##73 聖剣のつくりかた
私は走りながら頭を回していた。
メカ悪魔、それは間違いなく機械であるにも関わらず人を見境なく襲っている製作者も不明の存在だ。群れを持つ程度には仲間意識はあるようだが、目的を持って行動をするようなものではないのは私も知っている。
そんなメカ悪魔が一斉に町の方に進出してくるなんて、明らかにおかしい。
そもそもパナセアさんが色々と探っていたのはプリエットさんも知っていただろうし、全員揃って出ていけば何か仕掛けてくると考えても不思議では無い。
一刻も早く子どもたちの所まで駆けつけなければ何をしでかすか知れたものではない。
少しすると目的地が見えてきた。
「せいっ!」
私はそのままの勢いで正面のドアを蹴破った。
すると、中では子どもたちが普通に、ほのぼのと過ごしている景色が映った。
「ミドリお姉ちゃんにパナセアお姉ちゃん? どうかしたの?」
「プリエットさんはどこにいますか!」
「間に合ったか……?」
一歩遅れて入ってきたパナセアさんと一緒に安堵したが、やることが変わる訳でもない。
今の外の状況でここにプリエットさんが居ないこと自体がおかしいのだ。
「それなら研究室に居ると思うよ」
「ありがとうごさいます!」
「用事があるからいい子でここで待っているんだよ」
「う、うん。分かったよ……?」
私たちの真剣な表情に困惑しつつも、健気に見送ってくれた。
頭をポンと撫でてから真相を究明しに研究室へ足を進める。
――近づくにつれて奇妙な気配を感じた。
ゆっくりと、研究室の戸が開く。
「あら、もうおかえりですか? ……どうしたのです? とても怖い顔をしてらして」
修道服は着ておらず、くすんだ紫色の髪が顕になっている。服装はどこか仰々しい。
いつもの糸目は変わらずだが。
「プリエットさん、子どもたちに関することをすべて説明してください。場合によっては呼び捨ても辞しません」
「それは脅しになっているのか……?」
パナセアさんが首を傾げているが、私の中ではかなり特大の侮蔑だ。今のところこの世界では因縁のソフィ・アンシルくらいだろう。
それくらいの憎悪は抱くことになる。
「子供達のことでございますか……その様子ですとご存知のようですが」
私はそれでも黙って睨みつけていると、溜息をつきながら話し始めた。
「――人造兵装“聖剣”、もともとは技神様が設計案として書き出したものでした。技神様は倫理観の観点から諦めたようでございますが、この私が実現させました」
「子どもたちのことを聞かせろって言ってるんです」
「…………実際にお見せした方が早いでしょう」
そう言って手のひらをこちらに向けた。
私たちに向けて…………いや違う。
もっと後ろの、おそらく居間に向けている。
「【神格化】【聖剣開花】」
「その気配、技神の……」
「神だと?」
プリエットは目を見開いたまま、指をクイっと引いた。
その意図にいち早く気付いた私は、せめてもとパナセアさんを突き飛ばす。
「うぐっ……!?」
3本の剣が私の肩、腹部、太ももに深く突き刺さった。それなりにレベルも上がって固くなったはずの防御を貫くそれらは、私も振るったことがある聖剣そのものであった。
「ミドリくん!」
「だい、じょーぶですよ。これっぽち大して痛くありません」
「3本ねぇ……やっぱり育ちきっていないから聖剣にはなれなかった、と」
育ちきっていない?
