を……上回っただけ!」
貫かれた喉を震わせて私は吠えた。
こんなにもなって喋られるのは、やはりレベルが上がっているからだろう。
徐々に私の拳が大聖剣を押し退けていく。
「子どもの夢を、明日を、踏みにじるやつに私は負けない! たとえこの身がぼろ雑巾になろうとも、私がこの手で貴方を仕留める……!」
「ッ!」
プリエットの顔に恐怖が染み込んでいるのが見える。押されているのを見て、慌てて距離をとろうともしている。
しかし、それは叶わなかった。
狩人の光が腕のように伸びて彼女を掴んだのである。
「――――はぁあ!」
集まらせただけの聖剣を砕き、拳の形をした光はプリエットを穿つ。
狩人の矢の如く、どこまでもどこまでも獲物を捕らえたまま
横からさらに眩い光が合流し、そのまま地の上まで引きずっていった――――
◇ ◇ ◇ ◇
聖剣が並び立つ丘にて。
私とパナセアさん、機械悪魔を掃討してくれていたサイレンさんとコガネさんは話し込んでいた。
決着から1、2時間経過し、
現状、聖剣化した者を元に戻す方法は不明だ。
もしかしたら戻す以前に既に命は耐えているかもしれない。
唯一の救いは、設計図を書いたのが技神という謎の多いの存在くらいだ。もしかしたら解決法もどこかに記載されているかもしれない、といった甘い希望を抱くことができる。
それでも、世界中に散らばった彼の書物を集めるのはいい一筋縄ではないだろうが。
「それで、具体的にどないするん?」
沈黙を破ったのは気の利く女、コガネさんだ。
「パナセアさんの思うようにしてもらって」
「まあこの中だと1番大人だしねー」
「ふむ……最初に着手すべきは法整備の改革かな。今回のようなことが二度と起きないようにね」
そしてその次は、と内部から変えることを話し始めた。私たちはそれをふんふんとそれなりの理解度で頷きながら何となくのイメージを膨らませていた。
そこに
漆黒の鱗を纏った凛々しい竜、ウイスタリアさんである。背中にはどらごんが乗っている。
それを出迎えに私の足からはンボ子が出てきた。私の不機嫌度合いにビビって避難したかったのだろう。
「死にかけの修道女が死んだのは確認したぞ」
〈どらごん〉
「そうですか。ありがとうごさいます」
帰りが遅いとは思っていたが、わざわざ地上まで先回りしていたようだ。彼女の割に頭の回る――いや、これはストラスさんの入れ知恵か。
彼の姿は見当たらないが。
「あれ、ストラスはんは?」
「まったく、置いてきたんじゃないよね〜?」
「彼の身のこなしなら飛び降りても平気だと思うが……」
「……」
ウイスタリアさんの表情から何となく察した。
あれは喧嘩して拗ねた子どもの顔だ。
「ウイスタリアさん、大事なことです。簡単な説明でも構いません。話してください」
「……はぁ、あのバカなエルフは帰ったのだぞ」
帰った、ねぇ。
なら別にいいか。帰る場所があって、本人が帰りたいなら無理に引き留めるのも違うだろう。
「急やなぁ」
「何か言ってました?」
「…………あんなやつ知らないのだ」
頑固なことだ。
まあそうもなるか。彼女は親友にも幼なじみにもまともなお別れもできずに終わったんだ。
仕方ない。気晴らしがてら一応挨拶くらいしに行こうかな。
「パナセアさん、挨拶もできないアホを引っぱたきに行きます。いいですかね?」
「フッ、ああ。私の分まで往復ビンタにしておいてくれ」
「じゃあぼくもここに残って手伝うよ」
「うちもうちも! 内政編はやっときたかったんや!」
かくして、パナセアさんとサイレンさん、コガネさん、癒しのペット枠としてンボ子も置いて、残りのメンバーでストラスさんの故郷――エルフの森へ向かうことにした。
パナセアさんは政治家とかではないが、この場において学が一番あるのは彼女だから一任しても問題は無いはずだ。
大きな諸問題の解決が終わり次第、合流してくれるらしいし、どっちが先に終わるかの勝負にもなりそうである。
もちろん引っぱたくかは彼の返答次第。
まあ、ウイスタリアさんの反応からするに――――
八割くらいパーがグーになりそうだけど。
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