###34 対賢者同盟
「……この人数…………勝手にアレンジして」
そう言ってネアさんは自分特製の大量のコーヒーをドリンクサーバー的なものに注いだ。こういう時のために用意していたのだろうか。
各々コップを手に順番にコーヒーを入れて好きなように砂糖やミルクを入れていく。
私は白金さんのオーダー通りのブラックと、自分用の砂糖多め、ウイスタリアさんのミルクのみのものを用意した。パシられているわけではなく、白金さんがウイスタリアさんの似顔絵を描いて遊んでくれているので代わりに持ってきているだけだ。私が撮ったスクショを参考にね。
会議中はウイスタリアさんの暇つぶしの相手をしてくれるらしい。ありがたやー。
「……作戦は直前…………準備の指示を出す」
具体的な作戦は直前に伝達し、今回はそれまでの指示を出すらしい。こんだけ大所帯だと情報管理が大変になるから、敵を欺くには味方からというやつだろう。
それからネアさんはコーヒーを口にしながら、もんのすごいスローペースでクーシルでの活動指針を割り振っていった。
新参者である私たち〘オデッセイ〙以外は既に割り振られた役割をこなすらしい。
そして当の私たちだが――
「クーシル総合学園、ですか?」
「……それぞれの強化、それと敵の視察」
パナセアさんはその学園の助教授として、私とウイスタリアさんは一般生徒として潜入するらしい。
敵の視察というのが何かを聞いてみたところ、どうやらソフィ・アンシルの直属の部下の中でも精鋭を集めた〘ツィファー〙という集団の一員が教師をしているらしい。敵情視察に近い任務というわけだ。
そしてサイレンさんもどうやらアイドルデビューするらしい。芸能界のトップに歌手として〘ツィファー〙の一人がいるから接触するためのようだ。
コガネさんはというと、この国にいるであろう彼女の友(チワワ)のライラさん、そして私とマナさんの愛の結晶(語弊)のファユちゃんを捜索するらしい。公国でこちらに転送されているはずだからありがたい。私も学生としてやっていきながらそれとなく探そうかな。
あの時の【魔弾】使いの反応からして少なくとも害を及ぼすつもりはないだろうが、必ず奪還してみせる。
「ん」
「これは……学生証ですか」
「変な板なのだ」
「証明写真つけて……あとこれ」
編入手続きの書類を受け取り、その場でネアさんが用意した住所を書いたりして埋めていく。
どうやらこの喫茶店の常連さんが学園のお偉いさんらしい。完全にコネですありがとうございました。
「では冒険者ギルドに行って素材の報酬で手持ちを増やしてから本格的に動くことにします」
「ん、そのうちまた連絡する……来てもいい」
他の人達は冒険者として実力をつけたり同志を探すらしいが、こちらはこちらでしっかり情報を集めるとしよう。
「では、早速懐を温めてから証明写真の撮影と書類の提出に行きます」
「あ! まだ“あれ”やってないでしょう!」
「チッ……」
マツさんがネアさんに何かをやらせようとしている。ものすごく嫌そうな顔だ。何? 萌え萌えきゅんとかしてくれる感じ?
「…………世界を憂う者よ、対賢者同盟へようこそ」
「あ、はい」
「よろしゅうなー」
「せいぜい働くとしよう」
「あんまり憂えてる人はいない気がするけどよろしく」
「よく分からんがよろしくなのだ!」
「……風の刃よ『ウィンドカッター』」
「【鬼拳】!」
小っ恥ずかしいセリフを言わされた照れ隠しなのか攻撃しだし、それをかき消すマツさんを尻目に私たちは喫茶店をあとにした。
◇ ◇ ◇ ◇
私とウイスタリアさんは今、クーシルが誇る学術の園の応接室に座って理事長を待っていた。ちゃんとリスポーン地点の更新もしてある。
ここまで案内してくれた人が出してくれた紅茶を飲みながら少しの間待つことになっている。ウイスタリアさん? 当然暇になって私の膝で眠っているとも。髪の毛サラサラでほっぺたムチムチでかわいい。ムニムニ……
「ふへへ」
「店主から話は聞いているよ…………えっと、話しても構わないかね?」
「ああどうも。お構いなく」
理事長らしき老人が入ってきた。
私のなでなでスキルに圧倒されたようである。奇行にドン引きしているようにも見えるが私の見間違えだろう。
「君達も大変だったろう」
「ん?」
「おふたりは幼なじみでご両親同士の転勤で田舎へ行くことになるもその町が反逆の龍によって滅ぼされ逃げ延びたと聞きました。いやはや大変な目に遭われましたな。しかしここは賢者様のお膝元、安全性なら世界一なので安心してお過ごしください」
「どもー」
「Zzz……」
なんか適当なカバーストーリーを吹聴していたようだ。さすがネアさん、きっとあの無表情っぷりで口から出まかせだと悟らせなかったのだろう。
よ、詐欺師!
……なんか寒気がしてきたからこの辺にしておこう。あの人ときどきエスパーな節があるからね。
「まあそういうわけですしこれお願いします」
「学費の方は……」
「それなら冒険者登録してあるのでそちらの口座から――」
と事務的な手続きをして編入できた。
試験とかは必要ないらしい。金さえあれば来る者拒まずのスタンスみたいだ。
とりあえず明日からここに通えるようなので、さっさと制服を受け取ってパンフレットを読み込んで学生の権限を確認する。
「大図書館の研究棚まで、授業の過程でなら大図書館迷宮……図書館にダンジョンがあるんだ……それと学食と、あとは――」
とりあえずファユちゃん達の捜索とソフィ・アンシルとそれ関連の情報も集めたい。
眠ったままのウイスタリアさんをおんぶして、適当なホテルにしばらく宿泊し続けるようにした。
学生の数も多いようで寮はないので学校に近いホテルがいちばん便利なのだ。まあそんなに長期的に潜り込む訳でもないから金銭的な問題もそこまで無い。
「出前もあるみたいですしとりあえずジャンクなフードを頼むとしましょうか」
「――! ご飯なのだな!?」
ご飯のことになるとすごい反応だ。
どうか食費で破産する前に作戦が始まることを祈ろう。最悪ネアさんに土下座してお金を借りるかダンジョンでひと稼ぎするかしよう。
「ピザとかハンバーガーとかありますけど何にします?」
おんぶはしたままホテルに向かいながら背中の幼女に尋ねる。
「――あるだけ全部なのだ!」
知 っ て た。
ともかく。こうしてファンタジーな世界で学生の身分を獲得した私たちは、調査の傍ら日常を過ごすことと相成ったのである――
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