###1 懐かしい顔ぶれ
「――ぷはぁ……冬も、炭酸で爽快に。四ツ谷サイダー!」
「はいカットー! いやー、完璧ですね。ありがとうございましたー!」
世界樹騒動から4日目。
バイトついでにV&R合同会社の直接的な上司である室長に昨日のうちに掲示板でやってた安価のお手伝いに関係する、VR機器のオリジナルデザインと清涼飲料水のことを相談したら快く両方引き受けてくれた。清涼飲料水のことに関してはもともとSNSのDMでお誘いがあったので、VR空間を使って“ミドリ”のアバターでやる許可が欲しかったのだ。
そうこうして今日には撮影まで済ませ、その後パッケージのいじくり会議に参加するといった予定である。
◇ ◇ ◇ ◇
たまにはちゃんとした供給をと思ってやってみたが、結構大変だ。
マネージャーとかが居らず、自分で全部管理しているのだから当然と言えば当然だけど。
軽くおやつを食べてから、私はいつも通りAWOにログインした。
「こんちゃいすー」
「もはや原型があらへんなぁ」
ログイン早々コガネさんが出迎えてくれた。
今は帝都の宿に居て、私だけお城に来て良いと皇帝であるジェニーさんから伝えられているので、予定が済んだ今から向かうのだ。
「パナセアさんは?」
「昨日借りた実験用の部屋を爆発で吹っ飛ばしたさかい、修繕に手間取っとるらしいで」
……それはもうただのテロリストでは?
怖い怖いと言いながら、私は身支度を整えてジェニーさんが待つお城へ向かうことにした。
といっても、私の迷子癖を知ってか知らずか馬車による送迎だから楽々である。
「わぁお」
一度この豪勢なお城には入ったことはあったが、あの時はシフさんにドナドナされていたから、改めてその金に糸目を付けないド派手さに驚嘆していた。
そうこうしているうちにジェニーさんが待っているという部屋に案内された。
「久しいのう、ミドリ」
「どうも、お久しぶりです」
部屋に入ると、ジェニーさんがソファに座ったまま出迎えてくれた。皇帝陛下自らの歓迎なんて帝国の民からしたら垂涎の立場だろう。そう考えると、私もなかなかすごい人間関係を築いているように思えた。
「貴様も挨拶くらいしたらどうなのじゃ?」
「そ、そうですよねぇ。お久しぶりですっ、ミドリさん。く、クリスですぅ……」
ジェニーさんの対面のソファに座っていた女性が私の方に振り向きながら挨拶した。
片目を覆う眼帯、控えめな口調。それほど前のことではないというのに懐かしい。
「お久しぶりですね。クリスさんはどうして
彼女はここから北にある連合国の……騎士の娘さんだったはずだ。あの時の騒動の後、奈落行き列車に連れ去られて以来になる。
「お、お仕事で交易に関する話をしに……」
「なるほど。だからお城に。あれからどうです? 皆さん元気にやってます?」
「ほ、本当にお陰様で穏健派の勢力も増してきて、みんな元気ですぅ」
よかったよかった。
……とまあ懐かしい二人と再会できて嬉しいのは確かだが、今回私がここに呼ばれたのはそれだけではないだろう。ジェニーさんは私を向かい側、クリスさんの隣に座るよう促した。
「さて、ミドリの方はともかく、連合国がどれほどの情報を得ているかは知らぬが――邪神教とやらの存在は知っているじゃろうな?」
「じゃ、邪神教……
まあ妥当なところだろう。
触らぬ神になんとやらではないが、目立った活動範囲が王国周辺で被害が出ていないなら変にヘイトを買う必要はない。
「だ、そうじゃよ。ミドリ?」
「なぜ私に……ん? もしかしてジェニーさんも邪神教に関しては無視する感じですか?」
「その通りじゃ。少し外せない野暮用を頼まれたからのう」
「貴方が頼まれごとを?」
命令するなとか言って断りそうなのに。
一体どこのどなたにこんなタイミングで頼まれごとを。というか――
「ジェニーさんなら軽く処理できるのでは?」
「流石にヤツも消耗しているらしいのじゃが、【傲慢】無しで渡り合うのは骨が折れるかのう」
「ヤツって誰のことです?」
「――ソフィ・アンシルじゃ」
その名を聞いて、私は単純に驚いた。
