#98 第五回イベント「周り舞い、廻って回る」
山頂付近にてまた出くわした虹騎士を上手いこと撒いて、こっそり宝箱があった山の中に翼を広げて降り立つ。
「ふぅ。警備員がいくらいても、怪盗ミードリーにかかればこんなもんです。喝采しても苦しゅうないですよ?」
[退学イモ::調子に乗るな]
[あ::わーすごいすごーい(棒)]
[壁::はいはいつよいつよい]
ジョークはここまでにするとして、
「今までの流れですと宝箱の中の何かに虹色の親玉が封印されているんですかね」
大きな宝箱がポツンと残されているだけで異変は無いあたり、騎士が探しているボスはまだあの中だろう。
宝箱を開けるだけでは封印は解かれないはず。
「まぁ、中の封印されてるものを壊さずに持って最終日まで逃げ切って、ストレージに仕舞っちゃえば勝ちですかね。ボス戦はそれを壊したら始まりますけどね」
宝箱に手をかけ、深呼吸を挟む。
騎士という鬼から逃げる鬼ごっこが始まるのだ。ホラー展開だとこの宝箱を開けた瞬間に天井か背後から騎士が現れる。
「開けますよ…………」
覚悟を決めて、勢いよく開け――
「あれ?」
ガチャガチャガチャガチャと開けようとするが、ビクともしない。
「鍵が必要みたいです。何でこれだけ……」
そして、鍵なんてどこにあるのかさっぱり分からない。ここまで来た道は一本道だったから見逃すなんてこともないし。
「とりあえず錠を壊せば何とでもなりますかね」
[らびゅー::たし蟹]
[天麩羅::それはそう]
[唐揚げ::やっぱり脳筋じゃん]
[階段::力技かい]
「脳筋ではなく、戦略的力技です。ふんぬぅ!」
すぐに作業に移れる2号さんを抜き、逆手で持って、錠を剥がすように隙間に突き刺した。
安物だったのか、簡単に外れたのでついに蓋を開ける。
「…………イッヌさんこんにちは」
〈ワン!〉
大きな宝箱の中には虹色の犬が入っていた。
ここで考えられるのは二通り。
このワンコにボスが封印されているか、このワンコがボスか。
【天眼】がこのワンコに矢印をたくさん示してバツ印を重ねまくっているから、たぶん後者。
しばしの沈黙と睨み合い。
犬の輝くような目は、こちらを見定めるようなものである。きっと飼い主にふさわしいかの選別を行っているのだろう。しかし、こちらにも事情はある。
「すみません、うちペット禁止なんです。旅してますので危ないですし」
〈【ワン】!〉
「ッ!」
犬の目から飛び出たビームをギリギリ躱して、一度大きく後退する。
赤い線は無かった。
今日の【天眼】氏はご機嫌ななめかな?
「それにしてもいきなり攻撃するなんて、躾がなってないんじゃないですか? 飼い主を呼んでくださいよ」
〈ワン……!〉
毛を逆立てて威嚇をしている。
怒っているご様子。
「まったくー、これだから私は猫派なんですよ。可愛げのない動物だこと」
[生パスタ::全国の犬好きに謝れ]
[半々麺::イッヌもかわいいじゃん!]
[草::なんでや猫も怒るやろ]
[天変地異::ならミドリさんの可愛げのあるところを見せてください]
「ほう、いいですよ。可愛げあるお手本で謝罪してみせましょう。ンン゛ッ……許してニャン♪」
サービスで手を猫のようにニャニャッとしちゃう。
例の木の実があれば完全な猫ムーブとなったが、そこまでやってあげる義理はない。
[紅の園::!!!!]
