#16 配信の意義ですか……
王都の冒険者ギルドは、最初の町よりも賑わっていて、都会だからなのかたむろしている人は少ない。ここに来ている人の多くが、より高みを目指しているのがよく分かる。
ざっと見渡したところ、全体として装備のグレードが上がっていてパーティーを組んでいる人達が多そうだ。
依頼のボードを見るが、討伐系のもので受けれるものが無い。
Fランクで受理できるのは……清掃と木の実採取だけ。これはあれかな、ランク上げてから来るべき場所だったのかもしれない。
「よいしょっと」
高めの位置にあった紙を背伸びして取る。
朝と昼の中間で並んでいる人は多くないけど、列に並ぶ。今の時間帯だと丁度皆依頼中かな。
「お次の方〜」
キョロキョロしていると、私の番になっていた。
前の人達と同じように、冒険者カードと依頼書を揃えて出す。
「お願いします」
「はい。受理致しました。お気をつけて」
「どうも」
採取する木の実は北の森林地帯にあるそうだ。
北門から出よう。
採取なら、溜まりに溜まったハイパーチャットを読める。最初は貰えるものは貰う主義のもとONにしたけど、義務感があるからめんどくさい。
いっそのこと、OFFにしようかなー。まあ、そこは視聴者さん達にも言ってみよう。
「これを持ってそこに行けば再入都が簡単にできる」
「ありがとうございます」
門番から小さな絵馬のような木製の板を受け取り、門をくぐる。
森の中に入り、目的の木の実を探す。
青くて握りこぶしサイズのものらしい。
「この隙にハイパーチャットを読みますね」
終わらなくなるなんてことが起こらないように、投げ銭機能を切って、過去のハイパーチャット履歴画面を開く。
「スクープさん、ゴリッラさん、壁さん、芋けんぴさん、ありがとうございます。これは冤罪で連行された時のやつですね」
「枝豆さん、スクープさん、唐揚げさん、隠された靴下さん、ヒヒヒヒさん、芋けんぴさん、テカテカご飯さん、ありがとうございます。これは……配信続けると言った時と、釈放された時のです」
私が見逃した人のもあるから、予想よりかなり多い。
「燻製肉さん、蜂蜜過激派切り込み隊長さん、芋けんぴさん、ヲタクの友さん、ありがとうございます。えー、不吉打ち消しアタック? そんな場面ありましたっけ?」
[階段::話逸らして黒猫云々のくだりかな]
[セナ::どうだっけ?]
[とん丼かぶた丼か::いつも不運なイメージだけど]
「あー、あったような無いような……まあいいでしょう、次いきます。蜂蜜穏健派下っ端さん、階段さん、ありがとうございます」
あ、この辺の木に目的の実が結構実ってる。
「【飛翔】」
普通なら木登りをして不安定な足場の中採らなければいけないのだろうけど、私は飛べるから楽チン。
「……18、19、20、よし、あと半分です」
どうやらこの近辺ではこれぐらいだけのようだ。もう少し奥に行けばいいかな。
「えーと、続けますね。スクープさん、味噌煮込みうどんさん、ありがとうございます」
これは昨日の朝の配信の分。今日の分のは……これかな。
「病み病み病み病みさん、毛虫さん、芋けんぴさん、ありがとうございます。ほう……」
毛虫さんからいい質問が。
「どうして配信を続けているんですか? とのご質問を頂きました。この配信の意義としては、このゲームの良さを配信を通してお伝えできればいいなと考えています」
[階段::天使か?]
[あ::ええやん]
[セナ::いい子]
[芋けんぴ::あれ? ハイチャ切ってる?]
[紅の園::泣いた]
[ゴリッラ::ええ子やな]
[唐揚げ::素晴らしい]
「まあ、本音は道案内と指示があるからですけどね。一応学生でお金儲けはそこまで気にしていませんので、投げ銭機能は切りました。ゲームメインでやるには邪魔ですし」
オックスさんの件もあり、当初想定していたよりずっと過酷な世界なようだから、気を回すことが増えるのはちょっとね。
[枝豆::ゲーマーやなー]
[紅の園::涙返して]
[壁::草]
[隠された靴下::利用する宣言たすかる]
[階段::あれ? 天使だよね?]
