##帝国軍VS魔王軍##
――ミドリたちが魔王城で暴れだした頃。
ついに戦の火蓋が切られた。
頭数でいえば、ホームでもある魔王軍の方が多い。そこを覆す役割なのはパナセアとその補佐のペネノ、ストラス、ペット枠のどらごんである。
補足だが、ジェニーと従者のモニアは既に暴食が封じられているトバタの井戸へ向かっている。
「ストラスくん、噂の四天王とやらはどれか分かるかね?」
「あの派手な鎧のやつと、怪しい外套を着たやつ、それから……たぶん奥に居る巨大なカラスであろうな」
既に戦いが始まっている中、〘オデッセイ〙の面々は獲物を見繕うために後方で戦を眺めていた。
「もう一人は留守番か。頭数は揃うから丁度いい」
「GIGI……セントウジュンビ、カンリョウ」
ペネノがゴーグルの形に変化した。
パナセアは眼鏡を外してそれを装備する。
「吾輩はあの大将気取りの怪しい外套のやつをやる」
〈どらごん!〉
「ああ、では私は数を減らしながら派手な鎧の獣人を相手しよう」
それぞれの戦場へ駆けていく。
どらごんは植物で翼を生やして奥のカラスのいる場所へ。
ストラスは隠密系統のスキルを使って戦場を掻い潜っていく。
そしてパナセアは――
「【形態変化】、殲滅モード」
「GI……【
左脇腹の肌剥き出しの部分からロケットランチャーを展開し、発射した。一つ一つが人を数人消し飛ばずには十分な威力で、それぞれに追尾機能が備わっているため、チートと言われても文句は言えないだろう。
あっという間に混戦の中の敵兵だけを消し飛ばしながら、パナセアは四天王と思われる獣人がこちらに向かっているのを確認する。
「ピネノ、やつの分析を」
「……カンリョウシマシタ。シュゾク、
「そうか、であれば接近戦で応じようか」
「ガァアオアア!!」
パナセアの眼前に獣人が迫る。
名乗る理性すら残されていないその哀れな四天王は、最後の最後まで魅了に抵抗した武人である。精神力の強さから自力で魅了を解く可能性があったので暴走状態にされているのだ。
そんな尊厳を踏みにじまれている彼女に対し、パナセアは今できる本気を披露した。
「【形態変化】、天使モード」
それは彼女の見た中で最上の輝き。戦いの中で踊るように舞う、大切な仲間の芸術的な姿の模倣。
〘オデッセイ〙として旅を続けて機能美とは違った、“無駄”も含めた美しさを追求した一つの完成形である。
機械の翼を携え、両手を剣に変えた銀色の天使は、技術もへったくれもない獣人の攻撃を躱す。
「全力の君と戦えないのは少し残念だ」
パナセアは容赦なく叩き斬る。既にボロボロだった獣人は、やっと開放されたといった表情で眠るように倒れ込んだ。魅了にかかっていない状態なら真正面から挑んだパナセアはおそらく負けていただろうが、勝負は時の運である。
「トドメは――いや、拘束でいいか」
――ところ変わってストラスの戦場。
ストラスは風のごとく走っていた。
彼の本領たるスト……スニーキング技術で軍同士の衝突の中を抜けて、最後方で戦況を眺める四天王の一人へ。
「【光の矢】」
光速の矢が放たれる。
それは通常のミドリでも躱すのがやっとな速度なのだが、四天王の傍に控える大男が大剣で難なく弾いてしまった。
反撃に、他に控えていた魔術師から極太の光の束が放たれた。
「ばかなっ!?」
想定外の規模の反撃にストラスが対応できずにいると、
「【秋の移ろい】」
ストラスを特殊な転移で助けたのは、戦の直前まで眠っていた
「ワーハッハァ! 我こそは竜王の娘にして竜の巫女ウイスタリア・メチャツヨ・ボルテスタである! よく分からんが全員蹴散らしてやる!」
「こーら敵はあっち」
意気揚々と現れた助っ人に、ストラスは知力的な不安と戦力的な安心感を抱く。
「良い働きだ魔女。吾輩は奥の四天王を倒す。取り巻きは任せて構わんな?」
「その取り巻きの方が強いんだけどネ。でもまあ余裕、かな? ウィスタ?」
「余裕のヨーヒーブホーだな!」
「……任せていいのだな?」
「この子適当に喋るから気にしないで」
「ははーん? さては貴様ら、かの有名なヨーヒーブホーを知らんのだな? いや、申し訳ない。我の博識っぷりがここぞとばかりに――」
優越感に浸るウイスタリアに容赦なく大剣が振られた。筋骨隆々な大男が、ふざけているウイスタリアに全力で攻撃したのだ。その威力はスキルも乗っており大地を砕き、衝撃波で近くに居たエスタとストラスは吹き飛ばされてしまう。
「――――われが」
「……!」
感情なんて持たないはずの大男に、驚愕の表情が顔を出したように見えた。
「我が喋ってるであろうがああ!!」
不意打ちの大剣を、2本の指で挟むように受け止めていたのである。完全に無傷なウイスタリアはカウンターとばかりに大男の顔面を殴る。
頭が弾け飛んだ大男は一度距離をとり、改めて剣を構えた。
「ゾンビか。ということはあの四天王は死霊術師のようだな」
「魔術師はあたくしが倒すから大元は頼むよ、ハ――」
「ストラスだ。あと吾輩の種族はエルフだ。いいな?」
「へぇ。それは失礼、自称ストラス氏」
ストラスは睨みながら死霊術師へ接敵する。
途中特大の魔術が飛んでくるが秋の参道がそれを拒んだ。魔術師が
どういう意図なのか、死霊術師は外套で隠していた顔を顕にした。
「骸骨……スケルトンか?」
「否、拙僧はプネウマ。リッチゆえ、スケルトンとは
「リッチだと? とてもそうは見えないな」
リッチは、優れた魔術師が自身に不老不死の術を施すことでアンデッドになる存在である。そのため、通常は骨だけになるはずはないのだ。
「……語る所以無し。【再生ノ刻】」
プネウマのスキルで地中から巨大なサンドワームが現れ――――消し飛んだ。
「「は?」」
「遅いぞエルフ! もう我が倒すからな!」
話している間に元英雄である大男を倒してきたウイスタリアが、敵の切り札を瞬殺したのである。
「あっ、ちょ……」
「らあああ!」
「【冬の記憶】」
ウイスタリアは一撃で同じようにプネウマを消し飛ばした。その直前にエスタが何か細工をしたようだが、獲物を横取りされたストラスと文句は聞かないウイスタリアは気付いていない様子だ。
「(んー、なるほどなるほど。この死霊術師はあくまでも
エスタは読み取った記憶から今の状況と過去の歴史を知った。断片しか読み取れないが、元々リッチだったのをどういう仕組みか殺され、今の時代に蘇っていたのは分かった。
暗躍している何者かがいることも。
「邪神教って実在したんだ……」
ボソッとこぼした感想は誰にも聞こえない。
しばらくしてからエスタは、理不尽な竜の巫女と、ミドリに褒められる手柄がひとつも無いストラスの喧嘩を止めに入った。
――――一方その頃、どらごんは容赦なく四天王の巨大カラスの亡骸を食べていた。どらごんの一方的な蹂躙は言うまでもないだろう。
戦場の只中で呑気に「大きくなれるといいなー」と考えながら食事をするどらごんの近くには誰も近寄れない。
そのような調子で、帝国軍と魔王軍の戦争は開始早々にして終わりに近付いていた。
激化する他の戦場とは対極的に。
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