第2章『過去からのバトン』
#27 三人で、進みます。一人で、――――
「…………足が、パンパンです」
「…………ぼくも」
「ほらほら、もう少しっすから、頑張るっすよ!」
体力の無い私たちの背中を、元気なマナさんが押す。何の根拠もないのにその言葉を言うのは何回目だろう。
「もう夜も近いのに、遠いんですよ」
「それもそうなんすけどね……」
あれからピクニックで余ったものを昼に食べたりしながら、一度現実でも食べてきたりしながら歩き続けても、まだ着かない。
配信もグダグダになるといけないので、昼に抜けた時に切ったままだ。
「そういえば、ミドリさんは飛ばないんすか?」
「歩きたいんですよ。よっぽどのことがない限りは」
現実で歩けるようにの練習にもなってるからね。
スキルで思い出した。
職業を与えるやつ、二人は仲間なんだし聞いてみようかな。
「実は私、職業とやらをあげることができるのですが、どうでしょう?」
「職業?」
「なんすかそれ?」
「ステータスに追加される項目で、一度決まると変更ができないものみたいです。その職業にあったスキルが使えるようになったり、補正とかがあるかもですが、一部のスキルが使えなくなるかもしれないというハイリスクハイリターンのものです」
私はその限りではないけども。
「なるほどね……」
「欲しいっす!」
考え込むサイレンさんとは対極的に、マナさんは即答する。
「いいんですか?」
「大丈夫っす!」
本当かなー? 何も考えて無さそうで心配になってくる。
「本当にやりますよ?」
「いいっすよ!」
両手を広げて、歓迎といったポーズを取っている。
「はあ……そいっ!」
「おぉー」
自分に職業を与えた感覚と同じように与える。
「どうでした? あ、ちなみに職業は強くなっていくので最初弱くても大丈夫だと思いますよ」
私のもいつの間にか見習いが取れてたし。
「う〜ん、
明らかに強そうな感じのやつだ。見習いは? 神様ー、見習い期間を入れないんですかー?
少し羨ましく思ったが、私はそれにもなれるんだった。
「決めた。ぼくもやるよ。早い内にやった方が、舵取りを変えるにしろお得だから」
「無理にやらなくてもいいんですよ?」
こっちはこっちで、考え過ぎて迷走してないか心配になってくる。
「やらなかったら後悔する。ぼくはそういう人間だから」
「……あくまでも貴方の意思を尊重しますが、あまり思い詰めないでくださいね」
「ありがとう」
「そいっ!」
先程と同じ感じで与える。
「は?」
サイレンさんが、呆気に取られたような声を漏らす。表情もポカーンと効果音が聞こえてきそうな間抜けな顔をしている。
この反応、ハズレ引いた?
「えーと、どうでした?」
「――――ル」
「る?」
「アイドルだよ! アホかっ!」
恥ずかしさか、ハズレを引いた悔しさか、走り去ってしまった。おそらく前者だろう。
「追いかけましょうか」
「元気っすねー」
おまいうとはこういうことなんだね。よく分かった。
走りながら、私もステータスを確認しておく。
「ステータスオープン」
######
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:天使
職業:大剣使い
レベル:21
状態:正常
特性:天然・善人
HP:4200
MP:1050
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛
R:(神聖魔術2)・飛翔3・天運・天眼・天使の追悼
N:体捌き3・走術1
職業スキル:筋力増強3・大剣術3
######
スキル
【大剣術】ランク:ノーマル レベル:2
大剣の扱いが上手になる。
アーツ:パワースラッシュ・ヒートアップ・プッシュダウン
アーツ
【プッシュダウン】
上からの攻撃時、弾かれたり防がれた場合に押し込む力が強くなる。
CT:3時間
######
大して上がってない。
いや、新しいアーツはかなり便利そうだけどね。
「あ、サイレンさん、熊に襲われてるっす」
「大丈夫そうですよ」
「おっ、すごいっすねー」
サイレンさんが慌てながらも歌ったことで、熊はその歌声に聞き入って座り込む。正座で。
「正座で推しの歌声を
「オタクっすか?」
「気にしないでください。絶好の機会ですし、狩りましょう。今夜は熊肉ですかね」
「お肉〜!」
子供のように無邪気に駆けていくマナさんを微笑ましく見ながら、大剣を取り出す。返り血から白い装備を守るため、ボロボロのコートを着る。
