#35 空気悪いですね?
ようやく冒険者ギルドに到着。
ボードの前で良さそうな依頼を探す。
貼ってある中には、依頼だけではなく様々な手配書やらもある。
「
「どうかした?」
「こんなのもあるんですね」
「へー? 災獣か、文字面からしてとんでもない魔物なんかねー」
「ですね」
手配書にある、植物の災獣の話をしていると、マナさんが何かの依頼書を取ってはしゃぎだした。
「見てっす! 遺跡っすよ!」
「ほう、これはなかなか良い依頼ですね」
「良いんじゃない?」
「受けてくるっす!」
遺跡という言葉に心動かされているのか、元気に依頼を受ける列に並んでいった。
「そういえば、パーティーの登録とかしてないんですけど大丈夫でしょうかね?」
「ん? ああ、それならミドっさんが王都でログインしてない時にやっといたから大丈夫。そうじゃなきゃ貢献度が反映されないから」
「おー、ありがとうございます」
「パーティーの名前はまた今度やっとくよ」
「詳しい人が居て助かります」
「ぼくも二人にお世話になってるから気にしないでもろて」
「はーい」
[天変地異::有能かよ]
[カレン::これが仲間かぁ……いいね……]
[芋けんぴ::GJ]
[病み病み病み病み::もしかして、てぇてぇ?]
[天麩羅::おんぶにだっこされてない? 大丈夫?]
コメントに居る感慨に耽ける人やカプ厨、杞憂の民を見て苦笑してしまう。脳死で話したことも拾ってくれるのは面白いなー。
「ん?」
「どうしました?」
サイレンさんが突如首を傾げた。
目線の先には、受付でこちらに向かって手で招いているマナさんの姿が。
「あー、行きましょうか」
「だね」
マナさんのいる受付へ行くと、受付嬢さんがこちらを視認して話しかけてきた。
「本当にこちらの依頼を受けるのですね?」
「危ないということでしょうか?」
それほど念を押してくるというのはつまりそういうことなんだろうけど、確認してみる。
「今のところ死には至っていませんが、軽く追い返されていまして」
「でしたら何故依頼のランクを上げないのですか?」
失敗しているならより強い人にやってもらえばいいのに。そんなのをEランクで受けれるのは不自然だ。
「ご覧の通り、依頼の内容が調査でして、遺跡の魅力が薄い時点であまり高い報酬は掛けれないという判断が下されていますね」
過去の書類なのか、そう説明してくれる。
「ならやめとこっか」
サイレンさんが諦めてしまった。
「絶対やるっす!」
「そうですよ! 遺跡なんて滅多に行けませんよ!」
「えぇ……そんなに行きたいならついてくけど……」
サイレンさんに同調圧力という名の説得を一瞬で済ませ、私とマナさんで受付嬢さんに向き直る。
「行くっす!」
「十分注意するので、ご安心ください」
「……分かりました。お気をつけて」
受付嬢さんに心配そうに見送られ、冒険者ギルドを
「サイレンさん、道は任せました」
「任せたっす!」
私は方向音痴ではないけど、サイレンさんを試す的なね。私は方向音痴ではないけど!
「確かに、このメンツならぼくが一番道間違え無さそう。……迷っても怒んないでよ?」
「怒るわけないじゃないですかー」
「そうっすよー」
「なら棒読みやめてほしいな!」
[枝豆::草]
[階段::棒読みw]
[壁::草]
[セナ::迷子フラグ立ったね]
[あ::フリで草]
[味噌煮込みうどん::ツッコミが鋭くなってきたね]
一応本当に怒るつもりは無いんだけどね。誰でも一回ぐらい失敗して迷子になるし。私だってそうだったんだから。うん、一回ぐらい許容範囲。
「えーと、まずは南門から出よう」
「了解っす」
「何だかチュートリアルじみてますね」
茶々を入れながらも、サイレンさんの背中を追う。
相変わらずの人混みなのでもちろん縦一列だ。
門で軽く手続きを済ませ、人混みから解放された私たちは、伸びをしながら依頼先に向かって歩く。
「遺跡って何があるんでしょうねー」
「やっぱり定番はロボットとかじゃない?」
「追い返されてるっすから、きっと強い魔物が棲みついてると思うっす!」
ロボットならまだ良いけど、強い魔物だったら嫌だ。ロマンもクソもない。
「……危なくなったらマナさんだけでも逃げてくださいよ?」
「そうそう」
「何言ってるっすか! マナは
「絶対です。これが約束できないなら、今すぐ引き返しましょう」
マナさんの言葉を遮る。
この子は本当にやりそうで心配だ。
「な、何でっすか!?」
「私たちは異界人です。何度でも復活します。ですが、マナさんはしないでしょう?」
「そうっすけど……」
まだ納得いってない様子だ。
確かに命を預け合うという関係から脱却してしまう気がするが、命あっての物種だ。死んでしまったら仲間も何もない。
「マナちゃん」
「何すか?」
サイレンさんが、おもむろに口を開く。
「ぼくらを本当に守りたいのなら、ぼくらを護るなんてしないで欲しい」
「どういう意味っすか?」
「君が居るということが、ぼくらを守っているんだよ。だから庇って護るなんてやめてって意味」
「…………そうっすか」
沈黙が流れる。
マナさんは
何となくサイレンさんが言いたいことは分かる。
そして、
[蜂蜜穏健派下っ端::つまりどゆこと?]