今の発言からして全ての子どもを今さっき聖剣にしたと予想がつく。
――なら、私に突き刺さっている3本の聖剣はつまり
「あ゙ぁあああ!!」
体に聖剣が突き刺さったまま、怒りに任せてプリエットの頬を殴り飛ばした。
本気で拳を振るったので、プリエットは研究所の壁を突き抜けて外にまで吹き飛んでいく。
「――――」
さらに追撃で飛び膝蹴りを食らわす。
それなりにダメージは与えられているが、不気味な笑みを浮かべながらヤツは立ち上がった。
「本来であれば聖剣100本用意したかったのですが、これもまた宿命。77本もあれば私の目的も十分叶うことでしょう」
そう言いながら、指をクルッと回すことで、私に突き刺さった聖剣がそのまま一回転して体を抉る。プリエットはその後手を上に掲げ、全ての聖剣を集めた。
宙に浮かび、整然と刃先をこちらにむける無数の聖剣。
そこに突然影がかかった。
地底にある人工的な光を遮ったそれは、金属製の巨大な足に見えるものであった。
「あら、その様子だと私も排除対象のようですね」
プリエットは聖剣をかざして巨大な足を受け止める。
巨大なロボット。どこか見覚えのあるそれは聖剣によって軽く吹き飛んだ。
「ペネノ……!」
「パナセアさん」
「……ああ、こっちで相手しよう。君の戦いの邪魔はさせないさ」
私の言いたいことを即座に理解した彼女は、ペネノさんと思わしき巨大ロボに武器を構えて戦闘態勢に入った。
「ふふ、よろしいのですか? 1対1対2でも構いませんでしたのに」
「貴方みたいなクズの相手なんて、私一人で十分です」
「クズ、とおっしゃいますか。しかし、この厳しい世界においてはいかなる時も犠牲は不可欠なのでございますよ。特に、理想が高ければ高いほどに」
分かり合える気がしない。
微塵も共感したくない。
それでも、これだけは聞かねばならない。
「何が目的ですか。子どもたちを踏みにじった先に、どんな未来を求めているんですか!」
「窮屈で退屈なこの薄暗い場所から飛び立つのですよ。そして、天上で完全な世界を作り上げる。そのためには技神様の記録にあった勇者を超える力が必要だったのです。彼彼女らは完璧な世界の礎と――」
「もういい、黙って死んでください」
ゆっくりとプリエットに近寄る。
剣は抜かない。斬ってはい終わりで済ませるなんてあまっちょろい。
「【ダッシュ】」
一気に距離を詰めるも、無数の聖剣がドスドスと体刺さっていく。そんなことお構い無しに、私はプリエットを殴った。
「そんな傷だらけでなぜそこまで――」
何か言っているが関係ない。
怒りに突き動かされるがまま攻撃を続ける。
体が聖剣によって串刺しになろうとも構わない。
「くぅう!」
職業:《背水の脳筋》により傷が増えるにつれて増す私の力。
それを真正面から浴びているプリエットは、呻きながら聖剣を私の喉に差し向けた。
もはや声も出ないボロボロ具合である。
血みどろで暴れる姿はまさに修羅そのものだろう。プリエットの苦悶の声に恐怖が時折混じっていることから想像がつく。
「このっ、化け物が!」
――綺麗な花火のような弾幕の戦いが近くで繰り広げられているのが視界に入る。あの調子ならパナセアさんはきっと大丈夫だろう。
むしろハリネズミも真っ青なレベルで聖剣が突き刺さったままの私の方が危うい。
「いい加減ッ! 死になさい!」
プリエットの本性が顕になってきている。
よかった、行動通りの私が嫌いな人で。
――今の私なら殴り殺すこともできる。
『大罪“憤怒”従sssガラ……■神性介入を確認しました』『介入権の消費を確認』
『光輝な追跡者■■■より、ユニークスキル【
########
スキル
【
其は
########
どこのどなたか知らないが粋なことをしてくれる。私は声が出ない分、頭の中で新たなスキルを使うイメージをする。
――右の拳が目が潰れそうな程光り輝く。
「きっ! 『集えすべての聖剣よ、聖なる礎として主敵を討て』【大聖剣】!!」
77本の聖剣が一つになり、大きな剣になった。
それは私に狙いをつけている。
「死に損ないが!」
聖剣が私を真っ二つにせんと降りかかった――
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