[毛虫::拾ってくれてありがとう]
[カレン::正直ね]
[屁怒絽::おk。集中してもろて]
「世の中、綺麗事を並べ立てる人ばかりですので、皆さん、騙されないように気をつけてください」
[らーめん::せやね]
[太郎::はーい]
[天変地異::忠告たすかる]
[死体蹴りされたい::よく言えたな]
[お神::ギョイ]
説教まがいのこともしつつ、木の実発見。
「【飛翔】」
飛んでノルマ分を回収し、何かに使えるかもしれないので、近くにある残りも回収してストレージへ。
まだ効果時間が余っているので、王都方面へ飛ぶ。
「そういえば、実験しなければ。ふんっ」
翼を出して、同じように飛ぶ。
横に旋回したり、急降下等もしてみる。
結論、明らかに速度が出て、細かい調節が出来るようになっている。的は大きくなるかもしれないが、飛ぶ時は翼を出した方が良いことが分かった。
光輪も同時に出ちゃうけどね。
「よし」
効果が切れて墜落しないように早めに着地。
何だかんだいい時間だし、報告して配信終わらせよう。
門に行き、出る時言われた再入都の列に並ぶ。
身なりから商人と思われる人達が多いように思える。夕方から開くレストランとかだとこの時間に入荷とかするんだろうか。
「おや、冒険者かな?」
前に並んでいた、馬車を引いている商人らしき人に話しかけられる。
「ええ。軽い依頼で早く終わりましたので」
不思議そうに質問してきたのは、ランクが上がると依頼の難易度が上がってもっと時間が掛かるからだろう。
私も高難易度のやりたいけど、時間的に厳しいかなー。
少しスケジュールの方をしっかり調整して、一日インできる日を増やそうかな。
「そうなんだ〜」
「何かの入荷作業で?」
「見たい?」
悪そうな顔で、馬車の荷台を指す。
「問題無いのなら是非」
「ほらどうぞ〜」
荷台が開かれる。中にあるのは、真っ白な――
「糸、ですか」
「そうそう。異界人の経営してる服屋に届ける予定のやつだよ」
そういえば服も新品が欲しかったんだ。忘れかけてた。
「どこの何というお店ですか?」
「南の大通りの、シャンデリアっていう店だよ」
「ありがとうございます」
オシャレなお店っぽさが漂う店名だ。是非とも行きたい。
「いやいや〜、あ、次だから行くね」
「ええ、お疲れ様です」
「お疲れ〜、冒険者、頑張ってね」
商人さんと別れ、辺りを見渡す。
列の後ろの人達だけでも、私より良い物を着ている。最初の町では気にならなかったけど、ここだとそういう水準も高いから気を付けよう。
「次!」
「はい」
すぐに呼ばれた。
ストレージから再入都の板を差し出す。
「通ってよし」
「どうも」
手際良い。こんなに早いなら普通の列と分けて正解だ。普通に入る時、門番の人も何か書いてて忙しそうだったし。
改めて街の様子を見ながら、冒険者ギルドへ足を進める。
しっかり見てみると、おそらく魔道具であろう電灯のような物、馬車が通りやすいようにツルツルな道、それでいて雨水がはけるような僅かな傾斜。
魔法やスキルがあるだけあって、インフラは割としっかりしている。
「いいですね」
上を見上げると、電線なんて無い開放的な空が映る。
……高層ビルとかが無いのもあるのかな。
食べ物や法律の事情までは把握していないが、景観でいえば現実より優れている。
そうこう眺めているうちに、冒険者ギルドに到着。人はほとんど居なくて、すぐにいけそう。
「依頼が終わりました」
「依頼報告はあちらの窓口でお願いします。こちらは依頼を受ける際にお越しください」
「あっ、すみません」
とんでもない恥をかいてしまった。絶対覚えよう。
壁際の窓口へ向かう。
「……終わりました」
「ふふっ、冒険者カードの提示をお願いします」
「はい」
ストレージから冒険者カードを取り出して渡す。
「…………はい。確認が済みました。依頼の物をこちらにお願いします」
「分かりました」
置かれた大きめの箱に、依頼分の木の実を入れる。
受付嬢さんが数を確認して、依頼書に印鑑のようなものを押し、小金貨2枚を台に置く。
「こちらが報酬となります」
「ありがとうございます」
小金貨2枚で2000
あ、聞いておきたいことがあったんだ。
「今の木の実って美味しいんですか?」
「まあ、味
「そうなんですね。ありがとうございます」
お礼を言って、冒険者ギルドから立ち去る。
美味しいなら、余ってる木の実を昼食にして節約できる。
「とまあそんな感じで今回は終わります。服屋は今日の夕方から行きます。お疲れ様でした」
[あ::了解!]
[壁::おつかれ〜]
[味噌煮込みうどん::ファッションセンス楽しみにしてます!]
[紅の園::おつかれ〜]
[カレン::お疲れ様〜]
[ゴリッラ::乙ミドリ〜]
[トンビ::お疲れ様でした!]
配信を切る。
さあ、王都の拠点となる宿屋探しへ、レッツラゴー。
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