###33 白金
◆ ◆ ◆ ◆
「ここが……
プレイヤーネーム:白金の種族は上人、人間の正統な進化転生先の種族であった。なので初期リスポーン地点が天空国家クーシルなのだが、この時の彼女は知らない。
それから高レベル帯にも関わらず持ち前の
『条件を満たしました』
『神格“空間神”を獲得しました』
そこで彼女は適正者として空間神の力に目覚めた。しかし、そんな便利な力が見逃されるはずもなく――
切り札にして自身の武器を取り上げられた白金は、それはもう盛大に萎えていた。
「早いけど引退しようかな……」
町を一望できる砦の上で、夕焼けを眺めながら彼女は黄昏ていた。そこに黒と金の全身鎧の人物が並んだ。
その者は賢者の配下であり、家族を人質にされて戦神アテナの神格を植え込まれたのだと言う。女性に監視の目は無いが行動は契約によって縛られているらしい。
「私には6人の妹が居た。歳の近い子から赤子まで。だが、それもこれも彼女の介入で離れ離れになってしまった。上手く逃げて地上に逃げ延びたとは思うが……心配だ」
「そうなんですか……」
「しかし私の一個下の妹はここに残った。それで……死んでしまったんだ。私は運命を呪った。しかし、それでいいはずがない」
奪われて黙っているだけなのかと自身にも問いかけるように白金に語りかけた。
「――君の、神にまで到れる力を見込んで頼みがある」
「頼み?」
「私を倒して欲しい。異界人は強い。だからきっといつかあの御方を倒さんと立ち上がる者も現れるだろう。その時、私が立ちはだかるから――あの御方に次いで強い私を倒して欲しいんだ」
「わかりました!」
白金は生粋のゲーマーである。
目の前にやりがいのありそうなクエストがあれば飛び込むのも当然だ。
しかし難易度は並々ではなかった。
「これを」
「これは……鎧?」
女性の色違いのそれを渡された白金はジッとそれを観察した。
「過酷な道だが君なら必ずやり遂げられると信じている。どうか、頼む」
残された白金は鎧を装備し驚愕した。
視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚の全てが無くなったのである。声も出ないようだ。唯一認識できるシステム的なメニュー画面を触って【武器鑑定】を使ってみるとまたもう一段と驚くことになった。
{
ランク:神器
特定使用者:白金
スキル
【戦の申し子】ランク:ユニーク
一度見たスキルを記録して自在に使用できる。スキル名を告げず発動可能になる。
【神の出る幕か】ランク:ユニーク
五感と声帯が封じられる。これを解除するには装備を解除するか神器の解放が必要である。
【神器解放】
詠唱:『旗を掲げよ、世界の終焉に最強は立ち上がる。深淵の縁にて白金の輝きを捧げよう』
効果:【神の出る幕か】の連続効果時間に応じて全能力を上昇させる。五感が使えるようになり、全ての感覚器官が強化される。特定使用者特有の剣を鞘から取り出せる。
現在連続効果時間:36秒
デメリットが重い神器だったのだ。
しかし、白金は鎧の中でニッと笑った。
彼女は生きた人間、特にプレイヤーとのコミュニケーションは苦手だが一人だと強いタイプの人間だ。五感が無くなり常人は発狂しかねない状況を受け入れ、第六感だけでやっていくことにしたのだ。
もはや化け物とも言える第六感を使いこなす彼女の目的はただ一つ。
――恩を返すこと。
そのために彼女は戦神の力を持つあの者を倒すのだ。そのためなら不便さなど目もくれない。
それが白金の、この世界での使命なのだと自負したのであった。
◆ ◆ ◆ ◆
「――だそうです」
私は白金さんからメッセージでお聞きした内容をみんなと共有した。五感が使用不能とかとんだ呪いの装備な気がするが、スキルのコピーもあるし……いやいや、五感が使えないと普通なにもできなくなるよね。魔物よりモンスターしてるよこの人。こわぁ……。
