###4 今は亡き色神の寵愛

 

 港町へいつもの車で向かっている。地理関係的にはおおよそこんな感じだ。


   ─王国領─┐

公国│ 王都

──┘

森  森


港町 森




 今は絶賛公国と森の間辺りを走っている。森だらけなので迷わないように一旦西へ行って海岸に沿っていこうという作戦である。



「む、何か近付いて――」



 ――ドンッ!

 車がぺちゃんこになった。

 全員それなりに修羅場はくぐっているので、危機を察知して窓から脱出している。



「私の車ァ!」



 反射的に避けたパナセアさんも、改めて現状に絶望した。可哀想に。


 そして、こんな可哀想なパナセアさんを生み出したのは――



「ンボ子、あるいはンボ太! 車を壊したらダメですよ! ほら、落ち込んでますから謝って」


 そう、ちょっと離脱していた虹色の狼さんが帰ってきたのだ。勢い余って車を踏み潰したけど。



 〈の方だ。善は急げと走ってきたんだが……〉


「悪いことしたら謝るんですよ!」



 〈えぇ……あ、あー、メガネの、踏んじまって悪かったな〉



「……解剖させてくれたら許す」

 〈断る!!〉



 …………よし、仲直りできたかな。

 そのままの流れで初対面である不公平さんにも挨拶させた後、詳しく事情を聞くことにした。

 なにやら二回りは大きくなってるし、何があったのやら。



 〈ロバンボーⅠに頼んで色神の眷属としての力を俺様にまとめさせてもらったんだ〉


「それにどんな意味が?」


 〈だ。今からお前だけついてこい〉

「鍵? まあよく分かりませんが私は構いませんよ」


 チラッと皆の方も見てみると、グーをつくったり各々肯定的な反応を示している。ンボ太はンボ太で背中に乗せるつもりなのか既にスタンバイしている。



「じゃあちょっと寄り道してきますから、先にリンさんの方に合流しておいてください」



 それだけ言って私はンボ太の背に乗った。

 後ろで迷子にならないかなとかボソボソ心配されているが、私をナメないでほしい。こちとら18歳なのだ。大人のれでぃが迷子なんてするだろうか、いやしない(反語)。



「ンボ太! そらをとぶ!」


 〈いちいち命令すんなって!〉


 公国方面に向かって、私とンボ太は駆け出した。

 空にかかる虹の如くスラーッと滑らかに。




 ◇ ◇ ◇ ◇



 〈【透過】〉

「おー、地面を通過とはなかなか不思議な体験ですねー」



 しばらく公国の方へ進んだところで地面にダイブした。【透過】の効果は私にも反映されているようで、幽霊のように体が軽い。幽霊になったことないから知らないけどね。


 ――そして、地中の空洞に到達した。

 ここは一度訪れたことがある。沼の調査か何かでダンジョンと勘違いされた廃墟だ。前回はマナさんと来た記憶がある。



「そういえばここにれいさんの痕跡があったんでしたね。だから色神の眷属がどうたらのたまってたわけですか」


 〈来たことあったのか、話が早い。行くぞ〉



 そう言って前は弾かれた結界を通過した。

 そしてンボ太の背からも下ろされた。



「行きましょうか」

 〈わん!〉


「あれ? ンボ子に戻った……もしかして力使いすぎたんです?」

 〈わん〉



 首を縦に振って肯定している。

 まあとりあえず進めば何があるか分かるだろう。縮んだンボ子を抱きかかえて神殿っぽい建物に入る。



「神の気配、それにこの色に満ち溢れた空間。やはりレイさんの神殿で合ってるようですね」

 〈わん!〉



 そのまま神殿の奥まで進むと、大きな石板がそびえ立っていた。

 そこに刻まれている文字を読む。




 ========

 親愛なる眷属と、新たな冒険者 へ


 この場にいるということは、類まれなる試練を乗り越えて過酷な冒険を選んだのでしょう。

 まずはその決意と気概に賛美を。

 そして眷属には今まで縛りを与えた上で暇をさせてしまって申し訳なく思います。ここまで適任者の導き、ご苦労様でした。貴方達には最後まで不自由させてしまいましたが、私の影から作ったから実質私。一緒に未来へ託しましょう。

 ――さて、神っぽい口調はここまで。

 これから貴方が手にする力について……説明しよう!