確かにジェニーさんであればある程度戦えるかもしれないが、そこまで彼女が肩入れする理由は無いはずだ。
「どうして急に……?」
「質問ばかりじゃな。ま、分からんでもない。順を追って一から話しておこう」
そうしてジェニーさんは時系列に沿って語り出した。
ソフィ・アンシルが最後に地上に来て、ジェニーさんから【傲慢】を奪った魔大陸の決戦の日からしばらくして、彼女の前に時間神は現れた。
いわく、ソフィ・アンシルにこれ以上地上を荒らされないように特殊なスキルで閉じ込め、何とか時間を稼いでいるとか。
そして直にその閉じ込めている神殿もタネを解明されて出てくるとか。
――そこで、出てきたタイミングでジェニーさんに代わって欲しいらしい。
「時間神の目的というか、時間稼ぎをしてどうしたいのかいまいち掴めませんね……」
「
何が無粋なのかは皆目見当もつかないが、無理に知る必要はないようだ。まああの胡散臭い神の目的はともかく、ソフィ・アンシルがちょっかいをかけて来ないようにしていたのは有難い話だ。
「な、何のお話かはさっぱり分かりませんけど、頑張ってくださいっ!」
私が思考を巡らせることによって生じた沈黙に耐え兼ねたクリスさんがとりあえず場繋ぎ程度の応援をしてくれた。
「そうですね、頑張ります」
まあ邪神教くらいなら現状の戦力で何とかできるはずだ。たとえジェニーさんが助太刀に入ってもソフィ・アンシルに漁夫られるのが一番最悪のパターン。それを避けることができるのなら彼女が戦力から外れてもお釣りがくるレベルである。
私がそんなことを考えながらやる気を滾らせていると、ノックの後にジェニーさんの従者――モニアさんが入ってきた。彼女とも魔大陸の決戦ぶりだ。確か【節制】のスキル持ち、
「モニアさん、お久しぶりですね。元気そうでなによりです」
「ええ。陛下の庇護下で元気でない方が不敬ですので」
相変わらずの忠臣っぷりに若干引きながら、彼女が手にしている小さな箱に目を移す。
いかにもいかにもな宝箱である。
「モニア、渡してやれ」
「は」
気になっているのがバレたのか宝箱を差し出された。私はおずおずとそれを開ける。
「これは――」
羽根ペン、だろうか。
一見、金の羽根の先に漆黒の金属か付けられたペンに見える。
しかし、私がこれをペンだと確信できなくさせる程の
「箱の中に鑑定結果の記しが入っておるからちゃんと目を通しておくんじゃぞ」
「ありがとうございま……」
私はその鑑定結果を見て言葉を失った。
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格:準神器級
保有技能:
【変形】・・・筆から鎌へ、その逆にもなる
【巨人殺し】・・・巨人への超特効
【首狩り】・・・首への攻撃時に特効
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そう、あまりにも物騒な性能をしているのだ。
これはもらってしまっていいのだろうか。準神器とか書いてあるし国宝とかそんな感じのやつではないだろうか。
「なぜそれにしたのかは、妾の【直感】じゃ。妾にも理由なぞ知らぬ。上手く使うがよい」
「えっと……こんな凄い物を頂いちゃっていいんですか?」
「うむ。そう気にするな。妾からしてはおもちゃじゃからのう」
「では、ありがたく貰いますね」
これが必要になるのかは分からないが、貰えるものは貰っておくのが私の信条。使いやすいようにポケットに仕舞っておいた。
「さて、要件は終わったことじゃし……お主らの冒険の話でも聞こうかのう?」
「さ、賛成ですぅ! あたしも気になりますぅっ」
「では、お茶に合うお菓子も持ってきます」
「おお……高貴なお茶会ってやつですか!」
それから夕方頃まで、私たちの冒険の話をしたり、一向に誰も話題を持っていない女子だけの恋バナをうちの
記念にとクリスさんにも“職業”をあげたりもしたりね。
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