#116 格上

 


 相手の武器は必中の拳銃と、私も使いたい系の光の手甲剣。

 純粋なステータスはあちらの方がずっと高いのもあるが、どの距離でもしんどい相手だろう。

 そのうえ、私は頼みの綱の【不退転の覚悟】が使えない状態。

 でも、負けるつもりはこれっぽちもない。



「【吸魔】【スラッシュ】」

「【パワークロウ】」



 私は【吸魔】を発動させつつ斬り、コガネさんは爪でひっかく。

 どちらも一瞬でいなされてしまう。


「遅い」


「うっ……」


 コガネさんは腹部を膝で蹴られて吹き飛ぶ。

 しかし、私は赤い線を見て回避。


「まだまだ! 【スラスト】!」



 外側に逸らされた右手ではなく、左手の{吸魔剣2号}で突きを放つ。

 相手の両手は私たちの攻撃を逸らすために広がり、足は攻撃で浮いているので、これは確実に入る――!


「ふっ」

「うそ!?」


 空中で体を反らしてかわされた。

 加えて赤い線が走る。


「【飛翔】!」


 私も空中に逃げて横薙ぎを避ける。


「火の玉よ、〖ファイヤボール〗」

「【魔弾】【超次元軌道】」


 銃で私の魔法を打ち消してから、私の視界から消え去った。



「その目でどこまで捌けるかな」


「――っ!」



 どこからか聞こえた声と同時に、赤い線が一斉に現れた。

 後ろを振り返るがどこも埋め尽くされている。逃げ場が全くない。



「【幻覚・誤認】」

「ほう?」


 私に向けられた攻撃が、ギリギリで全て逸れた。

 どうやらコガネさんの助け舟のようだ。



 一旦コガネさんの方まで降下して合流。

 お互い好き勝手やって倒せる相手ではないのが身に染みて分かった。

 ある程度方針を決めないといけない。


「……ってコガネさんは人間じゃなかったんですか?」



 コガネさんにモフモフの尻尾と耳が生えているのだ。耳の形的に狐かな?


「――プレイヤー間で指名手配みたいになっとるから、内緒で頼むで」

「うぇ? なにやらかしたんですか」


「なんか大きいクランを殲滅して食糧も頂いたさかい。たぶんそれやな」

「……まあ今はそれどころじゃないですし、ちゃんと黙っておくのでご安心を」



 だいぶがっつり略奪してるから何とも言えない。


「まったく。のんきな会話だな【魔弾】」

「【吸魔】」


 射撃を防いでコガネさんの方にどうするか目で尋ねる。



「うちが合わせるさかい」

「了解です!」


「【アクロバティックコースター】」



 また高速でかく乱してきたが、今度は対応できる。

【天眼】の青い攻撃線が見えたからだ。ものすごい一瞬だけ、針に糸を通すかのような小さな表示。それでも集中力が高まってきたから捉えられる。


「はああああ!」

「!」


 とんでもない姿勢で躱され、かすり傷程度にしかならなかった。しかし、相手もこれ以上の追撃を警戒して後退している。


「面倒だ【拡散】【魔弾】」

「【吸魔】」



 弾丸がいくつかに分かたれて放たれる。

 たとえ手数が増えても【吸魔】はすべてまとめて吸収するだけ。


「ほいっと」

「【ファストクロウ】!」



 なぜかコガネさんが私の背後に攻撃した。

 ――いや、違う。助けてくれたようだ。

 先程の拡散する弾丸は上にも飛んでいて、それが曲射的な軌道で背後に回って追尾していたらしい。



「ふむ、力量は測れた。狩るとしよう【魔弾世界】」



 瞬間、敵を中心に紫のドームが広がっていく。

 赤い線が埋め尽くされていたのがまだマシだと思えるような光景になる。

 もはやそれは線ですらなく、真っ赤に視界が塗りつぶされているのだ。



「【白夢】!」

「無駄だ、ここは戦場でもなくなってしまったからな。この狩場は狩場そのものが銃口であり弾丸。逃げ場など設けていない」



 コガネさんが霧のようなものを出して煙幕代わりにしているようだが、敵の言う通りその気になれば私たちは跡形もなく撃ち抜かれるだろう。【吸魔】を使っても剣だけが無事になるだけ。