 色神の力は色に関するあれこれを好き放題できる力なんだよ。まあそれはオマケ程度だけどね。

 本質はを与えるところにあるの。要するに神に対する超特効が大事。その力で貴方に立ちはだかる神は成敗しちゃって!

 特に邪神を。

 あ、混沌の神と戦う時は全身に神能を纏わせないとまともに戦えないから気をつけてね〜!

 あとは任せた、後輩くんちゃん!


 色神レイ より

 ========



「レイさん……」


 〈わん!〉



 今はもうこの世現実には居ないレイさん。病気で亡くなったから一応最期の会話はちゃんとできていた。

 だからこそ、このような形で遺書に近いものを見せられると悲しさが沸き立ってくる。



 私が半ば呆然としていると、ンボ子が薄くなっていっているのを少し遅れて気付いた。

 ンボ子のが石板に吸われていっている。


「ンボ子……?」


 〈わん!〉



 何を言っているのかは分からないが、何となく励まされている気がした。

 ――更に色が失われていく。



「ンボ子――まさか石板の“一緒に未来へ託しましょう”って」

 〈わん〉



 それを知った上でここに私を連れてきたのだろうか。いや、石板を読んだ感じ、もともとそのためにレイさんは眷属を残したのだろう。ンボ子もンボ太もその使命に従ったに過ぎないのか。



「…………ペット枠、居なくなっちゃうんですけど」


 〈わん!〉



 無理に引き止めることも意味がないのは察しているからこそ、軽口で愚痴るしかない。

 ンボ子は灰色になっていても目を輝かせて私のお尻に体当たりをしてきた。激励のつもりなのだろう。


 まったく、飼い主がだらしないのは嫌なのかね。

 仕方ない。笑って見送ろう。



「色々とありがとうございました。――ンボ子、レイさんによろしく言っておいてくださいね!」


 〈――わん!!〉



 元気な鳴き声とともに、ンボ子は灰になって崩れ散った。


 ――虹色に輝く石板から、にゅっと球体が現れた。

 私はそっとそれに触れる。



『種族:色神 への神化を確認、条件のチェックを行います』

『神格の獲得達成、特性:天然の保持達成、天使系種族からの神化達成、レベル200未達成――』

『種族:色神 への神化に失敗しました』

『レベル200到達時に再度条件のチェックと神化申請を受理します』


『神能:【色】を獲得しました』


 

「純粋にレベル不足ときましたか……ステータスオープン」


 ########


 プレイヤーネーム:ミドリ

 種族:大天使・(色神)

 職業:背水の脳筋

 レベル:126

 状態:良好

 特性:天然・善悪

 HP:25200/25200

 MP:6300/6300


 称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・旧魔神の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・色の飼い主・復讐者・神殺し・空間干渉者・時をかける者・破壊壊し・真理の探究者・天賦の才・到達者・終末兵器(色)


 神能:色


 スキル

 U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・超過負荷4・無間超域・獲物に朝は訪れない(一時貸与)


 R:飛翔10・神聖魔術8・縮地8・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈・命の灯火・残花一閃・樹海大瀑布)・水中活動・間斬りの太刀・闘力操作・魔力操作


 N:体捌き10・走術7・無酸素耐性7・苦痛耐性6・即死耐性6


 職業スキル:脳筋・背水の陣・風前烈火


 ########


 神能

【色】

 神属性への超特効を持つ虹を自由自在に扱う。

 その他色の操作を行える。

 この神能を持つものは神からの影響を減衰させる。


 ########



 なるほどね。聞いてた通り完全に神への相性が良くなる神能ってところだ。簡単に解釈するならこっちの攻撃は効果バツグンになって、向こうからの攻撃は効果いまひとつにするような性能だろう。



「……にしても称号の物騒さよ。今更ですけれども」



 とりあえずステータスも確認したし、少し神能の練習をしてから皆と合流するとしよう。レイさんがやったように、私ももしかしたらンボ子を作れるかもしれないからね。

 まあ正式に色神になってからの可能性も高そうだけど。







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