#43 応援します




 〈試合開始☆〉




「ふぅ、ギリギリですかね」



 急いで上ると、すぐそこにパナセアさん、配信カメラ、どらごん、そして謎の小型機械が居た。

 どうやらここは穴場なようだ。人も少なく、それなりに試合が見える場所。



「お疲れ様、おめでと」


「ありがとうございます。……一応状況を聞いても?」



 後半だけ耳打ちして、どらごんのことを尋ねる。

 災獣と明かしたとか、誤魔化したとか、合わせる必要がある。



「一応マナくんが拾った謎生物と言っておいたよ。マンドラゴラとかマンドレイクではないかと言われていたね」


「分かりました。なら、その機械は何ですか?」



「私の初期リスポーン地点に居たあそこの施設の先住民さ」



 パナセアさんが作ったのではないのか。1回あの遺跡はちゃんと調査した方がいいと思うなー。



「そろそろ試合を見ようじゃないか」


「あ、そうですね。…………まだ全然減っていませんね」



 数人は場外だけど、マナさん、サイレンさんを含めてそこそこの数が残っている。



「さっきの試合が呆気なかったのだろうね」


「確かにそうですね」

 


 試合の成り行きを見守る。

 歓声でここまでスキルとかの声が聞こえないけど、動きで何をしているか分かる。


 先程から動きの無かった魔法使いっぽい杖を構えた人が、サイレンさんに狙いをつけた。


 その人が口を大きく動かすと、杖の先から水の球体が現れ、射出される。



「おー」


「鮮やかだな……」



 軽く身をよじるだけでかわし、槍の柄を当てて場外へ。



 その戦闘と同時に、マナさんの方でも動きがある。剣士がマナさんに向かって執拗しつように攻撃を繰り返す。



 誰に手を出しとんじゃわれ、って殴り込みたくなる衝動を堪えて見守る。



「存外表情豊かなんだね」


「はい?」


「ああ、気にしなくて結構。人を殺しそうな目をしてたから少し驚いただけさ」


「……それはすみません」



 そんなやりとりの横で、マナさんが反撃に出る。タイミング的に他の相手が減るのを待っていたのかもしれない。横槍が入りにくいからそれを活かしてって感じかな。


 倒した数が予選勝ち抜きに影響あるなら横槍も多くなるだろうけど、今回のルールだと無駄に体力が消費されるだけでメリットがほとんど無い。


 三つ巴の不安定な状況よりも1対1は単純でやりやすいから、わざわざ面倒な盤面に持ち込む物好きはそうそう居ない。


 マナさん、賢い!