大剣といえば、この剣の製作者さんにいい素材の融通しなければいけない。どこかで大物を狩って、また王都に行こう。
「【スーパーノックバック】っす!」
のんびり考えごとをしていると、マナさんが熊に盾をぶつけ、吹き飛ばす。
こちらに向かって。
「ちょっ……【パワースラッシュ】!」
ドタバタと迎撃。
手に重い感触を覚えながら、真っ二つに斬り裂いた。グロい。生き物を殺すのにも少しずつ慣れてしまっている気がする。この残った忌避感が消えるのも早そうだ。
私って切り替えが早いのが強みだからね。
それはともかく、サイレンさんが歌で隙を作り、マナさんが吹き飛ばし、私がトドメ。いい連携と言えるけど……。
「いきなりやらないでください!」
反応が遅れたら、私が熊に
「いやー、新しいスキル試してみたくてやっちゃったっす!」
「歌の効果上がってる……」
開き直る一人、自分が進むアイドルの道に苦悩している一人。
「もういいです。少し早い気もしますが、このまま夕食にしましょう」
この場で解体して食べた方がストレージに入れる手間が省ける。
私が解体をして、二人が火起こし等をする。
「あ、ゴブリンの依頼完了の報告してませんね」
今更思い出した。
「それなら昨日済ませたっす。分配は後でしようと仕舞ってもらってるっす」
「そうだった。ぼくも忘れてた。分配の割合はどうする?」
「三等分でお願いします」
「いやいや、マナ何もしてないっすよ」
「ぼくもほとんど何もしてないよ」
「絶対譲りませんから」
「えぇ……」
「そこで頑固になる……?」
「譲りません」
「……分かったよ。ホイ」
サイレンさんが、ストレージから取り出して分ける。一人小金貨2枚、つまり2,000Gだ。
「ありがとうございます。冒険者カード出してないんですけど、大丈夫でしょうか?」
「パーティーだと一人で良いらしいよ。勝手に更新してくれるみたい」
便利だなー。どういう仕組みなんだろう?
「火が点いたっす。寝床探してくるっすねー」
「ぼくも手伝うよ」
「お願いします」
二人を見送って、解体の続ける。
中々硬くて刃が通りにくい。
毛皮と肉を切り分け、汚さないように収納していく。
最後の肉をストレージに入れた瞬間、視界の端で左横から細い赤い線が映る。
背中は大きめの岩があるからなのか、横から誰かが攻撃してきたのかな。
相手のいる方向に詰めながら
後ろで地面に何かが突き刺さる音を聞きながら、走る。
「【ダッシュ】」
攻撃は木々の隙間を掻い潜って通ってきたので、かなり潜伏の上手い相手だ。
黄色の線を追いかけ、足場の悪い森を駆ける。
「ッ!?」
目の前に、上から赤い線が降ってくる。
ギリギリ踏み
かなり読まれた偏差撃ちだ。かなりの腕前。
足を止められたせいで、逃げられたようだ。黄色の線が消えてしまった。こうなっては追えない。
「念の為回収しといた方がいいかな」
何かの手がかりになるかもだし、矢を収納。
心配してる二人のもとに飛んで戻ろ。
「【飛翔】」
もしかしたら見えるかもしれないので辺りを見渡してみるが、攻撃してきた方には人は見えない。
諦めて元の場所へ飛ぶ。
解体していた場所で、二人は慌てている。死んだと思われたのかもね。
「ご心配おかけしました。無事です」
「ほっ、よかったっす」
「びっくりしたー」
「少し…………散策していまして」
言う必要は無いかな。
初めての旅なんだし、心配事もあるかもしれないから。余計な心労をかけたくない。
「元気っすね〜」
「迷子にならないようにね」
「迷子なんて……子供じゃないんですから」
のんびり話しながら、つけてくれた火の周りを囲って座る。
「寝床、ありました?」
「いい感じの洞窟があったよ」
「人も獣も居ない、静かな場所っす!」
それは何より。
「あ、肉どうやって焼きます?」
「フライパンとお皿、鉄串もブランさんから貰ったよ」
そう言って色々取り出してくれる。
サイレンさんとブランさんの会話、どんな感じだったのか気になるなー。
鉄串で肉を刺して、焼く。
「ふむ……」
「お腹空いた、疲れたー」
「そうっすねー」
「失敗かもしれません」
「え?」
「ほぇ?」
この焼いてるところをスクショして投稿したら、下処理の心配をされた。何やら下処理が必要らしい。
視聴者さん、こんなところでも有能。
もう遅いけど。
「獣臭さが残るかもとのことです」
「臭いぐらい平気っすよ!」
「そうそう! そんなのでぼくの食欲は失せないよ!」
「お二人が大丈夫なら私も構いません」
こちとらドラゴンフルーツとかがある世界で生きてるんだ! 平気平気!
