#ジェニーちゃんのあゆみ 4/5#
「シフシフシフシフー! モニアがおらぬ!」
「はいはいはいはーいシフだよ☆ 彼女は皇室メイドの研修だって昨日言ってたじゃないか☆」
「たぶん昨日はめんこに集中しておったから聞いていないんじゃろ」
「結局わたしに負けてるんだけどね☆」
「やかましい!」
ジェニー14歳。太陽神の神能を手に入れてから2年が経過した。寝起き(真昼間)すぐの一言がモニアを探す声なのは、唯一残された優しさだろう。あるいは異常な精度の直感かもしれない。
「冗談はここまでじゃ。嫌な予感が収まらん」
「……怒らない?」
「さっさと言わんか」
既に半ギレ状態のジェニーは、刺し殺さんばかりの眼光で睨みつけている。
「ついさっき、ちょうど君が起きた時に殺されたよ☆ 恨みを買っていた皇室メイドによるものと処理するみたいだけど、まぁ仕向けたのは君のお兄さんだね☆」
「あのデブか。あやつはどこにいる?」
「よし、矛先がそっちに向いた……☆ 位置は現場に居て誰よりも早く現場指揮をしてるよ☆」
「行くぞ。あとシフも帰ったらお仕置じゃ。妾の立場を優先して見殺したんじゃからな」
「だよねー☆」
蘇生薬を準備し、堂々と空から現場へ向かう。
ジェニーの周囲には、微かに殺意の炎が漏れていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ジェニー達が到着すると、野次馬が一斉に道を開けた。
そして、その先には――モニアの首が
「おお、ジェニー! やっと来たか! お前のメイドがこのようなことになっているのだ。だが安心するといい。犯人は既に捕らえてあるぞ!」
「首から下はどこにある?」
「ああ、首から下は引き裂かれてバラバラになっているその肉塊みたいだ」
磔になっている足元には無惨に切り裂かれた体が丁寧に重ねられている。
「シフ、皇室メイドというのはこれほどの太刀筋も身につけるのか?」
「まっさか〜☆ その道の達人じゃないとこんな綺麗に畳めるように斬ったりはできないよ☆」
「ジェニー? お兄様を褒めてもいいんだぞ?」
「あ、忘れておったわ。処理処理っと」
自身の兄をぞんざいに燃やす。
忘れていたのは本当だが、やられた分の精算として、あるいは見せしめとして早々死なない火加減にはしている。
どうでもいいことを処理したジェニーは、再度シフに尋ねる。
「これをやったやつはどこにいる?」
「捕らえられてないね☆ あの皇太子くんの私兵を皆殺しにして逃げ出してるよ☆ 南東方面だね☆」
「そうか……この場は
「了解☆」
それだけ言い残して、ジェニーは南東方面へ飛び立つ。
帝都を出てしばらく行くと、森林地帯に怪しげな人影がジェニーを見ていた。戦闘服や髪からして紫の印象の強い、猫耳のある妖艶な美女である。
「(殺害からここまでの時間と移動距離からして、転移系統の魔術か【神速飛翔】を持っていてもおかしくないのう。じゃが、それ以上に――)」
ゆっくりと、警戒しつつ降りる。
「にゃはは……たまには金額に釣られて危ない仕事もやってみるものにゃんね。まさか
朗らかな笑顔だが、その瞳に宿すのは明確な殺意。
「貴様、妾程ではないが只者ではないのう」
「恐れ多いにゃん」
「……妾は“傲慢”のジェニー・ガーペ・プロフェツァイアじゃ」
「にゃははっ、もっと冷酷な人だと思っていたにゃけど、存外優しいにゃんねー。にゃたしは“
「そうか――死ね」
「にゃっと、危にゃい危にゃい」
先手必勝で女に火をつけたが、危なげなく回避された。決めた場所に火を生み出す技なので、普通避けられることはないのだが――
「攻撃前から避けていたな。さてはて、どういう仕組みか……」
「ただの勘にゃ。でもあんにゃ凄いことができるにゃんてね。私も頑張らにゃいと、ね!」
瞬く間にジェニーの眼前に肉薄。どこから出したのかナイフの切っ先を向ける。
「【絶対領域】」
「【解析】【二撃必殺】、にゃん♪」
ジェニーが絶対となるはずの場で、“黎明”は通常通りのスキルを発動した。
【絶対領域】の効果は発動しているため、ジェニーのステータスは底上げされていて、頬を
だが、それでも一撃入ったのには変わりない。
“黎明”の【二撃必殺】は二撃はいったら敵が死ぬという単純明快で強力なものである。つまり、ジェニーはこれからかすり傷一つ許されないのだ。
ジェニーも直感でそれに気付いた。
「【ラストスパート】にゃにゃにゃ!」
「燃え尽きるのじゃ!」
更に仕掛けてきたのを炎で覆って振り払う。
またしても回避されたが、息のつく間もなく追撃を仕掛ける。
炎。
炎。
炎。
森林地帯で戦っているため辺り一面地獄のような光景になっている。
それでもジェニーは炎を出し続ける。できるだけ距離をとるために。
“黎明”は炎の薄い場所をかいくぐって生存。
しかし、動きはジェニーが誘導しているのだから当然だ。炎程度で死ぬような相手ではないのは彼女が一番肌で感じているため、本気を出すようだった。
「【傲慢の直剣】」
一振りの剣が顕現する。
それは彼女にのみ手にすることを許された最強の証。
「必中不達の剣、とくと味わうがよい!」
距離などお構い無しの必中の斬撃が放たれた。
振れば敵に当たり、防具もステータスも意味をなさない極限の攻撃。
当然のように“黎明”の脇腹を斬り裂いた。
「に゛ゃっ……ぐぁ、はああああ! 【模倣:死天の極地】【模倣:時空斬り】!」
“黎明”は鮮血を垂らしながら反撃に出た。
一方はいつか見た翡翠色の輝き。
一方はいつか見た剣の
それらはジェニーを仕留めるには十分で――――
「【節制の祈誓】」
ジェニーを捉えかけた斬撃も、“黎明”を包んでいた異常なバフも、きれいさっぱり霧散した。
スキルを強制的にキャンセルするスキルである。
「モニア!」
「殿下、ご無事なようでなによりです。ご心配おかけしました」
蘇生された後、シフに場所を教えてもらって飛んで来たのだ。
「うむ、いや、話は後で聞こう。今は……あれ、逃げられた?」
「本当ですね。しかし殿下の目なら補足できるのではないでしょうか?」
「無理じゃ。あやつがここにいるのを知ったのもシフの監視によるものじゃ。あやつは何故か妾の【帝眼】に映らん」
「それほどの……一体何者なんでしょう?」
「さてな。【絶対領域】の対象外じゃから、幽霊か、アンデッドか、あるいは理外の存在じゃろうな」
【絶対領域】が従えさせることの出来るのは、
しかし、ジェニーは“黎明”から生者の持つ生気を感じているため、理外の存在という選択肢もでてきていた。
「ま、何でもいいじゃろ。さっさと帰って何があったか聞かせてもらおうか」
「そうですね」
ひとまず危機は去った。
二人は燃える木々の中をのんびり歩いて帰っていく。
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