#92 【AWO】第五回イベント “今は朽ち果てし無人島”、ソロ参戦!【ミドリ】
青い空、キレイな砂浜、水平線の彼方まで海しか見えない景色。
そして、辺りを見渡せば一面の人だかり。
「人が居すぎる無人島は無人島って言わないのでは?」
[サンゴ礁::それな]
[蜜柑::正論……]
[燻製肉::台無しなのは同感]
[メダカ::来る前は無人島だったしセーフ……?]
[芋けんぴ::プレイヤーは多ししゃあなしよ]
早速朝からプレイヤーイベントに一人で参加しているわけだが、周りが知り合いとガヤガヤしている中、どうやら馴染めていない人がいるらしい。
さてはて、誰のことやら。
「ふぁわぁ……」
眠い。
マナさんはお昼まで二度寝すると言ってたし、私も一緒に二度寝した方が良かったと既に後悔の念が顔を出している。
『プレイヤーの皆さん、おはようございます。主催のヒヤヤッコです』
『ほ、補佐のバナナです、ごめんなさい。おはようございます』
脳内に声が響いてくる。
周りの人達も静かになっているから、私だけではないのが見てとれる。
運営の挨拶だろうか。
『内容はだいたい書いてあるますが、優しいのでざっと説明します。優しいので』
『聞いてくれると嬉しいです、ごめんなさい』
癖が強い二人だなーと思いながらも、黙って説明を聞く。
『とにかく三日間生き延びて、色んなことをすればポイントがもらえるます』
『あまり喋るなとサクラ姉様に釘を刺されているので以上です、ごめんなさい』
『Aグループ、えーと〘大連合〙とか有名なミドリちゃんとかがいるところには、とある秘宝が眠ってるよー。あ、ちなみにミドリちゃんはわたしの担当だよー。すごいでしょー』
『『ハクサイ!?』』
何か聞いたことのある声が割り込んできた。
キャラメイク時にお世話になった、金髪のカワイイ子の声だ。
語呂合わせ野菜で微妙なところを引いてるなー、って考えてたから印象に残っていた。
あの最初の空間で会う人が担当になるのは知らなかったけど、もしGMコールしたらハクサイさんが出てくるのかな?
「というか私、そんなに有名ではないんですけどね」
[枝豆::え?]
[セナ::結構有名だよ?]
[バッハ::視聴者数をご覧下さい]
[ベルルル::有名 とは]
[はなび::そもそも配信者の数が少ないから必然的に有名なんだよね……]
色々反論したいが、周りが静かなので睨んで黙殺する程度に済ませておく。
『おい、ハクサイ』
『うげぇ、たいさーん』
『邪魔者が入ってきたけど、お構いなく楽しんでくれると嬉しいです。頑張ってください』
『サクラ姉様こわ。あ、頑張ってください、ごめんなさい』
最後まで騒がしい運営だったが、私達は一体何を聞かさられたのだろうか。
……私だけ無駄に人目を浴びる羽目になっただけじゃん。
「無人島といえばまずは拠点づくり、というわけでまずは木材からでも――」
赤い線が正面から伸びている。
咄嗟にしゃがんでそれを避ける。
通り過ぎた何かが、後ろで砂に着地した音が聞こえた。ストレージがイベント中は使えないため、あらかじめ腰につけておいた{適応魔剣}を抜く。
後ろを振り向くと、攻撃してきた相手が何者か、すぐに分かった。
碧色のショートボブに金のメッシュが入った美人さん。最後に会った時から変わらずにメイド服を着ている。
「お久しぶりです、マツさん。外套は来ていないんですね」
「邪魔な荷物は要らないと判断したまでですよ」
帝国御前大会の決勝で戦ったマツさん。
私は軍服にポニテと、かなりイメチェンをしたが、目の前の彼女は一切変わっていない。
戦闘狂なところも。
「あれから更に強くなったので、今回はボコボコにしてあげます」
「私だって強くなってますからなめないでください。というかそもそも戦うイベントではないと思うんですけど」
血気盛んなマツさんを宥めようとするが、聞く耳は持っていないようで拳を構えている。
「【
「職業、重戦士、【適応】、【パワースラッシュ】」
『職業:《重戦士》になりました』
すっかり忘れていたが、《大剣使い》には星がついていて、次のランクの派生職を選べたのだ。
一番使い勝手の良さそうな《重戦士》になって攻撃を仕掛ける。
拳と剣が交差しようとした寸前で、二つの影がそれを遮る。
「こぶぇっ!」
「【ダイナミックスラッシュ】! そこまでですよ!」
私の斬撃は剣で相殺され、マツさんの殴打は男の人が受け止めようとしてあっさり吹き飛ばされた。
双剣で受け止めようとしたのだろうが、軽装備の人がやったのは失敗だと思う。
「こぼぼ……死ぬ! もうHPがのこり一桁しかない。くそ痛いし……」
かっこよく間に入った割にめちゃくちゃダサく海ポチャした男性を無視して、私の目の前の騎士風の女性は説得を続ける。
「今回のイベントは協力イベントです! こんなところで争いをしても無益です!」
