第8章『不死の秘境』

##17 【AWO】レイドイベントの時間です【ミドリ】

 


 あの戦いから数日が経過した。

 その間、ジェニーさん達は帝国へ帰還し、魔王城は快復した魔王さんがあっという間に再築した。そしてなんやかんやあって、私たち〘オデッセイ〙とエスタさん、ウイスタリアさんは魔王城に招待されて滞在することになった。


 ある意味では魔王国の救世主ではあるからね。

 次の目的地が決まるまで少しの間居させてもらうとしよう。



「――というわけで本日は今度来るらしい大型イベントの反動でミニサイズになった、プチプレイヤーイベントをやっていきます」




[燻製肉::どういうわけなんだ……?]

[セナ::お久です]

[ピコピコさん::元気そうで何より]

[あ::豪華な部屋やな]

[死体蹴りされたい::待ってましたー!]

[ベルルル::きたー!!!]

[ジョン::今回のイベントの配信って大丈夫なん?]

[ジョージ::ライブ初見です]




 先日の戦いは色々と政治的動向が映るとまずいと思って配信せずに、「しばらくお休みです」と言っていた。そのため、久しぶりの配信となったのだが心配事が多いらしい。




「今回のイベントの配信はシステムで本来できないみたいなのですが、運営さんからイベント参加のPRになるかもということで是非やってくださいと言われました。だから皆さんの心配は無用です」




 そう、なぜか知らないけど宣伝大使みたいな役割を任されているのだ。もちろん無償で。

 これで私も実質、公認配信者になったと言えるだろう。だから何だと言われればそれまでだが、気分は良いよね。




「では改めまして……どうもお久しぶりです、公認美少女堕天使系美少女配信者のミドリです。よろしくお願いします」



[唐揚げ::美少女って2回言ったよ]

[天変地異::平常運転だね]

[らびゅー::※大事な事なので2回言いました]

[枝豆::はいはい美少女美少女]

[無子::その言い方だと美少女の部分が公認になるんよ]



 おしゃべりもこの辺にして、そろそろ本題に入らねば。イベントの説明をしておかないと公認剥奪になってしまう……まあそれならそれでいっか。

 公認を背負って縛られるくらいなら私は意識せずに自由にやりたい。なんなら特に詳しい説明をしろとか言われてないし、適当でもいいはずだ。



「あと数分でプチイベントか始まりますね。今回はなんかいい感じのレイドイベントらしいですよ」



 今回は個人で参加する系のやつで、レベルとか条件に合わせて挑める難易度が変わるらしい。


 簡単な方から“イージー”、“ノーマル”、“ハード”、“ベリーハード”、“ナイトメア”、“サンクチュアリ”である。

 私以外の〘オデッセイ〙のメンバーだとパナセアさんとコガネさんが2番目の難易度の“ナイトメア”に参加する。




「イベントにはもちろん他のプレイヤーの方も居ますから、コメントは見れないと思いますのでよろしくどうぞ。……まあそもそもボス相手にそんな余裕あるかは微妙ですけどね」




[焼き鳥::イベントの説明雑過ぎw]

[セナ::頑張って〜]

[壁::コメントなんて気にせんでもろて]

[芋けんぴ::ええんやで]

[紅の園::どの難易度に挑む感じです?]





「ああ、私が挑むのは――――」



『レイドイベント、難易度“サンクチュアリ”の準備時間が開始します』『イベントフィールドへ転送します……』



「最高難易度の“サンクチュアリ”ですね。対よろです」



[あ::ふぁっ!?]

[カレン::ファイトー!]

[階段::マ?]

[コラコーラ::最高難易度!?]



