###各方角の戦い###

 これは大陸の結界解除直後の各方角の様子。


 ○●○●○


 ――北、美術通りと呼ばれる場所。

 絵画のような兵隊が巨大な麻雀牌に押しつぶされていた。


「【ツモ】! 跳満!」

 〈【大地の悲鳴】〉


 麻雀で戦っているのがぽんぽんいーしゃん、地面を粉砕して敵を吹き飛ばしているのはネアが作った四獣が一つ玄武である。


「はぁはぁ……キリがない……!」

 〈しかしこの耐久もネア様のご命令。じきに応援も来よう〉


 1人と1匹で持ちこたえるくらいには強いのだが、それでも敵の物量に消耗しつつあったところ、待ち人が屋根の上からやってきた。



「我は幻想を啄む者〖エンチャントファタズムスレイヤー〗我は髪を殺す者〖エンチャントゴッドキラー〗――【チェイン】【ホーミング】」



 サことサナの斬撃によって万単位で行軍していた絵画の兵隊は一掃された。

 その上隠れていた〘ツィファー〙の第七席も自動で追尾して倒してしまった。


「あれ、このレベルアップ……仕留められたみたい。でもなんだか――」


 サナの心配は的中した。

 筆神が死亡したことによって絵に封印されていた数々の凶悪犯罪者や魔物が出現した。



「まだ仕事はありそうね。あなた達、まだ戦える? 確かぽんぽんちゃんと玄武さんだよね?」

「はい! 戦えます! ぽんぽんいーしゃんです!」

 〈無論だ〉



「じゃあちゃっちゃと片付けて他の加勢に行くわよ。我は悪を摘む者〖エンチャントヴィランスレイヤー〗」

「了解です! 【配牌】……ツモってツモってと【ポン】!」

 〈【岩石砲】〉



 多対一が得意な2人と1匹はレベル的には格上の相手に一方的に無双するのだった。



 ○●○●○


 ――南、比較的手薄な商業ビル群付近。


「メリッサ!」

「はい! 【剛腕】! 【クラッシュハンマー】!」


 数百人の公安部隊と次期〘ツィファー〙として期待されている〘キンダー〙と交戦しているミオ、メリッサ、ネアが作った四獣の一つ朱雀。


「【曲射】!」

 〈【高貴な炎】〉


 彼女らは遮蔽物から攻撃してすぐに別の場所へ走る。銃器を持った相手がたくさんいるため攻めどきを測っていたのだ。



「おー、わんさかいるな。って大会にいた弓女じゃねぇか」

「す、助太刀に来ました……」

「白金はんの素顔、かわええなぁ」

 〈――!〉


「……ミオよ。急に騒がしくなったわね」

「え!? 白金さんなの!? カワヨ!?」



 鎧を失ったとはいえ、プレイヤースキルは抜群の白金と、コガネがいるため南側が負けることはないだろう。

 こちらも一方的な無双が始まるのだった。


 ○●○●○


 ――東、冒険者ギルドの本部付近。


「くそっ! ギルマスはまだか!」

「あの筋肉野郎は今向かってるらしいぞ! 持ちこたえるんだ!」

「見えねぇ……かはっ!?」


 ここ一帯は夜。

 極夜人という絶滅した種族のプレイヤー、リューゲのスキルで夜の神ニュクスを喚び出して夜にしたのだ。

 明かりをも包む夜の中、吸血鬼の真祖シロが大鎌ひとつで手強い冒険者を一蹴していく。


「なははは! 弱い弱い!」

 〈声を出しては奇襲にならんだろう! 【蒼き咆哮】!〉



 ネアの四獣、青龍も夜に紛れて蹴散らしていく。

 リューゲは神を喚び出した反動で動けないが、難関と思われた冒険者達は吸血鬼と作られた存在によってボコボコにされていた。

 ――彼が来るまでは。



「【天砕あまくだき】!!」


 夜を玉砕しながら現れたのは、〘ツィファー〙第八席、アハトである。

 筋骨隆々の大男は豪快に笑う。



「うちのモンが世話んなったなァ?」


 そして瞬く間にシロに肉薄して強烈なボディブローを叩き込んだ。



「っうぐ……」

 〈シロ――ッ!〉


 さらに青龍も軽く吹き飛ばしてみせた。

 〘ツィファー〙としての位階は低めだが、一つ上のジーベのように絵画で賢者を描いて素晴らしい作品を作り上げたりといった貢献度が低いだけで実力は本物なのだ。



「反撃開始といこうか」

「――【暗撃】でやんす!」



 リューゲが反動をポーションで回復して手刀で奇襲を仕掛けた。普通の敵なら容易に背骨を砕ける一撃がクリーンヒットしたが、アハトはなんてことないように反撃の顔面パンチを浴びせた。

