#機械VS呪い&暗殺 (口論)#
マナとソフィの終盤戦と同時刻。
パナセアはある人物に標準を合わせていた。
「【狙撃】」
連合国のミスを踏まえた対物ライフル。
その弾は狙い通り片足のアキレス腱を撃ち抜いた。倒れ込む目標を確認してから確保しに飛ぶ。
相手は非常時に町の外へ歩いてフードを被った明らかに怪しい人物なので、パナセア油断せずに近付く。龍やその陣営とも違うのは一目瞭然なので尋問する気なのだ。
「自分がどれほど怪しいかは分かっているだろう。名前と、どういう意図で行動しているか言いたまえ」
「あら、結構なご挨拶じゃない。うふふ、でも、この世界で最初に名乗る相手は決めてるからごめんなさいね」
「……」
「どういう意図の行動、だったかしら。それは――」
ずっと無言で銃口を向けていたパナセアだったが、すぐに背後へ振り向いて引き金を引く。
「きゃ!? バレちゃった?」
「増援か」
「そんな物騒なものじゃないわよ〜。ただの姉妹なんだから♪」
ナイフを構えた、同じようにフードを被った小柄な体躯の女性が警戒していたパナセアの横をすり抜け、もう一人を立たせる。
「お姉ちゃん何してるのさ」
「いやー、呪いの効き目が悪くって。機械相手は相性が悪いみたい」
「っ!」
ついさっき狙撃したはずの足は治っていて、代わりに自分の足の調子が悪いことに気が付いた。
(おそらくパッシブでダメージを返せる呪術師に、目の前で自然と接近を許してしまうほどの推定暗殺者。ますます企みを聞き出す必要があるな)
引き金に手を離さずに尋ねる。
「何が目的だ。そして何かの組織なのかな?」
「どうする、お姉ちゃん?」
「口止めされてないし別にいいと思うわ。目的は既に果たしてるみたいだからナ・イ・ショ」
「確かに面白いし言っちゃおっか。私達は……簡単に言うと邪神教徒かな?」
「厳密には違う気がするよねー」
「邪神教?」
「あらあら、そこからなのね。まあ詳しいことは自分で調べて欲しいのだけど、そうね……プレイヤーで邪神教徒なのは私達姉妹と、もう一人変なお嬢様RPの子だけってのは教えてあげる」
「お姉ちゃんやっさしー!」
プレイヤーという言葉を聞いて、パナセアはより不思議そうな顔をする。引き金は逆に今にでも引かれそうな具合だが。
「ゲーム内の宗教にハマることもあるのか……? いや、口ぶりからして別の個人的な動機で入っている、としたら何かしらの私怨・復讐か? あるいは金銭絡みの問題か?」
「残念ハズレ〜」
「お姉ちゃんはお金持ちで〜す」
「……なら正解は」
「ミドリ様を――」
「ミドリ様の――」
姉妹がハモってパナセアは猛烈に嫌な予感がした。
「養うの!」
「義妹になる!」
「あー、つまり呪いの姉の方はミドリくんをヒモにしたくて、ナイフの妹の方はヒモになったミドリくんが義姉になるのを望んでいると」
「「Yes!」」
パナセアは銃は構えたまま、空いた手で眉間を指圧する。厄介なファンも居たものだなと、説得方法を考えている途中で別のことに気付いた。
「もう一人の方は――」
「あの子はガチ恋に近いかしら」
「厄介オタクってこれだから困るのよね、お姉ちゃん」
「本当よねー。私達のミドリ様なのに」
「(ツッコミ待ちではなさそうだな)あー、そもそもどうやって邪神教とやらでそれが成し得るのかな?」
「それは」
「内緒だよね」
息ピッタリの返答にまたため息をついてから、最後の質問を投げる。
「そのもう一人も同じような目的なら、最終的にはそこで争うはずだが、どうするんだい?」
「血で血を洗う戦いかしら?」
「まぁ二対一だし」
もう聞き出すのも限界と悟り、パナセアは引き金を引いた。完全な不意打ちだったはずだ。なのに、妹の方がナイフで難なく弾を切って防いでみせた。
