#12 別れあれば出会いあり、です
階段を降り、厨房の方へ声をかけようとするが、踏み
「辞めておきましょう」
きっとまた泣かせてしまうし、それで私も行きにくくなってしまう。後生の別れでもないのだし、また次会った時に、挨拶しなかったことは謝ろう。
食堂の心地良い静けさを背に、無言で退出した。
閉店の作業で忙しそうな街並みを眺めながら、東の門へのんびり足を進める。
「お仕事お疲れさまです」
「ああ、ありがとう。今からどこへ?」
「王都の方です」
「そうか、道中気を付けな」
「ありがとうございます」
門番さんに軽く挨拶をして門をくぐる。
「ミドリさんっ!!」
背後から、聞き覚えのある声が私の名を呼んでいる。
振り向くと、開きっぱなしの門の向こう側に、息を切らしたミャンさんが立っていた。
「もう! 挨拶ぐらいして行ってくださいよ。他のお客さんに聞いて慌てて来たんですよ!」
「すみません……」
「これ、持ってってください!」
「え? わっ!?」
投げつけられた物を何とかキャッチ。
手の中には――――
「ミサンガ?」
「ほぇ〜、ミサンガって言うんですね」
「知らずに渡したんですか?」
「何となくかわいいので買いました。ほら、お揃いですよ!」
彼女の右手首にも、私が貰ったのと全く同じ物がある。白と黒のシンプルな物だ。
どんな世界でも、女子というのはお揃いとか気にしちゃう生き物なのかもしれない。
折角だし、お揃いで右手首にミサンガをつける。
「ありがとうございます」
つけたミサンガを見せる。
「やった〜! 大事にしてくださいね」
ミサンガってそういう物では無いんだけど、まあいいや。
「ええ。ではそろそろ行きますね」
「はい! 絶対また来てくださいね!」
「もちろん。お元気で」
「ミドリさんもお元気で〜!!」
ミサンガを揺らしながら手を振る、微笑ましい姿を尻目に、軽く手を振って後にする。
日が、沈んだ。
ある程度整備された道を歩く。夏とはいえ、夜は冷える。相変わらずの初期装備は半袖で、時々打ち付けられる風が厳しい。
現在の所持金、124,500
……これなら出発前に羽織るもの買っておけばよかった。
「そうだ!」
防寒として翼で
いつも通り翼を出す。
「んん?」
大きくなった翼は別にいい。今朝気づいたから。
でも、頭上のこれは気づかなかった。
「見習いじゃなくなったら貰えるのかな?」
天使といえばこれって感じの光の輪っか。
暗かった道を照らされる。
暖かくなったし、明るくなったしで、いい事づくめだ。
「grrrrrrrrr」
どこかで獣の唸り声がした。道の両側が木々で見えないから、念の為警戒しながら歩く。
【飛翔】で飛んだ方が速いのは明らかだけど、折角歩けるんだし、歩きたい。ここで感覚を覚えれば現実でもきっと……。
「あれは…………違うか」
しばらく歩き続けると、広い場所が見えた。しかし、目的のオックスさんの実家の村はこの次の次の村だったはず。
一旦、あそこで一休みしようかな。
「…………何も無い」
村で観光できる所が無いのではなく、村自体が無い。この
とりあえず探索をしてみる。
やはり人っ子一人居ない。
「ん?」
煙が立っているのがうっすら見える。日が昇っているばすぐ気づけたかもしれないが、暗くて気づかなかった。
誰かが居るのを見越して、翼と輪っかをしまう。
「誰だ!」
ほら居た。
「敵ではありません」
「人間か……」
「どうも。貴方はここで何を?」
キャンプのように焚き火の前で座っている好青年。彼の手には杖が握られている。
「王都に向かう途中の休憩にな」
「なら私と一緒ですね」
「そうなのか、良かったら一緒に行かないか?」
「途中で寄り道しますが、それでも良いのならどうぞ」
「寄り道?」
「ええ。お墓参りのようなものです」
「それなら俺も手を合わせていこう。人の死を悼むのに知り合いか否かなんて関係ないからな」
プレイヤーに表示されるプレイヤーカーソルが無いので、NPC……いや現地人だが普通に良い人そうだ。
「よいしょ」
焚き火を挟んだ向かい側に腰を下ろす。
「これ要るか?」
「あ、ください。ありがとうございます。いただきます」
差し出されたいい感じに焼けている、何かの肉を受け取り、かぶりつく。
「美味しいです。何の肉ですか?」
「近くで狩った狼肉だ」
わ〜お、ワイルド〜。
「ご馳走様でした。行きましょうか」
「そうだね。片しておくから、あの井戸で手を洗っておくといい。まだ水は残っていたし、大丈夫なはずだ」
「どうも」
火の後始末等を彼に任せて、唯一残っている井戸に向かう。
「井戸ってこうやるのかな?」
何となくのイメージで引き上げてみたりして、手を洗う。