 驚愕だらけのコメント欄を閉じて、私は眩しすぎる転送の光で目を閉ざした。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 うぅ〜と唸りながら目を開けると、そこは厳かな雰囲気の神殿のような場所であった。中央に質素ながらも洗練された青年の石像があり、その左右に小さめの石像が立っている。片方は女性なのか髪が長く目がキラキラしていて可愛らしい。もう片方はどこか落ち着いた優しい目をしている。




「……配信、してる?」


「きゃ!? ってネアさんですか。一応してますけど切った方がいいですか?」



「別に」


「そ、そうですか……?」



 まじまじと配信カメラを見つめている。ネアさんとは帝国ぶりだっけ。マツさんとは前のイベントで会ったけどこの人とは久しぶりだ。

 ――いや、そういえば公国に入る前に冥界から脱出した所でばったり出くわしてたかも。それでも久しぶりになるか。



「お久しぶりです」


「ん」




 会話終了!

 特に話す話題を無いし、開始時間まで無言で待つしかないというのか……。



「なんか集まり悪いですねー」


「……条件」



「やっぱり難しいんですかね」


「確認できる」



「へー、どれどれ……」



 達成されている条件が確認できるようなのでチェック。“サンクチュアリ”のところで表示されてるのがクリアしてる条件だから――



「神属性持ちの討伐、神との深い関わり、代行者候補? 最後のはよく分かりませんがおおむね納得です」



 神属性持ちはたぶんつい最近の暴食の彼女だろう。途中無言で地面突き上げてきたし。




「ネアさんはどんな感じでした?」


「……普通」



「なるほど? ま、まあいいです。というかこれ条件結構厳しいですよね。……あれ、これならマツさんとかシロさんも来れたのでは?」


「……マツ、リアル仕事…………シロ、リアル法事」



「あー、被ったんですか」




 マツさんに限っては戦闘狂だからお気の毒に。

 ――と意外と普通に会話をしていると、ほとんど同タイミングで2人の人が現れた。


 一方は渋い感じのご老人。侍のような着こなしをしている。


 もう一方は金髪で長めのウェーブにタレ目系美少女。聖女かと聞きたくなるくらいの清楚さだ。清楚レベルで言えばソルさんとタメを張れる。



「あ、ネアちゃん。他の方は居ないの?」


「休み……そっちも」



「ハクちゃんは法事。シロちゃんと同じかしら」


「そ」




 ネアさんの知り合いか。やっぱりトッププレイヤー同士の繋がりとかできているのだろうか。



「そちらは?」


「ミドリ」


「はじめまして、ミドリです。今日はよろしくお願いします」



「そんなに畏まらないでね。回復くらいしかできないから。あ、ミースです」



 ミースさんね。覚えた。金髪の回復役ということで――――ん?


 この声に金髪の聖職者……もしかして、はじめましてではない?




「あの、もしかしてですけど、帝国付近で気絶してる私を助けてくれたりしました?」


「ん? あー、そんなこともあったようななかったような…………あったかも?」




 どっちなんだい!

 でもたぶん助けてもらったはず。どらごんと初めて遭遇して私が吹き飛ばされて気絶していた所に金髪の聖職者と紫髪の侍が助けてくれた、ってサイレンさんあたりが言っていた気がする。


「あの時はありがとうございました」


「いやいや、確かに何となく助けた気はするけど気にしないで! 困った時はお互い様だからね!」


「は、はあ……」



 相槌は打ったけど、それって暗に今度は私が助けなければいけないやつじゃん。その言葉、嫌いかもしれない。




「彼岸花の子か。久しいな」


「……ネア」



「そうか、彼岸花の子」


「チッ」



「ケッケッ! 冗談じゃ。ところで始まる前に一戦しとかんか? 随分強くなっているようじゃし」


「……断る」



 私とミースさんの横で険悪そうな雰囲気が流れている。かなり年の差がありそうだけどネアさんは誰に対してもネアさんで安心している私も居る。



「そっちの堕天使の子はどうじゃ?」


「私に振ります? まあ別に――」



「駄目……戦力が減る」



 それって私が死ぬということ?

 確かに一瞬で堕天使と見破るのは凄いけど、私だってそうそう負けないよ?



