##61 【AWO】第六回イベント “503:Service Unavailable”やりまっせ【ミドリ】

 

 イベント当日。

 時刻は丁度お昼を回った頃。〘オデッセイ〙のプレイヤー組がイベントステージへ転移した直後、竜の渓谷で借りた拠点の戸を叩く者がいた。



「ごめんくださーい!」


「静かにしてくれないか。今は昼寝中であるからな――っと何者だ?」


 ストラスがそっと応答する。

 家の中では昼食後の、ウイスタリアとどらごん、ンボ子がお腹を膨らませてくつろいでいるのだ。




「そっかそっか。エルフのとこの王子様とは初対面だった。時間を司る神で、おたくの大天使とただならぬ関係と言えなくもないかな? ワケあって名乗りは控えさせてもらうけどねー」


「声がペネノと似ているが……」



「ペネノ? ああ、機械音声のことね。これはおもちゃみたいなものだから、特にそこの関係性は無いかな。それより家に入れてくれない?」



 今尋ねてきているのは、幾度となくミドリに介入してきたヘルメットを被った白い外套の時間神である。

 正確には一時的にとはいえ、ではあるが。



「ちょっと倒れる可能性もあるから寝かせてくれると助かるんだけどなー」


「断る。留守を預かる者として不審な者を入れるわけにはいかない」



「うむぅ〜? もう帰ってきたのかー?」



 頑なに警戒を解かないストラスの後ろから、寝起きのウイスタリアが顔を出した。



「お、どうも。竜王の娘さんかな。ちょっと入ってもいいかなー?」


「よくわからないけど入ればいいではないか?」

「おい吾輩らは留守番だ。妙な奴を入れるなんて言語道断であろうが!」


「何言ってるのだ? だってミ――」


「あ、ごめん。今から多分気を失うけど……くれぐれもヘルメットは外さないでねー。――それにしても12時12分とは、なかなかオシャなことしおる」



 そう言って時間の神は気を失って倒れた。

 放ったらかしにするわけにもいかないので、ウイスタリアは特に何も言わずに居間に運んで寝かせた。

 そんなこんなで、ストラスも頭を抱えながら目を覚ますまで見張り続けたのであった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやー、にしても恐竜がいるとは驚きましたよ。これも一種のファンタジーですね」


「ごっつい虫はキモイけどなぁ」


「フィジカルは普通の人間だったら苦戦しそうだし難易度調整もいい塩梅だね。ぼくらの相手ではないけど」


「未知の素材だらけ! ここを私の楽園としよう!」



[シラス丼::白亜紀かな?]

[芋けんぴ::テンション高!?]

[壁::これは確かにワクワクするわ]

[セナ::ある種の冒険だぁ]




 時刻は12時30分。

 私とサイレンさん、パナセアさんはイベントを満喫していた。最初の30分では、数の多いクラン〘大連合〙と協力関係を結んだ。イベントの説明段階で、今回のを発案したハクサイちゃんが競争だけしてたら全滅するから気をつけてと忠告していたのだ。

 ハクサイちゃんは私のキャラメイク時に案内してくれた金髪の幼女。彼女は性格的にイタズラ好きだ。だからこそ、彼女自身が楽しむためにも忠告したのだろう。忠告が嘘ということはないはず。


