##50 ワイショウモノ

 

 敵は八岐大蛇だけではなく、何かを仕掛けている陰陽師もいるので、そっちをターゲットとして発動。



「【不退転の覚悟】!」


『「可能性」をステータスに反映します』

『「ワイショウモノ」の可能性の反映に成功しました』



 矮小? え、ハズレとかあるの?

 いつの間にか私のサイズが手のひらに乗るくらいの大きさになっている。こわいこわい。

 葉小紅さんもビックリして目を皿にしている。



 弱体化疑惑を抱いていると、知らない記憶が瞼の裏に映った。何度も何度も何度も何度も――肝心な場面で失敗して、それでも前を向いている彼女。進むことしかできないから身体を小さくされても必死に戦っていた。取り返しのつかないところまで来ているのは分かっているのに。



「……ステータスオープン」



 ########


 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:堕天使

 職業:背水の脳筋

 レベル:79

 状態:冷静沈着

 特性:天然・善悪

 HP:15800

 MP:3950


 称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・破壊神のお気に入り・色の飼い主・復讐者・神殺し・呪われし者・デフォルメがデフォルト



 スキル

 U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・超過負荷3・無間超域・一寸の神呪・祝福の小槌


 R:(飛翔9)・(神聖魔術6)・縮地6・天運・(天眼)・(天使の追悼)・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈)・水中活動・内部破壊


 N:体捌き9・走術6


 職業スキル:脳筋・背水の陣・風前烈火




 ########


 スキル

超過負荷オーバードライブ】ランク:ユニーク レベル:3

 己に尋常ではない負荷をかけて種族の力を最大限以上に引き出す。スキルレベルに応じて効果時間が伸び、使える技が増える。

 アーツ:エネルギーバレッド・エネルギーシールド・エネルギーブレード・エネルギーランス

 CT:5日


 アーツ

【エネルギーブレード】

 アーツの読み上げなしに使用者は自由に扱える。自身のHPやMP、その他のエネルギーを剣にする。


 アーツ

【エネルギーランス】

 アーツの読み上げなしに使用者は自由に扱える。

 自身のHPやMP、その他のエネルギーの槍にする。




 スキル

【一寸の神呪】ランク:ユニーク

 勇敢な者に課せられた試練。常時全長一寸となる。一般的な解呪は不可能。




 スキル

【祝福の小槌】ランク:ユニーク

 対象者の潜在能力を引き出す。使用者本人は対象にできない。

 CTクールタイム:5秒


 スキル

【内部破壊】ランク:レア

 あらゆるものの内部へのダメージが10倍になる。



 ########




 小さくて弱体化してはいるが、どちらかと言えば援護要員のようなスキル構成だから問題は無さそうだ。


 刀も小さくなる訳ではないため、一度{逆雪}は葉小紅さんに預けておこう。



「刀、何かあったら使ってください」

「え、ええ。ありがと……」



 未だ困惑している彼女に、私はバフをかける。


「【祝福の小槌】」



 今の私よりひと回り大きい光の小槌を葉小紅さんへ振るう。童話のように巨大化したりはしていないが、彼女に金色の光がまとわりついた。

 気配だけでもさっきより格段に強くなっているのを感じる。クールタイムが短いから、味方がもっといたら真価を発揮できたかもしれない。



「――状況は理解できないけれど、強化してもらったのは分かった。こっちは準備万端よ」

「私もです。いきましょうか」



「一応共有しておくと、八岐大蛇は首が弱点ね。同時に首を斬り落として倒されたそうよ」


「では首に関しては任せます。私はこの体ですし、敵の身動きを封じるのに専念します」




 役割分担をし終えると、八岐大蛇が待っていたとばかりにゆるりと起き上がった。強者の余裕というやつだろう。油断とも言う。



「わざわざ待ってくれるなんて気の利く蛇ですね」

「ちょっと、挑発しなくても――」



 〈弱き者が足掻き、それを絶対的な力で蹂躙するのが楽しいのだから待つのも当然だ〉



 趣味悪っ。

 こいうのには痛い目見せないといけないよね。



「そうですか、私はそうは思いませんね。見ていて辛くなりますから。――――あ、私に辛い思いをさせないでくださいね?」


 〈……小さくなった代わりに態度だけは大きくなったようだな。貴様なぞ一口でしまいだ!〉



 挑発に乗った八岐大蛇が私を飲み込もうと迫る。

 横にいた葉小紅さんはあっさりと躱したが、私は動かない。

 俯いて、怖がるように肩を震わせる。


「ミドリ!?」



 避けない私に、葉小紅さんは悲鳴に近い心配の声を上げる。心配性な彼女に口角だけ上げて応じ――




「きゃー」



 棒読み絶叫を残して、私は八岐大蛇に丸呑みされた。


 さて、なぜ私がこんな芝居をうったかというと、一寸法師になぞらえたのだ。今の私には【内部破壊】というスキルがあり、体に入り込めるくらい小さい。そうきたら最早やることは一つだけ。



 体内を突き破るのみ!