 吹き飛んでいくリューゲをシロは後頭部を鷲掴みしてキャッチした。


「青龍、ザコは任せていい?」

 〈……さすがに正面から手練の集団は厳しいな。そう簡単にやられるつもりもないが〉

「いったぁい、でやんす……増援は回復ついでに呼んだでやんす。たぶんもうすぐ――」



 紫電が走った。



神薙かみなぎ流奥義・気炎万丈きえんばんじょう

「――っ! いい剣だ! 俺の最硬の腹筋に切り傷をつけるとはなァ!」



 リスポーンしたヨザクラがリューゲの全体報告を確認して駆けつけた。近くの冒険者達とアハトに一太刀入れてすぐに距離をとる。



「そちらは任せても?」

「当たり前よ! その代わりザコ共をよろしく!」

「でやんす!」


「了解。青龍、今の私……結構明確な指標が見えてやる気がみなぎってるから全員斬ってしまうけどいい?」

 〈やれるならやってくれ〉


 青龍とヨザクラは武器を構えた冒険者の軍勢に突っ込んだ。それに合わせてシロとリューゲも仕掛ける。


「【全制約解除】」

「【脂肪格闘家ファットファイター】でやんす!」



 シロは煌びやかなドレス姿に、リューゲは全身が膨れた姿になった。

 そしてアハトの消耗の少なさから長期戦は不利だと悟って即座に勝負に出た。




「【アビスブースト】【満月切り】! 死になさい!」

「【脂肪偏重】【脂肪消費】【手槍】でやんす!」


「面白い! 【孤高の王】【ツインインパクト】!」


 互いの本気がぶつかり――物理攻撃をすり抜けるバフがあるシロが敵の攻撃を無視してその大鎌で致命傷に至らせた。

 しかしこの場は互いに時間稼ぎが目的。決着がつくまで、己の身が擦り切れるまで戦いあうのだった――



 ○●○●○


 ところかわって西地区、クーシル総合学園近辺。

 〘ツィファー〙の第六席にしてミドリたちの担任をしているゼクスが白金がリーダーを務めている〘プラチナハート〙のメンバー2人と、ネアのつくった白虎を完全に無力化して光の檻で捕縛していた。



「白虎か……ふむふむ、実に歪で興味深い生命体だ。そうは思わないか、シリウスゼクス?」

「その名で呼ぶんじゃない。それにそこの虎は――」


 メガネをクイッと上げているゼクスは、生徒達の避難を済ませた種族学のレガレットの好奇心旺盛な行動を諌める。



「それがかつての師であり共に真理を目指した仲間に使う言葉かね? 見ればわかるさ。この造物は生神あたりの力によるものだ。創造主の思考ひとつで大爆発することだってできるだろう。しかしそのための拘束だろう? まさか肉体だけを縛っているわけではあるまい」

「……」


 自身の性格を理解して信用しているレガレットに対し沈黙で応えるゼクス。

 そのタイミングで大陸の結界が解除された。


「へぇ! あの天使の子か、思っていたよりやるね。どちらつかずを選んでよかったよ」

「【千里眼】を使うな……それに手助けする気がなかったのはそういうことか」


「お生憎様長いものに巻かれる主義でね。手出しはしないよ。ああ、でも忠告はしておこうかな」

「何?」


「ゼクス、その名を以て戦うのなら加減はすることだ」

「…………言われるまでもない。この決戦の行く末がどうあれ、生徒を巻き込む教師はいないだろう。たとえ今日世界が終わるとしてもな」



 ゼクスはヒビの入った水晶を取り出して、瞑目してからまた仕舞った。

 彼らの頭上に2つの影が現れたからである。



「〖ショ〜トワ〜プ〜〗」


 結界の解除で地上から転移して、仲間をそれぞれの場所に送った張本人、リンが現れ、檻を回収して距離をとった。

 彼女の傍らには、少し紫みのあるピンクの髪の清楚な少女が。



「【強制解錠】」

「ソルちゃんナイス〜」


 檻を解除したの彼女こそ、スセソル・ピオニエ・プロバタ、魔王の一人娘である。魔王の指示でネアやミドリの援護にやってきたのだ。



「二人は他の人達をおさえといて〜」

「そうですね。とても手強そうです!」


「「うっす!」」



「白虎にゃんもね〜」

 〈承知!〉



 リンは豪華な杖を、ソルは剣をとった。


「あー、私は観戦しているから気にしないでよろしく」


 そう言ってレガレットは校舎の屋上に一瞬で移動し、ポップコーンと飲み物を取り出して完全に観戦モードに入った。

 ゼクスはため息を吐きながら1冊の分厚い本を何も無いところから取り出した。


「――【魔導原典】」


 パラパラと本がめくれる。




「〖エクストラアルティメットス〜パ〜ノヴァ〜」〗」

「【月華】【氷嵐】」



 そこに2人の攻撃が叩き込まれた。

 しばしの砂埃の後、かすり傷ひとつ無いゼクスは本を彼女らに向けていた。



「【抹消魔導・雨】」

「っ! 〖デュアルワ〜プ〗!」



 抹消ロスト属性の雨のような弾丸を放った。リンは本能的に危機を察知して二人分の転移魔術で即座に回避の判断をとった。



「……このくらいなら問題ないか。最低限の働きはしよう。終わりの時までくらいはな」



 ゼクスはそう独り言ちる。

 そこまで本気を出さないゼクスによって戦闘はまで長引くのだった――


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