「いーや、そう言われたら火がつきましたよ! 望むところで――」


「駄目」


「そんなこと知ら」

「だ」


「絶対屈しませ」

「め」


「……」

「……」



 ものすごく見下すような目で凝視しながらつま先を踏まれている。ここまで言わせるほど相当な強さなのはよく分かった。流石にここで勝負を受けたらご老人と手合わせする前にネアさんにボコボコにされる。

 まだ【不退転の覚悟】のクールタイムが明けていないので、ネアさんに対する勝機は皆無である。大人しくしておこう。



「わかりました。やめておきます。そちらの方もまたの機会でお願いします」


「残念じゃな。また次に会ったら存分に戦うとしよう」



「ですね、私はミドリです。お忘れなく」


「儂は仙老じゃ」



 ネアさんが呆れたと言わんばかりにため息を吐く横で、仙老さんと熱い握手を交わす。



 ◇ ◇ ◇ ◇


『レイドバトル開始まであと1分です』



 ミースさんと仙老さん間の挨拶も済ませ、陣形諸々を話し合ったところで残り1分のアナウンスが響いた。



「セ~~~〜フ!」

「アウトでしょ。ほら、作戦とかもう決まっちゃってるんじゃない?」



 そこに二人組が入ってきた。

 片方は現実で仲良しの凛さんだ。現実でフレンド交換を済ませて容姿の確認までしているのですぐに分かった。もう一人はご友人だろうか。



「リンで〜す。魔法とか魔術とか使えま〜す」


「サです。前中後衛で剣振り回します。遅れてすみません」



 凛さん、改めリンさんは相変わらず間延びした口調でのほほんとしている。それを支えるように“サ”さんがしっかり者っぽくて相性ピッタリだ。……名前以外はしっかりしている。



「ミドリちゃんやっほ〜! こっちでははじめまして〜」


「どうもー。結構ギリギリですね」



「いや〜、ミドリちゃんが“サンクチュアリ”に行くって聞いて急いで神様倒してきたからさ〜」


「うぇ!? 今さっきですか!?」




「そうだよ〜」

「まさか間に合うとは思いませんでした。遅刻してすみません」



 驚愕の事実を簡単に言ってのけるリンさんと、自分にも責任があるとしきりに謝ってくるサさん。



「よく分かりませんけど分かりました。遅刻といってもまだ始まる前なのでセーフですから、サさんもそんな謝らないでください」


「そうそう、むしろ戦力が増えて何よりだから」


「そうじゃな。なかなか腕前もありそうじゃし」



 その言葉を聞いて、少しサさんの肩の荷が降りたようでホッとしている。



「……魔女は土下座」


「ネアさん!?」



「あ〜! こうくんのお友達だ〜。ネアちゃんね〜。あんまり喋ってなかったから仲良くしようね〜」


「……死ね」


「ネアさんストップ!」




 よっぽど苦手なのか今にも殺そうとしていたので、私は間に入って止めにかかる。

 仙老さんのもリンさんのも、ネアさんって嫌いな人が分かりやすい上に隠そうともしないのでかなり険しい人生を歩んでそうだ。

 それを考えたらネアさんの私への態度って普通なのか。ちょっと安心。



「……」


「な、なんですか?」



「…………別に」




 見透かされたのか睨まれた。下手なことは考えない方が良いようだ。



「サさんは……呼びにくいんですけど何か愛称とかないんですか?」


「リン、あったっけ?」

「ん〜、沙奈ちゃんは沙奈ちゃんかな〜」



 ネットリテラシー……。



「サナでよろしく」


「分かりました」



 ツッコむべきかとも思ったけど、私もまんまだしやめておく。

 ――と、雑談タイムは終了だ。まだしっかりと作戦が決まっていないけどこれだけ強そうな面々が集まればなるようになるだろう。





『レイドバトルを開始します』



『難易度“サンクチュアリ”、討伐目標:――』





 中央の青年の石像にヒビが入った。

 中から人が姿を現した。




『――人神クーロ・レプリカを討伐せよ』




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