 喉を通り、大きな空洞――おそらく胃か何かの消化器官に辿り着いた。




「【超過負荷オーバードライブ】!」



 エネルギーの槍を作り、真下の臓器の壁に突き刺しその上にエネルギーシールドを生成、そこを足場にする。

 エネルギーバレットは撃って物に当たったら消えるが、これらはしばらく残ってくれるようだから便利。おそらく、弾丸は命中時にエネルギーが拡散してしまうが、ちゃんと形の決まったものは固定されているのだろう。

 その分使うエネルギーが多い気もする。



「さて、一寸法師ならぬ一寸堕天使ミドリ、妖怪退治の時間といきましょう!」




 エネルギーの剣と槍を辺りに顕現させ、一気に周囲の臓器にぶち込んでいく。

 今いる腹部は、八岐大蛇の全ての頭と尻尾が繋がる部位。私がここで暴れるだけで冷静な戦闘なんてできっこないだろう。


 グシュグシュと肉を引き裂き貫く音が全方位から聞こえる中、八岐大蛇の体が動く。

 外で葉小紅さんが戦ってくれているのだろう。



「わっ!?」


 内蔵の肉が蛇の姿になって私を引きちぎろうと攻撃してきた。妖怪なだけあって不気味である。




「真正面からは厳しいから……仕方ない。突破ああぁ!」



 右手でエネルギーの槍を持ち、それを軸に複数の剣を回転させる。擬似的なドリルの完成だ。ドリルを構えて内蔵に突っ込む。



「うへぇ……気持ちわるっ!」




 次々と体内を掘り進めながら、後ろから迫る防衛機構の蛇をエネルギーの槍や弾丸で牽制する。時々エネルギーシールドも出して妨害しているから追いつかれることはないはずだ。正面から血や肉を浴びているので小さくなった体が真っ赤に染まってしまった。




「キター! トンネル、開通です!」



 グロいものを間近で直視してハイになってきた私は、遂に八岐大蛇の腹を突き破りきった。余程苦しいのか、八岐大蛇は倒れるように頭を地面に下げた。

 私はそれを避け――空に紅く白く輝いている侍を見上げる。


 ひとつは彼女の相棒にして尋常でない炎を纏う刀。

 ひとつは私の相棒にして使用者の細かい傷を癒す刀。



「【逆雪さかゆき】【紅空くくう】【暁闇ぎょうあん剣舞】」




 目にも止まらぬ速さで斬撃が飛び交う。

【祝福の小槌】で強化された彼女は、今の私でも追い切れない太刀筋で、八岐大蛇の首を全て刈り取った。



 〈人間風情が……!〉


「人間は人間でも、斬れぬものはない侍よ。運が悪かったわね」

「定番の捨て台詞すぎて逆に新鮮……」




 八岐大蛇による定番の吐き捨てを聞いて、私は妙な感動を覚えていた。葉小紅さんの返しもなかなかオシャレでかっこいい。


 八岐大蛇がボロボロと崩れて消えていく。

 まだ戦いは終わっていなかった。



「追い詰めましたよ、陰陽師の……ハジアキでしたっけ?」

「面妖な陣を準備しているようだけれど、今の私たちの前にはどんな厄災も無駄よ」



土師はじ 飽継あきつぐだ! 調子に乗りおって――」



 私が名前を覚えていないのも仕方ないと思う。

 この悪い人、とことん影が薄いのだ。葉小紅さんの姉妹にやったことは到底許されることではないのだが、私としては特に因縁もない初対面の悪い人ってだけなのである。



 怒りのあまり肩を震わせるハジアキがお札を構えた瞬間、横にいた強化の続いている葉小紅さんが動いた。



「【抜刀】「紅空くくう」!」




 深紅の三日月を描いた一撃は、妖刀としての責務を果たすかのように敵を斬り裂いた。

 あまりの速さに対応しきれなかったのもあるだろうが、相手はそもそも動く気がなかったように見えた。まるでわざと斬られるような――――





「葉小紅さん!」

「……っ!」




 残心をしていた彼女は、異変を察知して私の横に戻る。斬られた陰陽師の体からは血と共に別の黒い何か――達筆な文字が溢れていた。




「――『夜来たりて星は燃ゆ。ここは神の及ぶほど高くなく、人の生きるほど安くなく。魑魅魍魎渦巻く怪異の世界は訪れる。希望の光はここにて絶たれよ!』【百鬼夜行・暁月(あかつき)】」



 綺麗な満月が真っ赤に染まる。

 あまりにも危ういその月光が彼を照らした。

 肉体から溢れる血と文字が彼を覆い隠していく。




「さあ、我が身を糧にしてでも成し遂げようぞ! いでよ、最古の妖怪にして最強の鬼よ!」



「うわ、八岐大蛇なんかよりずっとマズイ気配ですね……」

「悪寒が止まない、くっ……! 【紅空くくう】【残花一閃】!」



 葉小紅さんが突っ込む。

 ――こういう待機時間は無敵かかえって危険なパターンだと教えておけばよかった。



 彼女の太刀は、陰陽師の体の内側を破って出てきた存在の片手で受け止められた。陰陽師を対象に【不退転の覚悟】を発動していたため、彼は死亡したようで私は元の姿に戻った。

 つまり、この場面で葉小紅さんの強化が切れたわけだ。


「【縮地】、そいっ!」



 相手の反撃が来る前に何とか葉小紅さんを抱きかかえて離脱。

 現れたのは真っ赤なベリーショートで、2本の角の片方が折れている女性。身長は2、3メートル近くありそうだ。


 鬼は寝起きのような感覚なのか、目をこすっている様子である。

 そしてあくびをしながら私たちと目が合う。

 眠そうにゆるりと拳を構えた。



「【鬼拳】」


 ――瞬間、拳の先の全てが吹き飛んだ。







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