[紅の園::マナちゃんって意外と頭良いよね]
[唐揚げ::すまん、理解力が足りないのか、よく分からん]
視聴者さんの中でも分からなかった人がいるみたいなので、こっそり要約する。
「要するに、マナさんは生きる糧ですから、死んでもらっては困るということです」
[あ::なるほど]
[ヲタクの友::感謝]
[蜂蜜穏健派下っ端::ありがとう]
[唐揚げ::成程]
のんびりした静寂ならともかく、この沈黙は少し気まずいので、茶化そうかな。
「サイレンさん、サイレンさん」
「ん?」
「マナさんをナンパするのやめてくれません? マナさんにしていいのは私だけですよ?」
「いや、別にそんなつもりは――」
「問答無用です。手を出してください」
「え、は、はい」
出された手を、否、腕を片手でガッと掴み、左足を踏み込む。
「せいやぁっ!」
「え!? あ、ちょっ――――――」
全力で投げ飛ばす。
ちゃんと死なないように、木々が生い茂る森の方へ。
「ついに星になってしまいましたか、しくしく、悲しいですねー」
[ピコピコさん::雑すぎて草]
[病み病み病み病み::棒読み好きなの?]
[死体蹴りされたい::泣く気全く無くて草]
[らびゅー::サイレンくん不憫で草]
[テキーラうまうま::何故投げ飛ばされたのか]
[燻製肉::か、体を張ったギャグやなー(震)]
「分かったっす!」
「はい?」
突然、マナさんがこちらに振り向いた。
そんなに目をキラキラさせて、何を言うのか
「マナに死んで欲しくないなら、絶対死なないで欲しいっす!」
「なるほど?」
「マナは逃げ足も遅いっすから、二人がやられたら逃げきれないっす。死なないでくれれば、マナも死なずに済むっすよ!」
「いや、確かにそうなんですけど、私たちが足止めをしてとかあるじゃないですか」
「知らないっす!」
「知ってくださいよ……」
結局、いざとなったら逃げるという言質は取れなかった。まあ、いざとなったらパッションでゴリ押して逃げてもらおう。
「あれ? サイレンさんはどこっすか?」
「少し……野生のドラゴンを追い求めて旅立ってしまいました」
「ええ!?」
何とか誤魔化せた。
それにしても、あの空へ飛ぶ勇姿を見ていなかったなんて、サイレンさんは一体何故投げ飛ばされなければいけなかったのか。
可哀想なサイレンさん。
貴方の尊い犠牲は忘れません……。
「ハァハァ……適当言わんでよ」
「あ、おかえりなさい」
「ドラゴンどこっすか!」
「ドラゴンなんて追いかけてないし、ミドっさんはもう少し申し訳ない感じを態度で出そうよ」
「葉っぱついてますよー。取ってあげますね」
「あ、毛虫もっす」
「毛虫?」
「本当ですね。付いてます」
「毛虫っす」
「いやあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
サイレンさんの悲痛な叫び声が響き渡る。
「よし、完璧に誤魔化せました」
どさくさに紛れて、冷や汗を
[芋けんぴ::草]
[カレン::ちょっと聞こえてるのよ]
[天麩羅::鬼! 悪魔! 天使!]
[壁::サイレンくんは虫嫌いなのか……閃いた!]
[馬糞::鬼畜で草]
[ヲタクの友::このハーレムはあんまり羨ましくないな……]
[あ::天使なのに、悪魔みたいや……]
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