[病み病み病み病み::かわいい]
[芋けんぴ::天使か? 天使か……]
[コラコーラ::猫耳と猫しっぽがないやり直し]
[三田さん::くぁwせdrftgyふじこlp]
〈ワオーン!〉
天井の隙間から虹色の液体が滴り落ちて、犬の周りに渦巻きを作り出している。
どうやらおふざけはここまでのようだ。
{適応魔剣}も抜いて二刀流で構える。
〈ワン!〉
虹の渦の一部が犬――いや狼の形となって私を飲み込まんと射出される。
「はぁああ! 【吸魔】!」
二振りの剣で魔法に近い何かを斬りにかかる。
だが――
「くっ……んん?」
実体は無いようで斬ることもできず、魔法でもないようで2号さんのスキルも効果はなかった。そして敵の狼が私の体を通過していったが、異変は何も無い。
「こけおどしですか。敵対行動をとったのには変わりませんし倒しますけどね」
[無子::!?]
[天々::なんか……薄くない?]
[階段::色が!]
騒いでいるようだけど、私には害は――っ!?
服が、肌が、髪が、色あせている。
確実に触れていた剣は、2号さんだけ無事で適応さんは色が薄くなっている。
まるで色を奪われたような、そんな感じ。
「なぜか急にだるくなってきました……。なんて姑息な攻撃……!」
[混濁者::草]
[唐揚げ::それプラシーボ効果]
[ヲタクの友::てのひらに骨は無いんか?]
〈キャン!〉
虹の狼が複数、私に向かって飛んでくる。
このまま受け続けては最終的にモノクロな私になりかねないので、避けないといけない。
「【スタートダッシュ】、【疾走】」
犬を中心に円を描くように走る。
弧を描く相手の攻撃では私には追いつかない。
しかし、このまま逃げ続けても私の体力が切れるのが先だ。
仕掛けないと――――
〈【ワンゥ】!〉
一瞬目を離した隙に私の正面から犬が飛び込んできた。モフモフのお腹が、私の顔面と衝突事故を起こ……さない?
犬が私の頭部に入っていく。
飛ばしていた虹の狼と同じように透けているのだ。
一体肉体のどこを通っているのか分からないが、異物が下に、私の心臓付近に下りようとしている。
体内に意識を移していたのを元に戻すと、目の前にはとんでもない光景が映った。
「ここは?」
いつの間にか虹の中に私は居た。
……いや、これはもともと虹なんかではない。
正確に言うなら虹色という概念、あるいは
私に
自身の姿さえ見えない。
おそらく例のイッヌさんが体内に入ったせいだ。
異物が胸の辺りまで下りてきた。
――ドクンッ
「ッア……!?」
生命活動とは関係の無い胸の鼓動。
異物は流れるように足まで下りた。
まるで逃げるように。
「はぁはぁ……くっ」
まずい。
なんで今、
「――」
体、主に足から溢れてくる
破壊を司る紫が、虹色を侵食し始めた。
「あ゛ぁあ……っ!」
激痛が走る。
胸に残された刻印は破壊の目印、この身に刻まれた罪の証。それから逃れることはできないと、私の体ごとまた壊そうとしている。
震えだした足は、私の恐怖か、異物の畏怖か分からない。
しかし、私もこの犬も悟っていた。
破滅の運命を。
「できるだけ優しく壊してください」
もはや抵抗も無駄。一度壊されたからこそそれを受け入れるしかないのはよーく知っている。
これは諦めではなく、受け入れだ。
科学技術が発達しても人間は死の運命から逃れられないのと同じ。あくまでも死は受け入れるが、生きるのは諦めないということ。
つまり、まだ負けてはいないということ。
遠い未来不老不死を手に入れる者が現れるその日まで人類を繋ぐ世界のように、私もこの破壊の力に勝てる私になるまで待ち続けるのだ。
「今回は
聞いているかも分からない神に罵倒を浴びせて、目を瞑る。そろそろ一番痛いのが来る。全身に力を入れてそれを待つ。
――――カチッと、何かが動いた。
気のせいだと思ったが、小さな音からかなりの大きさに変わっていっていた。
目を少しだけ開けてみる。
「――――――」
つい見入ってしまった。
あまりにも精巧で美しい時計が、私の胸と足の前で二つ、回っていたのだ。
それぞれの回る向きは違うが、吸われるように紫と虹が時計を通して私の体に戻っていく。
あっという間に全て吸い尽くし、私は元いた空間に戻っていた。
「情報量規制法出しません?」
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