青色のポニーテールが元気な騎士さんの身振りに合わせて暴れている。
説得は私ではなくマツさんに向かって言っているあたり、空気は読める人らしい。
「うわ、相変わらず気色悪いぐらい元気ですね」
「元気ですよ! 第二回イベント以来ですかね!」
面識あるのか。
それに、第二回イベントってことは少なくとも第二陣より前の人。私の渾身の斬撃を受け止められるわけだ。
「そちらのミドリさんは初めましてですね! 正義の
「うるさい、アホの剣」
「正義の剣です!」
マツさんは当人の前で嫌そうな顔するほど苦手な様子だ。傍目から見たら仲良しなので微笑ましい。
対する私は熱血系の人も嫌いではない。得意でもないけど。
「はじめまして、ミドリです。正義の剣というお名前なんですか?」
「そうです!」
「いい加減黙りなさいアホの剣」
「正義の剣です!」
「すみません、先にこのアホを黙らせるのであとで戦いましょう」
「正義の剣です!」
もうこの二人仲良しじゃん。
しかし、殺し合いに発展しそうなのでどうしたものかと思案していると、海から上がって回復してもらっていた先程の男性が近づいてきた。
「ほら、落ち着け、ステーイ! マツさんだっけ、あんたも落ち着いてくれ。というか話の通じるやつ呼んでくれないか?」
「犬ではありません! 剣です!」
「剣でもないだろ。人としての自覚を持て」
どうやら騎士さんの飼い主のようだ。
諌めてくれるらしいので、ここら辺でフェードアウトしたい気持ちが強まってきた。
「残念ながら全員バラバラになったみたいなので、うちのクランの人はここにはいませんよ」
「ソロ参加なのか……」
わざわざクランじゃなくてソロで参加したのは何か理由があるのか聞きたげな男性だが、まずは戦闘狂を鎮めるのが先決だと考えたのか、何とか交渉を始め出した。
「もう行っていいんでしょうか?」
「少し待ってください! 我々〘大連合〙がこのイベントを攻略するための編成を練っています! 是非とも協力して欲しいです!」
怪しい宗教にでも勧誘されているのかと錯覚するぐらいの熱量だ。思わずはいと頷いてしまった。
それを確認した騎士さんは元気に飼い主さんに報告しに行ってしまった。交渉の邪魔で大変そうな飼い主さんだが、あれは躾が悪いので私は関係ない。
「結局ソロにはならなそうですね……」
大変そうな状況に対して見て見ぬふりを貫く。
さっきから私達のやりとりを見守っていた人達は〘大連合〙のメンバーなのだろう。確か一番規模が大きいクランとかどこかで聞いたし。
それにしても多いなー。
[無子::わちゃわちゃ楽しそうやね]
[お神::墓っ地会費]
[紅しょうが::よかったやん]
[木綿::人気者だぁ〜]
「あの……」
「はい、なんですか?」
砂浜に座って海を眺めていると、横から声をかけられた。
場所は海、黄昏ている私。
ここから導き出される答えは……ナンパ!
「すみません、私にはマナさんという素晴らしい伴侶が――」
「ファンです! 握手かスクショお願いします!」
「ふぁん……ふぁん? ……ファン! 私の配信を見ている変な名前の人ですか!?」
「あ、コメントはあまりしていないROM専なんですが、いつも見てます」
自分のファンを名乗る人と会うのは初めてだけど、ものすごい不思議な感じだ。こういうときは何を言えばいいのだろう?
「後ろにも列ができてるので早く済ませてほしいです! 長く話してると刺されかねないのでお願いします」
「え」
ひょいっとその人の後ろを見てみると、結構な人数が綺麗にならんでいた。
――軍隊かな?
しかし、こんな人数の対応はめんどくさいし、何より暇つぶしにしては時間がかかりすぎてしまう。かといって可能な時間までやると不平等になってしまう。
ならこうすればいいのか。
「はーい! 並んでる皆さんも聞いてください! 人が多すぎるので握手もスクショも今日はやりません! ただし、自分が幼女だと無い胸を張って言える方だけ集合です!」
それを聞いた人だかりは、さっと解散しだした。
先頭の人もお辞儀をして逃げていく。
結局、残った幼女は一人たりとも居なかった。
残念。
「マナーはいいですけど、私に会いたいなんて、皆さん欲望に素直ですね。もう少し慎ましく生きた方がいいと思いますよ?」
[あ::おま! おま!]
[壁::欲望に満ちた要求をした人が言う言葉とは思えない]
[セナ::幼女になるようにキャラメイクしないと!]
[唐揚げ::おまいう]
[髭剃::これはブーメラン世界選手権優勝]
[ピコピコさん::これもう新しい芸術だろ]
……確かに自分でも脳裏をよぎったけど気にしたら負けだ。後回しにしていたステータスでも確認しよう。
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