###32 車で
「しまった」
寝過ごした。
昨日あれからパナセアさんが祭壇を盗みに行ったりミースさんとハクさんが村人と対話しに行くのを見届けた私は、学校のこれから出されるであろう宿題を先にやっておくために勉強しにログアウトとしたのだ。
といってもやったのは共通テストの過去問やら志望校の過去問を解いただけだけど。
そして早めに寝たはいいが、思ったより熟睡していたようで現在時刻は10時半。ゲーム内チャットに通知が来ている。
「おっと……?」
パナセアさんから逐次連絡が来ていたようだ。
順番に読んでいこう。
〈盗んだなう〉
〈なんか揉めてるみたいなう〉
〈村人が農具持って殴り込みに来たなう〉
〈ログアウト中の人とぐうすか寝てるウイスタリアくんを車に放り込んで爆走なう〉
〈ハクくんが運転代わってくれたけど谷に落ちかけたから代わったなう〉
〈徹夜なう〉
〈パンクしたなう〉
〈眠いなう〉
〈盗賊なう〉
〈殲滅なう〉
〈休憩なう〉
〈ログアウトするなう〉
〈仮眠したなう〉
〈私以外誰もまともに運転できないなう〉
〈歩くなう〉
〈ウイスタリアくんが道端のキノコ食べてゲロなう〉
〈眠いし本格的に寝るなう〉
〈あとは任せたぜなう〉
古いとかいう典型的なツッコミはしないでおこう。それにしてもかなりの負担を強いてしまったようだ。ログアウト中の体は残る仕組みだから余計に。
私は運転できたけど他の人達はハンドルを握らせられないタイプらしい。ミオさんやミースさんって大人だよね? 無免なのかな? まあ今どきそこまで珍しくはないだろうけどさ。無人タクシーも増えてきてるし本人確認はマイナンバーあるし。
「重役出勤なう、っと」
さっさとご飯を済ませてログインしよう。誰に運ばれているかでボロボロになってる可能性もあるし。特にウイスタリアさんあたりだと引きずられて禿げてるまである。
◇ ◇ ◇ ◇
ログインすると、私は車のフロントガラスに放られていた。そしてそんなパナセアさんの車を軽々と綱で引いているウイスタリアさん。私の他にもログアウト中の人はこの上……あれ? 私以外車の中にある。もしかして私虐められてる?
「お、ミドリが起きたぞー!」
「ミドリはーん! この寝坊助!」
「どれだけ大変だったことか……私寝るから」
「ハクが寝るならミオも寝てきたらどう?」
「そうする。ミースは……さっき来たばっかだし残るとして……あ、ミドリが運転できるなら結構みんな休憩してもよさそうね」
そうしてログイン中のメンバーで残ったのは、私、ミースさん、コガネさん、唯一の現地人のウイスタリアさんの4名である。
他のメンバーは夜中頑張ってくれたらしい。面目ねぇ。そして君たちは私と同類ということだ。
仲間、好き。
私は運転席に乗り込んだ。
結構な大型だけど果たして運転できるのだろうか。
とりあえず適当にいじって発進させた。こういうのは大抵造りが似てるから何となくで動かせるようになっているのだ。知らんけど。
「道が整備されてるって素晴らしいですねー」
「基本ガッタガタやったやもんなぁ」
「トゥルトゥルなのだ!」
「トゥルトゥルだねー」
運転席に私、助手席にコガネさん、後部座席にウイスタリアさんとミースさん、3列目と4列目にログアウト中の人達をぎゅうぎゅうに座らせている。
基本的に真っ直ぐ道なりに行くだけなのでのんびり雑談しながら車を走らせていると、30分くらいした頃だろうか、前方に別の車が見えた。
ちゃんと自動車である。
「自動車があるってことはこの国結構進んでますね?」
「フルダイブVRとかはまだ無さそうだけどゲームもあるんだよ」
「そのうち追い越して現実への逆輸入とかになったらおもろそうやな」
「げぇむ? なんだか面白そうな響きなのだな!」
ん? よく見たら煙出てない?
それになんだか壁が不自然に乱立しているというか……ああいうの最近見た気がする。
なんだったかな…………あ! 迷路だ! ペアの本戦でハクさんミースさんが1回戦で戦ってた迷路と毒のバトルスタイルの変な人達!
ということは戦闘中だろうか。どれ、助太刀のため窓を開けて速度を上げようか。
「――新手か!」
「いや、この辺じゃ見ない車だし通りすがりの車だろ」
よかった。敵認定はされなさそうだ。
私がホッとしていると、故障した車の中からプラチナでできていそうな美しい全身鎧を纏った人が出てきた。
ソロで大暴れしてたコピー系全身鎧少女(年上)の白金さんだ。
彼女はゆっくりと手を上にかざした。
――手刀の構えで。
「脱出!」
緊急離脱ボタンをカバーごと粉砕して起動させた。全席綺麗に吹っ飛んで離脱する。直後、白金さんの手刀が私たちの乗っていた車を真っ二つにした。
果たして廃車になったパナセアさんの車は何台目だろう。なんかごめんね。
「あ、リーダーやっちゃったな」
「敵じゃないですっと」
彼女の傍らに居た2人はメニューを開いて何かを打ち込む動きをしている。あの至近距離でメッセージを飛ばしているのだろうか。
すると白金さんは警戒を解いてくれた。
一応私たち結構有名だと思ってたけど姿を見せても分からないものなのだろうか?
重そうな鎧をものともせず歩み寄ってくる彼女はストレージから小さなボードを取り出した。
ボタン一つで書いたものを消せる、電子メモとかに使われるあれだ。
そこに何かを書いてこちらに見せてきた。
《五感が使えないので》
「え?」
何か事情がありそうだ。
《フレンド登録してメッセージでお願いします》
「わかりましたーってこれも聞こえないか」
『プレイヤーネーム:白金にフレンド申請されました』『フレンド申請を承認しますか?』
もちろんイェス。
『プレイヤーネーム:白金とフレンドになりました』
受け入れてくれたと安心したのか胸を撫で下ろす白金さん。まあ初手勘違いにしろ攻撃してフレンド申請して相手の反応も確認できないとか不安になる要素しかないからね。
ひとまず唯一車を持ってるパナセアさんがログインするまでここでお話して待つとしようかな。
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