 ちなみに〘大連合〙との協力は向こうから持ちかけてきて、こちら(主にパナセアさん)の拠点制作技術を提供する代わりに防衛を任せるといった感じで手を組むことになった。




「むむむ……少し下がってください」

「あいさー」

「?」

「了解だ」


 太古の木々の隙間を駆け抜ける影が映った。

 この元気に満ち溢れた殺意は――


「女神ヘカテーよ、我が祈祷の声に応じ、弱き者を守りたまえ〖フォンドプロテクション〗」



 自身に防護の魔術をかけておく。

 そして{順応神臓剣フェアイニグン・キャス}の解放も済ませた。



「見えてますよっと!」


「【鬼拳】!」



 剣と拳がぶつかり合い、周囲の木々や水溜まりが吹き飛ぶ。


 いきなり戦いを仕掛けてくるメイドと言えば、言わずと知れた戦闘狂、クラン〘フロントライン〙のマツさんである。



「出会い頭とは相変わらずですね」


「どうやら随分強くなったみたいで。楽しめそうです! 【ラッシュ】!」



 拳の残像が大量に見える。その隙間を掻い潜るように躱していき、反撃に出る。




「しっ!」


「【ジャストガード】!」



 反撃の一太刀は難なく防がれてしまった。

 しかし、今まで彼女と戦ってきた中で1番手応えを感じる。今なら勝てる。



「――【暗撃】」


「危なっ!?」



 私がマツさんと戦っているのを見てか、今度は陰なら鎌が私の首を狙ってきた。

 どうやら今回はマツさんの独断ではなく、〘フロントライン〙としての総意らしい。



「シロさんですね。……貴方達と戦わなければいけないんですか」


「悪く思わないでちょうだい。これは競争イベント。目に映ったものは全て敵って方針だから」


「ちょっと、ミドリさんは私の獲物ですよ。邪魔しないでください!」



「えぇ……分かったわよ。なら後ろの誰かでいいわ」


「では私、パナセアが相手をさせて頂こう。吸血鬼の真祖、シロくん。君とは一度話してみたかったんだ」




 シロさんの相手にパナセアさんが名乗り出た。

 確かに、魔大陸で出会った吸血鬼のアルマさんの件もある。それについては彼女に任せておこう。




「ではあっしはそこの少年に相手してもらうでやんす」

「うわぁ!? どこから現れたのさ!?」




 サイレンさんの肩をポンと叩きながら現れたのは、三下口調の男。〘フロントライン〙のメンバーは黒い外套を着ているからその姿は見えないが……



「どこでやんすかねー? ああ、自己紹介が遅れたでやんす。あっしはリューゲ、〘フロントライン〙の雑用担当ってところでやんす」



「サイレンさん、お任せします」


「まあ別にいいけどさ。リューゲさん? には悪いけど勝たせてもらうよ」


「望むところでやんす」




 次々とマッチアップしていく中、コガネさんがキョロキョロと辺りを見渡す。



「うちは?」

「コガネさんには申し訳ありませんが、一番大変な相手をお願いします」



「…………」




 小柄な影が空に浮かんでいた。

 外套の中から見え隠れする白色の髪、尋常ではないほど圧のある空色の瞳。

 正直今の私でも勝てるか分からない最強の一角。



「あんたがうちの相手やな? ちょっと本気出さんとマズそうやなぁ」


「……全員、止まって」



 肩を回しているコガネさんとは対極的に、ネアさんは何も無いところを睨んでいた。


 私もつられて見てみると、空間の……いや、それとはまた別の歪みが見えた。



「…………休戦……来る」

「皆さん! でかいのが来ます!」



 時計の紋様が出現し、その中から巨大な龍が姿を現した。くすんだ色の龍だ。

 ドラゴン的な竜とは違う、蛇に近い形状の方の龍。


 尾の部分がまだ時計の紋様の中から出きっていないため、その全長は不明だが、少なくとも1km以上はゆうに超えている。


 だが、何故か目を閉ざしており、眠っているように見える。



「どうやらもっと楽しめそうな獲物がやってきたようですね。ミドリさん、後で戦いましょう。【狂戦士化】、【鬼火】、【神格化】!」



 目をギラギラさせてマツさんは巨大な龍に向かっていった。それを皮切りに、他の面々も龍を狩りに向かう。


 ポイント的にも期待できるし、我先にと向かうのは当然だ。

 最後に残った私とネアさんは、空中からその様子を眺める。



「再生系の敵ですね。しかも神器や神格持ちの攻撃でもすぐに再生してるとは、なかなか厄介です。ネアさんの生き物を作り替えるやつなら倒せますかね?」


「……無理…………生物より概念の要素、強い」



 概念?

 彼女の瞳には何が見えているのだろうか。

 ただのしぶとい龍ではなく、もっと異質な存在ということかな?



「とりあえず加勢します?」


「……ギミック?」



「あー、その可能性もありますよね。イベントのストーリーを何かしら進めたりすると対抗手段が出てくるとかも」


「…………でも面倒」



 ストーリーを全否定しているが、正直早く倒して横取りされたくないというのも分かる。

 これだけ目立つから他のプレイヤーも集まってきているし。



「ごり押しますか」

「ん」



 {順応神臓剣フェアイニグン・キャス}を大剣にして構えて龍に向かって飛ぶ。

 ネアさんも巨大な魔法陣を生成しながら龍の方へ向かっている。



「輪廻ノ外法其の四……【性質付与・再生不能】…………女神ヘカテーよ、神すら焼き尽くし、苦しき世界を灰燼と化せ……〖スカーレットフレア〗」


「【間斬りの太刀】、ふんぬぅう!!」




 龍の真正面から、私の斬撃とネアさんの魔術を浴びせる。

 龍は音もなく真っ二つになりつつ、一瞬で燃やされて灰になる。再生の力も封じてくれたようだし、流石に倒せたはずだ。



「ふぅ、最近こればっかり使ってる気がします」


「……強くなった」



「――! えへへぇ、ネアさんに褒められると自信がつきますね〜」



「私の獲物だったのにー!」

「……うるさい」



 マツさんが駄々っ子のように暴れるのを、ネアさんが抑えに向かう。リューゲさんも加勢に、見かねたパナセアさんも拘束具を持って近づく。

 面白がりながら催眠術でもかけようかとコガネさんも向かう。


 シロさんとサイレンさん、そして私は巻き込まれるのが面倒だと遠巻きに収まるのを待つ。



「いつも大変そうですね」

「うちのメンツよりやばいってなかなかだよ」

「本当に、振り回されて大変よ……」



 子供を眺める親のようにそんなことを話していると、カチカチと時計の紋様が動く。

 龍が元通りの状態で再び現れ、ゆっくりと獰猛な目を開いた。


 誤解していた。

 あの龍は再生していたのではなく、遡行していたのだ。つい先日まで使っていた{逆雪}と同じ効果だというのに、完全に失念していた。





「逃げ――」



 私が言い終わる前に、龍の咆哮が私とサイレンさん、シロさんを除いた龍の直線上にいた人たちを飲み込んだ。


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