 完全に詰みの状況だ。



「【幻影・齟齬】」

「なに?」


「え!?」


 私たちを覆っていた“世界”が私だけを弾いていた。

 というか私とコガネさんの位置が入れ替わっている。



「おかんから言われへんかった? 狐の化かしには気ぃ付けなって」

「幻術か」

「???」


「そや。幻術の一つ、世界を騙す幻影や。それでこれが相手を騙す幻覚や【幻覚・信敵】」

「っ!! 解除!」


「私だけ置いてかれてる……」


 一見何をしているのかさっぱり分からないが、とりあえず敵が“世界”を解除したのは認識できた。

 そして動揺しているのも。


「【ダッシュ】【スラッシュ】」


 相手は避けるのも間に合わず、私の斬撃はしっかり決まった。



「何したんですか」

「さっき言うたまんまや。うちを親しい人に見えるようにしただけ。幻覚は格上だと効きづらいから、ちゃんと攻撃態勢に入ってへんとあかん。助かったわぁ」



 この人、普通にチートクラスで強いじゃん。

 たぶん相手とのレベル差さえなければ負けることは無いのではなかろうか。




「――ああいう搦手からめてもなかなか面白い」

「うわ、トドメまでしておけばよかったです」

「傷が完治しとるなあ?」


 確実に入って血しぶきまで浴びたのに、既に傷口は無くなっていた。

 回復系の魔法や魔術、スキルを発動している様子もなかったので、別の要因かパッシブスキルだろう。


「そろそろ終わらせたかったが……む」


 何かに気付いて横を見ている。

 私もそちらを向くと大きな犬が、暴走中のライラさんがこちらに突っ込んできていた。



「やあ! たすけておくれ☆」

「どっか行ってると思ったら。はあ」

「ライラはん!」



 シフさんが引き連れてきたようだ。

 馬鹿なのか。


「いやー、被害を減らすために逃げ回ってたけどこれ以上は限界でね☆」

「本当ですか?」

「ライラはん! うち、コガネや! しっかりして!」


 〈――〉


 コガネさんが必死に訴えるが、聞く耳を持たない様子だ。


「無駄だ。あれは本来の獣性を取り戻している。貴様らではどうしようもないだろう。まあ今は本能のまま暴れているから、邪魔なら大人しくするがな」



 敵がライラさんに銃口を向ける。

 ダメだ。それをされたら間に合わない!


「その必要はないようだよ☆」

「ふん、あの獣も命拾いしたな」



 緑の流星が、ライラさんを吹き飛ばした。そしてそのまま町の外まで押して怪獣大戦争を始めている。

 その姿は先日のイベントで見た竜神に似ているが、


「どらごん……?」



 私のよく知る憎きペット枠だった。




「【魔弾】」

「【吸魔】」



 戦いを続けるぞと言わんばかりに撃ってきた。



「いくぞ」

「負けません!」

「……今は目の前の相手に集中、やね」


 シフさんはまたいつの間にか消えているが、気に知れていられない。

 一歩踏み出し――



「おっと、時間切れか」

「は?」

「うそやん……」



 空に町より大きな黒い球体が浮かんでいる。

 この世の全てを凝縮したような漆黒の物体。

 それは次第に地上に迫っていた。


「ミドリはん! どないしよう?」

「…………ん~」


 ここが切り札の使いどころか?

 事態がよくない方に向かっているのは察せられるし。

 2号を腰に納めて両手で{適応魔剣}を握る。



「ふぅ……ん?」

「どないしたん?」


 黄色い線が表示された。どうやらまだらしい。

 線の導く方へ走る。



「こっちです」



 頷いてついてくるコガネさんを確認してから全力疾走。




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