 〈どらごん!〉

「頑張ってくださーい!」



 マナさんが攻撃をパリィし、盾での殴打を食らわす。相手は反撃を予測していなかったのか、簡単に体勢が崩れた。


 そこを更に追撃。

 おそらくあの口の開き具合からして、「【スーパーノックバック】っす!」と言ってるはず。




 〈吹き飛ばしたー☆ 盾の使い方が豪快だね☆〉


 〈場外勝ちが認められてる今回限りの戦法でもあるんじゃがな〉




 実況通り、場外まで吹き飛ばした。

 これで残り五人となった。



 マナさんとサイレンさんの二人と、ハンマー使い、空手家のような人、魔法使いっぽい人だ。



「勝ち抜けるかねー?」


「多分大丈夫ですよ」



 何も考えずに、試合を見ながら言葉を交わす。



「あ、魔法使いの人やられましたね」


「妥当かな」



 ハンマーが直撃し、場外までゴロゴロと転がっていく。流石にあのメンツの中に魔法使いが居たら狙われるのは必然だからね〜。遠距離攻撃はそれだけ脅威だし。


 実況席も盛り上がっているが、見れば分かるし一々聞いていない。たまーに耳に入るけど、敢えて当たり前のことを言ってる感じだからな……。



 どこか達観していて、熱を感じられない。まるで子供の遊びを眺めているかのように。




「どうかした?」


「…………いえ、何でもないです」



 考えすぎかな。わざわざ共有することでもない。



「そうか、お!」


「おー!」



 余計なことを考えていると、マナさんが空手家を、サイレンさんがハンマー使いを倒したのが目に入る。



 完全に一騎討ちだ。

 二人が場外から同じくらい離れた場所で向かい合う。



 どちらにも勝ってほしい。私の個人的な感情込みだとマナさんに勝ってほしいけど……。



 〈一騎討ちだ☆〉

 〈若干槍の方がリーチがある分有利じゃな〉



 戦いの火蓋が切って落とされた。





 先に仕掛けたのはサイレンさん。

 またたく間に接近し、槍でそのしなやかさを活かして絶え間なく突く。



 その全てをマナさんは冷静に盾で着実に防いでいる。

 しかし、一歩、一歩と押されて後退していく。



「マナくんが押され気味かな」


「いえ、あれは誘い込んでますね」



「ほう?」


「リーチはサイレンさんの方がありますから、少しでも距離を縮めたいのでしょう」



 縮まったところを、ノックバックので吹き飛ばす算段だろう。遠い状態だとすぐに槍を放せばサイレンさん本人は吹き飛ばないから。近くで力を込めて握ってる時か本人に直接当てたいのだろう。


 でも、私が読めてるってことはサイレンさんも読めてる可能性が高い。どうなるかな?



 〈誘いに乗った〜☆〉


「おー」


「意外な展開ですね……」



 私なら魔術で牽制してから追撃を仕掛けるけど……ん!?


 マナさんが吹き飛ばすスキルを使ったであろう瞬間、サイレンさんはその場で跳んだ。地面で踏ん張れば耐えれたかもしれないのに。



「これはマナくんの勝ちかなー」


「…………まだ、分かりませんよ」



 空中から、サイレンさんは槍を投擲。

 何かエフェクトがついてるからスキルだろうか。

 マナさんのパリィが間に合わない。先程吹き飛ばすために盾を振って戻したばかりだからだ。


 途中からしないということは、タイミングよくやらないとパリィのアーツは使用できないのだろう。



 マナさんが踏ん張りきれるか、サイレンさんが地面に着くかの勝負だ。



 サイレンさんはかなり斜めに吹き飛んでいて、普通よりかは高度が高いため落下まで少し時間がある。マナさんは槍の勢いに押されて少しずつ、場外に近づいている。


 あの槍をあの状態から避けたらそれこそ大怪我を食らいかねないし、防ぐしかない。



「おー! 耐えましたね!」

「ああ、耐えた!」

 〈どらごん!〉



 マナさんが、場外ギリギリで踏ん張って耐えた。

 槍は勢いを失い地面に――――





「〖サウンドノック〗!!!!」



 試合の行方を見守るために静まり返った闘技場に、その中性的な声が響き渡った。



 遅れて、マナさんが吹っ飛ばされる。



 そして、二人揃って地面に激突した。



「これは……!」

「どっちだ?」

 〈どらごん……〉



 〈予選第4試合、勝者は…………〉



 観客が一同固唾を呑んで耳を澄ませる。




 〈サイレンだー☆〉




「すごい接戦でしたね……」

「ああ、最後までどっちが勝つか分からなかったよ……」

 〈どらごん……〉



 〈今のはほぼ同時だと思われたが、どうかな解説の陛下☆〉


 〈うむ、最後は同時じゃった。なんなら盾使いの方が遅かったのぅ〉


 〈つまり〜☆〉


 〈じゃが、魔術を食らった瞬間、一歩後ずさりをしたのじゃ。その時、場外に出てしまったという訳じゃな〉



 〈熱い試合だね☆〉


 〈じゃな〉




 そうだったのか。それなら本当に惜しい。


 砂埃から現れた二人を見る。



「あれ?」


「かっこつかないな……」



 マナさんは目をぐるぐる回して倒れていて、サイレンさんは痛みに悶えてる様子だ。


 あの調子なら医務室に運ばれそうだし、そっちに向かおうかな。



「あれだけの高さから落下すれば、最低でも骨折してるでしょうね」


「あー、人間はそうだった」


「え?」

「ん? どうかした?」



 今の物言い、パナセアさんが人間ではないみたいな言い方だ。



「パナセアさんは人間ではないのですか?」


「ああ、言ってなかったか。私の種族は試作品・汎用型魔導工学人形GMポエインドール・プロトタイプさ」


「????」



 じーえむぽえ?



