#槍VS人形#

 



「さて、あたくしはエーデル。凡人さん、よろしくお願いいたします」


 ミドリがサイレンに任せた相手、人形使いはサイレンに指差して言った。

 “凡人”という単語に眉をしかめながらサイレンもその自己紹介に応える。


「ぼくはサイレンだよ。よろしくするつもりは微塵もないけど」

「おほほ! やはり、あなたのような凡人が彼女らと居るのは不思議で不思議でたまりませんね!」



 嘲るように扇を取り出して口元を隠す。

 誰が見ても見下している。


「……プレイヤーだよね?」

「ええ! ミドリさんの配信は友人といつも拝見していますとも! 憧れの存在ですわね!」



「ならなんであんなことを?」

「――はぁ、これだから凡人は。何でも答えてくれるなんて勘違いして。そしてあのミドリさん、いえ! ミドリお姉様と背中を預けられると勘違いして! ああ、なんて浅ましくて惨めで矮小なんでしょう」


「っ!」

「あらあら、怖い顔を。自覚があるようで何よりですわ」



 常に一貫してサイレンを見下すエーデルに、サイレンも堪えられずに睨みつける。

 しかしまだ聞き出さないといけないことはあると、質問を続ける。



「ファンならなんでこんなことを」

「不思議でしょう、そうでしょう。あなたには分からないでしょうね。ただのしょうもない一般人が憧れを汚しているのを見せつけられるのは」


「ぼくとミドっさんはそういうのじゃ――」

「“ミドっさん”……ええ、もちろんあなたがパナセアさんしか眼中にないのは知っていますとも。ですがあまりにも図々しい。下らない人間が彼女をそう呼ぶのはあまりに烏滸おこがましい」


 少し自分が冷静さを失っているのを感じてエーデルはひと呼吸置いてから宣言する。



「――あたくしはミドリお姉様にふさわしい人になれるのなら、邪神にでも仕えてみせる。あなたを蹴落としてでも隣に並び立つ」


「(こじらせた厄介なファンではあるけど…………)」



 熱意のこもった、歪みつつも真っ直ぐな瞳に申し訳なさすら顔を出した。

 サイレンも自分が浮かれた理由で同行しているのには情けなく思っているため否定はできない。



「…………でも、今敵対するのはおかしい」

「それはミドリお姉様がピンチだからでしょうか。まあそうでしょう。彼女だって無敵ではありませんからね。でもきっと、いつの日かあたくし達の前に立つでしょう。大丈夫ですわ」



「そっか、理解できないのは分かった。ぼくがまだまだだって事も」

「あら。でしたら」



「お断りだけどね。何かちょっかいをかけるみたいだし、ここは倒させてもらうよ。なにより、ここで退いたら本当にどうしようもない人間になるから」


 長い付き合いになる槍を構える。



「……残念ですわね。あたくしの戦い方は集団リンチに見えるので心苦しいですわ【人形遊び】【集団生成】」


 エーデルも、たったの一言で8体の人形を作り出す。人形はそれぞれ種類が異なり、腕が剣な個体もいれば蛇の形をした人形もいた。



「あたくしの兵隊、あの凡人を殺しなさい」

「【スピア――ぐぅ!」


 人形をすべて無視してエーデルに向かって攻撃を仕掛けにいく。

 しかし、横から爆発の人形で吹き飛ばされてしまった。

 寸前で気付いて直撃は避けたサイレンであったが、それでも大きな隙が生じている。


 言葉を発することのできない人形が、もらったと言わんばかりに吹き飛ばされたサイレンに刃を下す。


「ふぬ!」


 槍でその刃を受け止める。

 人形の体はかなり軽いため、押し切られることもない。

 だが――


「囲みなさい」



 エーデルの指示で、他の人形は組み伏せられているサイレンを囲む。



「復活はするでしょうけど、一方的にやられる気分はいかが?」

「――――」



「あら? 存在だけでなく声まで小さいのかしら?」


 ここからの逆転は不可能だと勝利を確信している彼女は、最後まで煽る。

 見下して馬鹿にしていたからこそ生じた慢心、油断、すなわち絶好のチャンス




「――希望を響かせろ〖サウンドノック〗!」



 使い手の少ない音階魔術が炸裂する。

 音の衝撃波が人形を砕く。そして後方にいたエーデルにもダメージが入った。



「【投擲】!」


 すかさず槍を投げる。


「はっ……」


 その槍は、一直線に人形使いの胸を貫いた。



「――【人形作成】」


 最後の力を振り絞ってエーデルはスキルを発動する。

 小さな人形がサイレンの横に転がった。



ぜなさい」


 爆発がサイレンを飲み込む。



 数十秒後。

 その場にはどちらも残っていなかった。

 相討ちである。



 リスポーン地点でサイレンは最低限働いたと考えてから、復活後すぐの弱体化したステータスで街中を歩く。自分が助けられる人を見逃さないように。



 ――ある決意を秘めて。






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