###24 ペアトーナメント準決勝
いやー、ヒヤッとしたよ。
田中さんから運営がシステム的に守ってるのではなくスキルから流用してると聞いたから、一応警戒はしてたけどあそこまでとは。
咄嗟に【樹海大瀑布】と【
「うへぇ」
「そろそろCM明けますがどうかしました?」
「いえ、大丈夫です。気を取り直してやっていきましょう」
「はい!」
リンさんにさっきのは何かとメッセージで聞いて返ってきた返信を読んでため息をついた私に心配してくれた田中さんが伸びをしながら席に着く。
私も続いて座った。
――ちなみにリンさんはユニークスキルの【超越魔術創作】とやらを使ったらしい。詠唱した魔術を組み合わせて相乗効果で爆発的な火力になるようだ。
そして強いのをとことん詰め込んだ結果がこれらしい。空間的隔たりすらもぶち壊すってなんなのさ。……私もそれくらいならできるけどね。
まあそれはともかく次の試合だ。
「さてさて、トラブルはありましたが運営さんがちゃんとシステム的な結界を張ってくれたようなので再開していきましょう! ミドリさん、お願いします!」
「はーい、ちょっと私も疲れてきてますが進行しますよー。コホンッ、お次は1回戦を見事勝ち抜いたこの2組です。赤コーナー、“パナ・サイ”! 青コーナー“勇者と聖女”!」
赤も青も無いが、ノリに任せてシュバッと手を前に出す。
そして登場したパナセアさん、サイレンさん、勇者ことハクさん、聖女ことミースさんさんに盛大な拍手が送られ、カウントダウンが開始した。
「――ゼロ! スタート!」
私の開始の合図と同時にパナセアさんが両手をガトリングにして弾を撒き散らしていく。
「初手弾幕! どう凌ぐか……おっと! ハク選手、剣で弾丸を斬っていく!?」
「ふむ……いい腕前です」
ネアさんは彼女らと天空国家クーシルに居るはずだが、あの動きだと銃を使う相手との交戦経験もあるようだし、あっちでは文明が進んでいるのだろうか。
試合中だがそんな考えも出てきた。流石にお仕事なので別のことを考えているのはおくびにも出さないけど。
『――〖フォンドプロテクション〗!』
「ミース選手がバリアらしきものを張った! それを確認してハク選手が接近!」
「〖フォンドプロテクション〗は【神聖魔術】ですね。銃弾程度ならしばらく弾けるバリアを張れます」
突撃したハクさんは聖剣を振るが、そこは近接戦担当のサイレンさんが槍で防ぐ。
パナセアさんも即座に左手をショットガンに持ち替え、右手にはレーザーの剣を手にしている。
しばらく近接戦のドンパチが繰り広げられる。適度にハクさんに回復を回してるミースさんのせいで一向に進展が無いので、しびれを切らしたパナセアさんが本気を出した。
『【神格化】』
「パナセア選手、姿が変わったぞ!」
「創神になりましたね。消耗しているのは彼女だけでしたからその判断は正しいでしょう」
ミースさんのMPはそこまで減っていないので、弾薬が目減りしているパナセアさん的には手数が減る前に攻めきりたいのだろう。
『【海神の舞】『大いなる海よ、深き海よ、母なる海よ。産み生みし生命の源流を、今、この手に』【神器解放:
『『蒼き万物の胎動、其は蓋世の導きを与え、終焉にこそ創造の営為をもたらす』【神器解放:
ここで同時に攻めに出るのはおそらく正しい。私も同じ場にいたらそうする。それが確実に勝ちに繋がるのだから。
しかし、私には一つだけ懸念点があった。
『【限界突破】【聖剣解放】!』
ハクさんが自己バフを撒いた。あれは私も“イサムモノ”で使ったことがある、激痛を伴う代わりに全ステータスを2倍にするスキルだ。もう片方は聖剣の力を引き出すスキルだろう。
そのことも解説しながらも、私はミースさんに注視していた。
聖女と名乗っているからには何かその根拠となる力があるはずだ。戦闘関係では無いかもしれないが、私の勘が彼女こそ警戒すべき相手だと告げているのだ。別に私が戦っている訳では無いけどね。
『『星々に我が願いを投じ、此の魂を捧げる』【聖望の煌めき】』
ミースさんが膝をついて両手を合わせる。
すると彼女の胸から星が出てパナセアさんとサイレンさんに降り掛かった。それが当たった2人はあらゆるバフが解除された。かけ直そうとするができていない。
「スキルの強制解除、クールタイムの影響かあるいは使用不可にするかは分かりませんがスキルが使えなくする効果もあるかもしれませんね。代償は命、といったところでしょうか――」
ミースさんがゆっくりと倒れる最中、何か呟いているのが目についた。そして右手が優しく輝く。それを自身の胸に当てた。
『……〖リザレクション〗』
「…………命を犠牲にバフを消した上に、その代償は蘇生で無かったことにしたようですね。ゆっくり死に向かうからこそできるインチキ戦法ですか」