そういえば今まで手すら洗ってなかった。無意識のうちに服で拭いてしまっていた。これからは衛生に気を配ろう。
「終わったか」
「お待たせしました…………何とお呼びすればいいですか?」
名前を呼ぼうとしたが、聞いていなかったことに気付く。
「そうか自己紹介してなかったな。俺はドゥーロだ、よろしくな」
「私はミドリです。改めましてよろしくお願いします」
今更な挨拶もそこそこに、東へ再出発。
因みに、明かりとして松明を持ってくれている。
「ドゥーロさんは王都に何しに?」
「ん? ああ、俺は王都に戻る方だな。ピリースでの出張が終わって帰るって感じだ」
ピリース…………あ、最初の町か。まだパッと出てこない。
「というかこれ」
「コート、ですか?」
分厚めのコートを渡される。
「安心しな。新品だ。予備で買っといたんだ」
「頂いていいのですか?」
「寒そうな格好のクセによく言えるな」
「では、有難く頂きますね」
早速着てみると、ものすごく温かい。これだけで同行してもらってよかったと思える。
「お前さんは王都に何しに?」
「………………観光と、冒険者としての好奇心ですかね」
流石に裏の組織の様子を見るとか言うわけにもいかないし、無難な返事で返す。
「なるほどな。王都はピリースよりずっと賑やかだから楽しみにしてな。……止まれ」
「はい?」
呑気な雑談から打って変わって、急に剣呑な雰囲気へと変貌する。
「爪デカ熊だ」
道沿いの木々から出てきたのは、その通り爪だけが異様に大きい熊。
「いや、名前安直すぎません?」
「別に俺がつけた訳じゃないから、んなこと言われても」
その名前をつけた人も、採用した人もバカなんじゃないかな。噛みちぎり狼もたけど、名前がまんますぎる。
分かりやすいのはいいんだけどね。
「戦えるか?」
「もちろん!」
ストレージから大剣を――――
「無理そうです」
今朝折れちゃったんだった。リーチが短くなって重さも不安定なので、振れても隙だらけになってしまうだろう。
「同行してよかったな。火の槍よ、〖ファイヤランス〗」
ドゥーロさんの杖の先から火の槍が射出され、熊に命中する。
私の【神聖魔術】とは違って詠唱が短い。
聞きたい欲を抑えながら、戦いが終わるのを待つ。そう、熊はまだ生きているのだ。
「相変わらずしぶといやつだな! 火の刃よ、〖ファイヤカッター〗!」
今度は火の刃が熊の皮膚を削る。
熊の毛が硬いのか、あまり火が燃え広がらず消えてしまう。
「【ガァァァッッ】!!」
熊が何かのスキルを使ったのか、爪が青く光り輝く――
「下がれ!!」
「はい」
言われた通り、急いで後退。
私たちがいた場所に爪撃が通る。あのまま居たら引き裂かれていただろう。間合いがあるとかどこの達人なんだ……。
「埒が明かないな。もう使っちゃえ……ミニサイズの護身用だし怒られないだろ」
呟いているつもりのようだが、丸聞こえだ。何を使うんだろう?
ドゥーロさんは地面に何かを埋めて、再び退きながら杖を構える。
「あっちまで離れるぞ!」
「了解です」
熊に背を向け、後ろに走る。
背後から地響きのような足音が聞こえるが、無視する。
「今だな」
ドゥーロさんは突然熊の方を向き、何かのスイッチを押す。
思わず振り向くと、丁度それが起きた。
爆発音。
そして、チリチリとコート越しに熱気が伝わってくる。
「爆弾?」
「いや、生命力高すぎだろ。火の槍よ、〖ファイヤランス〗火の槍よ、〖ファイヤランス〗」
トドメとばかりに二つの槍が熊に突き刺さる。
最初は地雷かと思ったが、スイッチを押したから爆弾だろう。てっきり中世的な世界観だと思っていたが、違うのかな?
「さっきの何ですか?」
「ん? ああ、あれは魔道具だ。中々の威力だろ?」
魔道具くん、また君か……。
「ところで、あの焼け焦げた熊はどうするんですか?」
「要らないし、どこかに埋めてく」
もったいない!
「でしたら私が貰ってもいいでしょうか?」
「別にいいが、どうするんだ?」
「私、異界人なので簡単に収納ができるんですよ」
そう言いながら熊をストレージに入れ――
「解体しなきゃいけないみたいです」
入らなかった。
「できるか?」
「教えてくれません?」
「はあ、世話の焼けるやつだな。俺が同行してなかったら大変だったろうな」
「ですね」
感謝しつつ、解体の手順を教えてもらう。
こういうのはやはり、現地人なら誰でもできるのかな。
「聞いてるか?」
「あ、もう一回お願いします」
「だから、ここを切り取って――――」
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