「漢字は試作品・汎用型魔導工学人形。ポエインが何かは分からないが、GMは汎用型の英語訳ジェネリックモデルだと思っている」


「……なるほど? ポエインに魔導工学って意味が含まれるのですかね?」


「いや、これはあくまでも推測だが、ポエインという偉人が居たのだろう。そいつが魔導工学とかいう分野で活躍したから取ったとかそういうパターンだと思う」



「なるほど……?」




 結局パナセアさんの種族が何かはよく分からないけど、人形とか工学とか言ってるし機械なのかな?



「そんなことより、早く向かおうじゃないか」


「あ、そうでしたね」



 パナセアさんが小型機械とどらごんを抱えて階段を――――


「えっ!?」



 階段ではなく、穴あきの壁から飛び降りた。

 階段が長くて億劫なのは私にも分かるけど、そこまでする?



「【飛翔】」


 仕方なく後に続く。

 パナセアさんは真っ直ぐ落下しているみたいだ。


「おー」


 パナセアさんの足元から火が噴いて減速していく。かっこいい!



 地上に着く。

「よっこいせ」

「そんなこともできたんですね」



 医務室の方へ走りながら問いかける。



「ん? ああ、これか。これは昨晩つけたばかりさ。ミドリくんが飛んでるのを見て思い立ったんだね」

「私は天使ですからね」


「…………」

「急に黙ってどうしました?」


「いや……触れにくいなと」

「?」


 何だろう?

 すごく食い違ってる気が…………あっ。



「私が言ったのは種族の話であって、自分のことを天使みたいだと言い張る痛い女ではないですよ」

「あっ、そういうことか。いやー、すまない。現実の方でそういうのに絡まれた嫌な記憶があってね」


「へー、そんな人本当に存在するんですねー。フィクションの世界だけかと思ってましたよ」

「君も大人になればそういう人と遭遇する機会はあるだろうよ」


「ひぇー、ずっと子供がいいですねー」

「ミドリくんが子供の部類に入るのか疑問なところではあるがね」


「私はれっきとした華のJKですよ」

「意外だ、てっきりJDくらいかと思ってたよ」



 落ち着きがあるとはたまに言われるけど、直球で来たのは初めてかもしれない。まぁ、パナセアさんほどの冷静さは持ち合わせてるわけが無いので、妥当な評価かな。


 そんな呑気な会話に花を咲かせていると、医務室に到着した。




「失礼します」

「お邪魔するよ」



 中に入ると、ベッドがいくつか置いてあり、そのうちの二つにマナさんとサイレンさんが寝ていた。

 二人共元気そうに足を揺らしたりしてくつろいでいる。会話が無いのは医務室という場所の空気だからかな。



「起きてたんですね。大丈夫でした?」


「さっきまで気絶してたっすけど、すれ違ったら合流できないかなって思ったから待ってたっす」

「そ、ぼくも数本骨が逝ったけど、治してもらったから今は平気」



「1回宿屋にもどりましょうか、ここで話し込むのも何ですし」

「っすねー」

「だね」

「賛成だよ」



 全員で宿屋に移動〜。




 ◇ ◇ ◇ ◇



「改めまして、サイレンさんは予選突破おめでとうございます」


「そっちこそ」


 宿屋で昼食をとりながら祝う。



「二人ともおめでとうっすー」

「おめでとう」

 〈どらごん!〉


「GIGIGI……オメデトコザマス」




「え?」

「????」

「喋ったっす!!」



 完全に意表を突かれた。

 パナセアさんの連れている小型機械が声を発したのだ。



「あ、言ってなかったか。この子、たま〜に喋るからよろしく」




 パナセアさんも機械といえば機械だから変では無い……のかな?

 今日は驚かされてばかりだけど、これもなかなかインパクトがある。



 ますますパーティーやクランが濃いメンツになっていくのを感じ、の大会予選日を幕を閉じた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る