食べたことないけどね。
「いただきます」
「いただくっす!」
「いっただきまーす!」
食欲旺盛な子達を見ると和むな〜。私は少食だから、余計に元気に見える。
穏やかな気分で、口に入れ――
「くっ……」
「うっ!?」
「うげっ!!」
これは……
「想像以上に臭いですね」
「はな゛つま゛め゛ば食べれるっすよ」
「ほん゛とだ」
全員で鼻をつまみながら食べる。
味がよく分からなくなっているけど仕方ない。
臭いんだもの。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまっす」
「もう二度と熊肉は食べない」
「まだ余ってますよ?」
「売ろう!」
「まあ、それが無難でしょうね」
熊肉の今後のご活躍をお祈り申し上げたところで、見つけてくれた洞窟へ向かう。
熊肉を食べるのに時間を奪われたせいで、夜も深くなってしまった。
洞窟に到着する。
焚き火の準備も先程してくれたようだ。
布団代わりに、干し草のような物が置いてある。
「見張りどうします?」
「あー」
「皆で寝たらダメなんすか?」
「普通に死ぬかもしれまんよ?」
「そんな簡単に死ぬっすか?」
分かっていない。
「死にますよ」
この世界の残酷さを。
「誰でも簡単に殺せますし、殺されます。油断してはいけません」
私とサイレンさんだけなら別によかった。
でも、マナさんは死んだらそれで終わりだ。
「順番に見張りをしましょう。サイレンさん、私とフレンド登録してください。いざとなったらそれで連絡が取れるはずです」
「あ、うん」
メニューから、フレンド申請、目の前の人に送信っと。
『プレイヤーネーム:サイレンにフレンド申請しました』『フレンド申請が承認されました』『プレイヤーネーム:サイレンとフレンドになりました』
「では、3時間交代で見張りをしましょうか。あまり離れなければ、好きに行動しても良いという感じでどうでしょう?」
「分かったっす!」
「いいねー!」
「じゃんけんで決めますよ。負けた順で最初からです。最初はグー、じゃんけん、ぽん!」
「「ぽん!」」
私、サイレンさん、マナさんの順番になった。
今更だけど、マナさんにじゃんけんが通じるんだねー。ここの人達も元々知ってたのか、どうなのか。
「おやすみなさい」
「おやすみっす〜」
「おやすみー。3時間後に入るね」
「お願いします」
マナさんは一瞬で寝て、サイレンさんもログアウトなので同様に寝ている。
二人が居ないので、静かになる。
世界から音が消えたみたいだ。
「さて」
考えるべきことはあるけど、こんな夜は思い出してしまう。
一昨日の夜のことを。
「すぅぅ……ふぅぅぅぅーー」
深呼吸。
痛覚設定はちゃんと最低の半分。
装備を初期装備にする。
覚悟は決まった。
「職業、
『職業:《
これで【神聖魔術】が効率よく使える。
ストレージから、大剣を取り出し、軽く、腹に突き刺す。
血が滲み出る。
床にできる血溜まりを見ながら、唱える。
「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ――――」
スキルのレベルは使用頻度等で上がるらしいので、ひたすら自傷と回復を繰り返す。
見られないように。
ひっそりと。
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