「しかし白金さん達もネアさんのところと組んでいるとは。確かに目的も知った今では納得です。頼もしい」
少なくともソフィ・アンシルの次に強いと自称する戦神の相手を任せることができるのは大きい。
そのままの流れでパナセアさんが戻り、一同揃って新しい車でネアさん達が待つこの国の首都、クーレリアへ向かった。
尚、真っ二つになった車を見て号泣するパナセアさんを宥めるのと罪悪感に
◇ ◇ ◇ ◇
「……」
「……」
ポチポチ。
カタカタ。
運転はパナセアさんがやってくれているので、私と白金さんは隣同士に座ってメッセージでやりとりしていた。お互い無言だが、他愛のない雑談しかしていない。
〈なんでスーパーマーケットってスーパーマーケットなんでしょうね? 超市場って結構自信過剰過ぎません?〉
〈たしかに……! なんでなんだろうね?〉
〈その点フリーマーケットって自由な市場ってちゃんと弁えてるから好感が持てます〉
〈フリーマーケットは確か蚤の市って意味だからfreeじゃなくてfleaだったと思うよ?〉
〈なんですと! 騙されました。では今回の戦いはスーパーの勝ちということで〉
〈勝負してたんだ……〉
こんな感じに。
いやー、なかなか仲良くなれた気がする。リンさんの学友らしいし、私の先輩にあたる人だから今のうちに仲良くできるのはいいことだ。
そして会話(メッセージで)していて何となく感じたのだが、白金さんはおそらくコミュニケーションを面倒だとか苦手としているのではなく、話しやすい人以外は話さないタイプのコミュ障なのだろう。話の通じない人や自分の感覚を理解できない人とは関わりたくないと思ってる強かな人間だ。自覚はなさそうだけど。
その点私はいたって普通の女子高生なので話しやすいのだと思う。別に私が変人だから変人同士波長が合うとかそういうのではないはず。
「みんな、目的地――生者の癒し処へ到着したよ」
パナセアさんがそう言って車を停めた。
白金さんとのお喋りに夢中になっていて気付かなったがいつのまにかクーレリアに入っていたようだ。
窓から景色を眺めると、そこはまさに日本そのものであった。ビルやコンビニ、電線のようなものがあってとてもファンタジー世界とは思えない景色。そしてこの車が泊まっているのはいかにも個人経営っぽい喫茶店だった。貸切のため休業と書かれた電光掲示板が置いてある。
〈着いたみたいですよー〉
〈やっぱり? ネアさんの気配を感じたからそうだと思ったよ〉
ネアさんともやはりちゃんと面識あるんだね。
しかし……
◆ ◆ ◆ ◆
「……」
「……」
〈えっと、よろしくお願いします〉
〈ん〉
「……」
「……」
◆ ◆ ◆ ◆
やばい、会話が続いている想像ができない。
というかネアさんから話しかけることなんて業務連絡くらいしかなさそうだし会話弾まなそう。
そんなことも想像しながら、私たちは車から降りて喫茶店に入っていく。
「おそーい!」
「やっと来たでやんすね!」
中ではトーストを頬張っている吸血鬼のシロさん、新聞を読んでる下っ端
「……いらっしゃい」
「おかえりなさいませ、お嬢様方! ご飯にする? お風呂にする? それとも、
そしてカウンターで巨大な入れ物にコーヒーを注いでいるネアさんと、ターキーを運んでいたマツさん。
相手にするのが面倒なマツさんを一同無視して、それぞれ適当に席についた。戦闘狂め。イベントのリベンジがしたいと特に私に絡んできたが、運ぶのを手伝うと誤魔化して有耶無耶にしてやった。喫茶店で物騒なことを言うんじゃありません。――あれ? ここの喫茶店って誰かの知り合いのお店なのだろうか?
「……ここ、私の店」
私の思考を読み取ったようにネアさんが教えてくれた。なおさら暴れたらしばかれそうだ。
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