#ジェニーちゃんのあゆみ 2/5#
「殿下、本日はランティル様のお茶会のはずですが……」
「知らぬ。今日の
「はぁ、このままですと
「あやつは妾の何なんじゃ! 嫁か!? 通い妻か!?」
ジェニー、12歳。帝国唯一の学園に通う小等部の学生である。ジェニーはモニアにすっかり心を許すように、モニアはジェニーを尊敬するようになった。
「殿下が出不精になってきているのが悪いかと」
「じゃって、部屋からでも雑魚なら狩れるからレベル上げに出かけるのが億劫なのじゃよ! というかシフはどこじゃ!」
「あの男は知り合いのエルフに会ってくると暇が出ていますが」
「あ、妾が許可したんじゃっけか」
ポリポリと頭をかいた後、ベッドからのそのそと起き上がり、おもむろにドレスルームまで歩き始めた。
「殿下、えらい!」
「妾は子供か! いや子供じゃが……同い年じゃろ!」
モニアはそのツッコミを無視し、突然冷静になって諭してみる。
「……最近の殿下は少し優しくなっているように思いますが、その感じを他の一般人にも向けてみてはいかがでしょう?」
「いやじゃー。なぜ妾が大衆に媚びねばならんのじゃ」
駄々をこねる子供の姿のまま、ひとりでドレスルームまで行ってしまった。モニアは洗濯のためシーツなどを回収しながらボヤいた。
「媚びるとかじゃないんだけどなぁ……」
モニアやシフが望むのは仲の差程良くない者に対する
一部では特殊な支持はあるものの、皇帝の座につくと確信しているので一般受けを狙いたいという考えであった。
◇ ◇ ◇ ◇
優雅な食事と談笑で癒しオーラが漂うお茶会。
そこには名のある貴族の子息達が参加していた。
そこに、面倒くさそうな表情を浮かべながらも堂々とジェニーが入ってきた。
「ジェニーちゅわ〜ん! ちゃんと来てくれたのね! そろそろ迎えに行こうかと思っていたのよ」
いかにもお嬢様といった風貌の女子が飛び込みハグをかます。
「気安く近寄るでないわ!」
顔を鷲掴みして引き剥がした。
避けることもできるだろうに、受け止めているあたり仲は良いのが窺える。
「他の有象無象がいるのなら先に言わんか。来なかったのに」
「またまた、ジェニーちゃんなら家からでも人数くらい分かっちゃうでしょ。その上で来てくれたのは何でかな〜?」
「やかましいわ! 妾帰る!」
「ねぇ、今日はシフ様はいらっしゃらないの?」
帰ろうとするジェニーの後ろからハグして引き止める。
「本当にあの男が好きじゃな。あやつのどこがいいのかさっぱり分からんのじゃが」
「あのミステリアスな笑みに誰にでも優しいあの方こそ、最高なのよ!」
「……えぇい、離さんか!」
両方とも自分がするように言ったことなので何も言えずにハグから抜け出す。
「まあ、貴様が大人になってもあやつが好きなら婿にくれてやろう」
「本当!? ありがとうジェニーちゃ〜ん!」
今度こそ去ろうとするジェニーに抱きつこうとするが、ジェニーもいい加減鬱陶しくなったのか避けてしまった。
「今度は他の有象無象なしなら来てやろう」
「またね!」
ランティルもジェニーの性格をよく知っているので引き止める素振りすらせずに見送る。
皇族と貴族がこのようなやりとりをするのは通常であれば不敬だし、他の者であればジェニーも処罰を与えているが、二人は親友と言っても過言でないほど仲良しなのである。シフは主従関係で、モニアは幼なじみのような存在なので、二人ともまた違った関係であった。
そして、ジェニーが友として誰かを扱ったのは、この時が最初で――――最後かもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇
小等部の卒業が間近になった。
しかし、いわゆるエレベーター式なので顔ぶれは変わらない。ジェニーは特に感慨も覚えずにチマチマと魔物を屋敷から狩っていた。
「……のう、シフってどこ行ったんじゃっけ?」
「はい、旧友のいる天界につながる竜の渓谷に向かっております」
「そうかー」
ベッドで寝そべりながら狩りをしているため、どうしても暇になる。いつもならシフとチェスをしたりしているのだが今日はいないのだ。
モリアはチェスやトランプといった娯楽が弱すぎるので相手にならないのも暇を加速させる理由だろう。
「行くか」
「流石に竜の渓谷まで行くとなると陛下の許可が必要かと」
「じゃよなー。めんどくさいからのう……」
「私がやっておきますが」
「今すぐに行けぬのならどのみち面倒だし行かん。あー、何か面白いことでも起こらんかのー」
おもちゃを求める子供のようなことを呟く。
ちなみに竜の渓谷とは、現在ジェニー達がいるパライソ大陸の東端に位置する竜の住処である。ここで言う竜とは蛇状の龍ではなく恐竜に近い方の竜だ。
「んん?」
「どうかいたしました?」
「……火の山方面への実習って今日あったはずじゃよな?」
「はい。殿下はかつての遠征を踏まえて免除となっている実習ですね。晴天ですので予定通りかと」
「そうか――少し出る」
「お供します」
「いや、留守番を任せるのじゃ。ちょっかいを出してくる輩がいるじゃろうし。捕まえておけ」
「承知しました」
「うむ、では気をつけるんじゃぞ。【神速飛翔】」
ジェニーがとんでもない速度で窓から飛び立つ。
距離はそこそこ遠いのだが、【神速飛翔】は【飛翔】の最上位互換であり、目的地の火の山まであっという間に到着した。
「ランティル! 貴様何をしておる!」
「ジェニーちゃん!? どうしてここに?」
「貴様こそなぜこんな場所に――」
「シャルミルちゃんがこっちの方に行ったきり帰ってこないってB班の子が言ってて。みんな怖がってたから私が探し来たの」
一瞬ジェニーは誰のことかと首を傾げたが、文脈からクラスメイトだと考えた。ジェニーが興味のない人間の名前を覚えているはずがないのである。
「…………ああ、そういう」
「一緒に探しましょ!」
自分も怖いだろうにクラスメイトのために行動を起こしたランティルに、ジェニーは心の中で拍手を送りつつ、様々な
どう伝えたものかと思案していると、大きな気配に気付いてスキルを使う。
「【絶対領域】」
発動直後、辺り一面が火の海になった。
ジェニーとランティルの周囲だけがポツンと無事である。
「――我の寝床に押しかけてきた人間なぞいつぶりだろうか」
「【英斬】! ランティル、貴様はこの道を通って帰るのじゃ」
火の海の中に、ジェニーの手刀による剣圧で一本の道ができあがった。自分が邪魔になると判断したランティルは急いでその道を駆けていく。
「ふむ、一応名を尋ねておくのじゃ」
「――我は太陽神ヘリオスだ」
ヘリオスを名乗る神は、轟々と炎のような髪を揺らして宙に
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