「それは強い!」
これは聖女ですわ。
自己犠牲の精神と蘇生の術、これは間違いなく誰もが尊敬するれきっとした聖女だ。
それはともかく、バフが剥がされた2人にハクさんが迫る。
咄嗟にサイレンさんが【音階魔術】で距離をとろうとしたが、バリアが割れただけでノックバックまではいかなかった。
『【限界突破】【限界突破】!』
強化を追加したハクさんの神速の一手が押し通り、その圧倒的な火力で斬り裂いた。
「決着だー! 勝者、“勇者と聖女”!」
「素晴らしい戦いを見せてくれましたね。完全に思惑通りの流れで押し切った“勇者と聖女”のお二人には感服です」
仲間としては勝って欲しかったが、解説としては公平な視点で発言しないといけない。
「逆に“パナ・サイ”は焦りが出ていましたね。先に1回戦のような海のフィールドを作ってから戦いを展開するべきでした。そして、結果論ではありますがそれぞれ同時に切り札を切らなければまた違った結果もあったかもしれませんね」
「相手の手札を予測するのはかなり難しいとは思いますがその辺は……」
「読みと勘ですね。低い可能性を数えなかったパナセア選手には、今後は自分の計算と戦闘の勘を信じるのもありとだけ言っておきましょう」
パナセアさんがバフ剥がしを読めなかったとは思えないので、自分の思考能力に自信を持つべきだと話して次の試合の話に移る。
「ミドリさん、ありがとうございます。さて! 準備が整ったようなので次の試合にいきましょう!」
「いぇーい」
「かたやあっという間に1回戦を勝ち抜いた“ダークネス”! かたや会場ごと粉砕した“リンサ”!」
「どうなることでしょう」
単純な破壊力だけならリンさんのあの魔術が上だろう。しかし、戦いにおいて火力だけが全てではない。“ダークネス”の2人は他のプレイヤーより速く、安定的に強い。万全の一撃を撃たせるとは思えないのだ。
拍手に応えるリンさんペアとは対称的に、フードを深く被った2人がツカツカと無愛想に入場した。
「3、2、1……試合開始!」
田中さんの合図で即座に“ダークネス”の片方、吸血鬼のシロさん……じゃない方のリューゲさんが空へ手を掲げた。
『【神前の祈り】』
〈ニュクスだよー……っておー、こりゃまた不思議な所にいるわね。じゃあいつものね【夜の帳】! 頑張ってね、リューゲくん!〉
「夜になった! これはどのような狙いがあるのか!」
「得意なフィールドに変えましたね。シロ選手は吸血鬼の真祖、つまり夜は彼女の独壇場です」
『【制約解除】』
私の解説通り、シロさんは外套を脱ぎ捨てて夜闇に溶けるように消えた。
「消えた!? と思いきやシロ選手、背後から大鎌を振り上げる!」
死神のような鎌がリンさんとサナさんの首をまとめて切り落とさんと迫るが、それはサナさんが2本の剣で受け止める。
「受け止めたー! すかさずリン選手の魔術が飛ぶ! しかしシロ選手、また消えた!?」
「ふむ、吸血鬼特有のスキルで霧になっているようですね。ここからでは見えにくいですけど目を凝らせば分かるはずです」
最初は火で対応したリンさんであったが、霧になっているのに気付いて風に切り替えた。霧散しかけたところに氷で凍らせる。
危機を感じたのかシロさんは元の人の姿になって大きく退くが、一回り小さくなっている。
そして追撃とばかりに手をかざすリンさんを、サナさんが呼び止めた。
やはりサナさんも気付いていたか。
『リン! 深追いは――』
「シロ選手の大胆な奇襲、素晴らしいヘイト管理と言えますね」
「それは一体……」
『【暗撃】でやんす!』
気配を極力消し、夜に紛れたリューゲさんが追撃に出たリンさんに致命の一撃を土手っ腹に打ち込んだ。並の威力ではないようで、文字通り風穴が空いた。
「決まったかー!?」
『〖バニッシュメントバ〜スト〜〗!』
『【絶魔】でやんす!』
流石のリンさんも聖女レベルの回復はできないようで、死に際にリューゲさんを消し飛ばす魔術を放ったがかき消された。
しかしサナさんがカバーして、【チェイン】込みでリューゲさんを炎と風の斬撃で焼き尽くした。
「相討ちの形にもっていった! なんとか1対1の戦いに持ち込んだぞ!」
「これはまた予想のできない盤面になりましたね」
お互い相方の死を確認して、少し沈黙が流れる。
そして武器を構える音だけが静かに響く。
――吸血鬼は
直後、両者は舞でも演じているように華麗に競り合い……1時間ほど決着まで時間がかかった。
田中さんの喉が心配である。
あ、勝者はサナさんでした。
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