「今度はこっちから質問。ねえ、貴方は何のためにミドリ様と同行しているの?」
姉がパナセアに尋ねる。優しい口調で尋ねていてある意味包容力を象徴している。
――しかし、その質問にはかなり怒気が混じっているのをパナセアは見逃さない。かといって媚びるような返答をする気は彼女にはない。ただ事実を述べるだけ。ありのままの感情を表現するのみ。
「彼女の誘い文句通り、面白いものが見れるから。彼女の生き方はとても素敵で美しいから。そして何より、彼女は喜劇も悲劇も受け止めて、未来を切り拓く英傑のような在り方をしているからな」
「あら、案外貴方もこちら側なのね」
「同志じゃん!」
「はっ! 笑わせるな。私は彼女を崇拝しているわけではない。あれでも繊細な一面もあるようだし、道を誤ることだってあるさ。――盲目的な崇拝と、私たちの信頼を同じにするな。君らは“ミドリ”だけを見ているのであって、彼女のバックグラウンドまで目を向けてすらいないのだよ」
ウェルカムと喜んでいた姉妹を突き放す言葉。推しへの不十分な理解を突きつけられた厄介オタクが反論しないはずもなく――
「もちろんいつかミドリ様の口から過去の話とか聞きたいと思ってるわよ」
「そうそう! 強引に聞き出すファンがどこにいるの!」
至って健全で善良な反論だが、パナセアの論点はそもそもそこにはない。
「そういう話ではない。君らが“ミドリ”と信じて疑わない彼女の根幹に、別の誰かが介在しているということへの理解の話だ」
「どういうこと?」
「ミドリ様はミドリ様でしょ!」
「そもそも人間とはその人間性たりえる場所に自分以外の誰かを添える場合が多い。口調や性格、髪型、服装。それらは誰かの真似をした部分が根底にはあるだろう。家庭環境に影響を受けた場合もある。つまり、彼女がすべて彼女だと信じているのは馬鹿馬鹿しいと言いたいのさ。彼女はあくまでもただの人間なんだから」
至極当然の話。
人間とは常に誰かに影響されて生きる生物である。それは“最初の一人”だって他の分野では同じことが言える。
「お姉ちゃん、つまりどういうこと?」
「……大丈夫、お姉ちゃんも分からないから。だって、結論を言っていないもの」
「そう、今のは前置きさ。それも踏まえて私はミドリくんのことを見ていて気付いたんだ。彼女の言動、思考の奥底には揺るぐことのない誰かが居ることをね」
首を傾げる姉妹に続けて説明する。
「色んな状況、環境下、ミドリくんは常に変化を続けていた。最初期の配信も見比べたが、やはり殺伐とした世界への適応が大きいだろう。しっかりと変化を続けている中で、ブレない芯もあった。それは自身で引いた線ではなく、無意識のうちに誰かに
「――それすらもミドリ様のものだと思っているから一緒にするなってことね。無駄話が多かったのは足止めのつもりみたいだし。はあ、疲れちゃった。帰ろっか」
「うん。なんか嫌な気分になったし。一応回収は済んでるからね!」
姉妹はついぞフードをとることなく闇に呑まれて消え去った。
それを見送ってパナセアは笑う。
「置き土産の金縛りといったところか。まったくとんだ厄ネタだな」
戦闘になれば一人もっていくのが限界だと予測していたので時間稼ぎに徹していたが、その選択は正解だったようで、機械のパナセアすら縛りつける呪いで追うことも許されなかった。時間稼ぎで誰かが増援に来て欲しかったのも相手に読まれていたのを含めて、本当に面倒な敵がいたものだと、パナセアは謎に感心していた。
「ふむ、よく考えたら、そもそも研究者がモニター越しのデータで満足するはずもないな――――」
動けないのもあって暇なので先ほどの質問を再度自分で深堀りしていく。
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