#102 次の敵のお話
栄養補給という名のドカ食いをしてから、いつも通りログインする。
「おはようございます、いい匂いですね」
「あ、おはようっす」
「おはよう。ちょうど朝食を食べようとしていたよ、ナイスタイミングだ」
私が起きると、マナさんとパナセアさんは部屋の隅の小さな机の上のサンドイッチを囲んでいた。
まだ手はつけていないようだ。のそのそと起き上がり、二人と同じよう椅子に腰を掛ける。
「いただきます」
「いただくっす!」
「いただこう」
皆それぞれの好みに合わせたサンドイッチを頬張る。
私のはハムのようなものが挟まったベーシックなもの。
やはり王道こそ正道。とても美味しい。
「それにしても、まさか君が初日でリタイアとは驚いたよ。よほど過酷なイベントだったのだろう?」
「そうっすよねー。ミドリさん強いからマナも驚いたっす」
「あー、それは少し事情があるような無いような……。空から降ってきた光に消し飛ばされましてね、あむっ。もんもん……ん。強制死亡イベントなんでしょうかね」
「ゴホッ……!?」
「大丈夫ですか!?」
「あまり無理して口に入れたらむせてしまうよ、気を付けなさい」
マナさんがむせてしまったので慌ててハンカチを渡す。
「ふぅ、ありがとうっす…………」
口を軽く拭い、水を飲み、落ち着いた様子のマナさんは何故か足元を一瞥している。
私も床を見てみるが何もない。
「何か――」
「おっはよー☆ 何だかとても久しぶりな気がするけどみんな元気だったかな?」
乙女の楽園には居てはならない存在が、部屋の中に入り込んでいた。
金髪の青年――どこにでもわく害虫ことシフさんである。
「ふんっ!」
私渾身の右ストレートが宿屋というリングで炸裂した――――
◇ ◇ ◇ ◇
「まったく、容赦の欠片も感じられない
「そうっすよ。マナが受け止めに回ってなかったら、宿屋の壁何枚弁償することになったか……」
「私はノックもせずに入り込んだシフくんが悪いと思うがね。普通に不法侵入な上に、異性の寝室なのだから罪はそれだけでは済まないだろう」
本来であればタコ殴りにしてやったのだけど、教育上よろしくないものをマナさんに見せるのも
今回は見逃すが、次やったら……全力で対処しよう。どうせ金髪のシフさんは分身なのだから。
「謝りはしませんが、何か話でもあったのでは?」
「おっと、そうだった☆ 実はねぇ――――☆」
シフさんが語った話は、私たちが協力する皇帝さんの目的の再確認と、それの次の段階へ移行するというものだった。
もともと最終的な目的は聞かされていないが、どうやらそろそろ本題の一個手前くらいらしい。
それで、海を渡るための港もある、首都シンパルクに移動しようとのこと。船はまだ用意できていないが向こうで待機する段取りのようだ。
「皇帝さんは今どこにいるんですか?」
「彼女は今、帝国の反乱分子を……ね☆」
おっと政治の話か。
まぁ皇帝さんも国から出なきゃいけないらしいし、国内は盤石なものにしておきたいのだろう。
「なるほどなるほど……シフくん、つまり君は私たちに何かを隠したまま行かせたいと?」
「――隠し事はあまりしていないつもりなんだけどね☆」
「確かに怪しいっすね」
「同じくです」
満場一致で怪しく思われているのは普段の行い。
この悪魔がラスボスと言われても納得してしまうはずだ。
「何を根拠に疑っているんだい……☆」
「存在です」
「性格っす」
「二人のも分からないでもないが、私のはもっと論理的な話だ。船の用意もまだ、肝心な皇帝も来ていない、そしてシンパルクとの距離はかなり近い。皇帝がここまで来るのにも時間はかかるだろう。なぜ、
たしかに、そうだ。
シフさんの性格的にも、私たちのことは放っておいてギリギリになって言うことで慌てる様をニヨニヨ見たがるだろうに。
「…………なるほど☆ 天使ちゃんも意地悪だね、気付いた上でわたしを試すために陛下のことを尋ねたのか☆」
「え!? あ、ああ、まぁそうです。もちろん皇帝さんが来ていない時点で気付いていましたとも」
思わぬパスが来たのでとりあえずドヤ顔を発動。
私って頭脳明晰キャラだからここはそういうことにしておくのだ。
「ミドリくんが本当に気付いていたかの確認をしたいのはやまやまだが、話を逸らそうとしても無駄さ。さぁ、吐き出すんだ」
「ん~、黙って放り込みたかったんだけど、言わないと今度こそおっかない天使の鉄拳がわたしを貫くだろうからね……仕方ない、か☆」
人をゴリラみたいに言うんじゃありません。私の鉄拳がうずいてしまうぞ?
茶々を入れたいところだけど、パナセアさんもマナさんも真剣に聞こうとしているので、お口はチャックしておく。
「わたしも今回は後手に回っているから大した情報はないけど、簡単に言うと宇宙人の襲来の可能性が高いんだ☆」
宇宙人。うちゅーじん。UTYU・JINN!?
ファンタジー世界だったのに、急にSFチックになった。これから宇宙を舞台にレーザーを撃ったり、某ビームみたい剣を振ったり、某巨大ロボットみたいなのに乗るのだろうか?
「宇宙戦争編突入ということですね」
「宇宙人ときたか。この世界では実在する……いや、そもそも魔物も我々の世界には居ないのだから不思議ではないか」
「宇宙人っすか!?」
「意外といい印象を持ってるようだけど、相手の目的すらも読めないから、危機感は持ってね☆ 宇宙人でさえなければ、ある程度対策できたんだけどねぇ…………☆」
あー、はいはい。なるほどね。
「何でも知ってそうなのに肝心な時には役に立たない人ですね、分かります」
「うぐぅ☆ し、しかし、流石のわたしも宇宙にまで分身は送れないんだ☆ 上空は入れないし☆」
「ふむ、ならその宇宙人はどうやってこの地に降りてこれたんだい?」
パナセアさんの指摘の通り、宇宙から来たのなら空はどうしても通らないといけない。
しかし、その宇宙人が飛べたり強靭な場合、降り立つのは可能だろう。
私もあの空域に入ったことはあり、あの時は風に遊ばれた後叩きつけられたが、同じパターンなら生きてるかもしれないのだ。
「空は通るだけなら意外と何とかなりますよ、パナセアさん。私の経験上ですが」
「そうなのか……」
「いや、それは
「へー、よくそんなことまで知ってますね」
「まあね☆ さ、天層の話はともかく、ごたごたを解決するために移動するから、荷物をまとめて馬車乗り場に正午集合ってことでよろしく☆」
早口でまくしたてたのち、シフさんはスッと消えてしまった。
残された私たちはそれぞれため息をついて、顔を見合わせる。
「まったくー、サンドイッチが冷めちゃいましたよ」
「ホントに変な人っすね!」
「ふむ、こういう時こそサイレンくんの、サンドイッチはもともと温めてないというツッコミが欲しいものだね」
わかる。真面目な話の後は中和したいから特に。
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