#90 Eランク卒業?
「戻りましたー」
「おかえりっすー」
現実でお昼ご飯をかけこんでからギルドの食堂でログイン。抜け殻はマナさんに見守っていてもらった。
周りから見たら酔いつぶれて寝た人だったのを考えると、やはりログアウトは外でやるものじゃないなー。
[コンビニエンスパーソン::おかえり〜]
[コラコーラ::おかー]
[天麩羅::おかえり〜]
[芋けんぴ::おかえり〜]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::おかえりなさい!]
ついさっき知ったんだけど、少しの離脱なら待機画面になるという機能があったので使ってみた。
「さ、依頼受けましょう」
「ゴーっす!」
早速依頼を探すために掲示板を覗く。
Eランクの依頼が……無い!
「困りました。受付で張り出されていない依頼が無いか聞いてみましょうか」
「人気なんすかねー?」
「Eランクの人達が多いのかもしれませんね」
「マナたちも大衆の一部ってわけっすか」
肯定したくなかったので適当にはぐらかして受付へ向かう。お昼どきなのもあって受付は空いているから直接行ける。
「すみません、Eランクの依頼が無かったんですけど、こちらに新しいのとかありますでしょうか?」
「冒険者カードのご提示をお願い致します」
「はいっす!」
「はい、お願いします」
久しぶりに冒険者カードを取り出して、マナさんの後から読み込みの魔道具にピッとやる。
ハイテクだなぁ……。
「ありがとうございます。パーティー名オデッセイのミドリさん、マナさん、ですね」
パーティー名、いつの間に申請したんだろう?
私が居なかった間に、意外とここに通っていたのかな?
「そうです」
「そうっす」
受付嬢さんが何かの確認している隙に、マナさんにこっそりと尋ねてみる。
「マナさん、パーティー名っていつ申請したんですか?」
「ここに着いてすぐっす。ミドリさんのも過去の組んだ履歴から仮登録が可能って言われたのでやっといたっす」
魔道具すご。そんなこともできるんだ。
「ミドリさんの方は仮登録になっていますが、本登録に切り替えてよろしいでしょうか?」
「あ、お願いします」
「……登録は完了しました。えーと、すみません。少しお待ちください」
どうしたんだろう?
凄い困ったような顔をしていたけど。
「なんでしょうね」
「わ、わかんないっす……」
[壁::どうしたんやろね]
[蜂蜜穏健派下っ端::妙だ…]
[限界お宅:¥1000:]
[果てなき逃避行::す、ピ、ピース、平和!?]
何か深読みしてる人がいるみたいだけど、さっきの発言から平和に行き着くのは完全にやばい人だ。
「こわ、ブロックしよ……」
「!?」
[隠された靴下::急に何w]
[芋けんぴ::えぇ……?]
[唐揚げ::脈絡ないなった!?]
[高血圧::なぜに!?]
全員困惑している。
みんな、分かってないなー。
「少し予想外のことを呟くことで意表をついて会話を弾ませる、コミュニケーションの高等テクニックで――」
「ひぐっ……」
「んぇ?」
泣い、てる?
泣いてる。
マナさんが、涙を流している。
「どうしたんですか! 一体誰が……!」
「スンッ……ミドリひゃんが、マナをブロックひゅるって…………」
なるほど?
「…………? ……!! 違います!」
「ぇ?」
タイミングが悪かったのか、マナさんに「ブロックします」って言ったような感じになってしまったみたいだ。なぜブロックが通じるかは置いといて、面と向かってそこまで拒否するなんてありえない。
「マナさんを狙うロリコン視聴者さん達に言ったんです。この世の全てを賭けてもマナさんには言ってません」
「よかったっすぅ……」
「わ、かわいい……」
私の胸に飛び込んできたマナさん。
これが
「あのー、お邪魔して申し訳ないのですが、確認が済みました……」
「お構いなく続けてください」
いつの間にか受付嬢さんが戻ってきていた。
本来なら断る場面だが、初対面で無視するほどの度胸は無いので聞く体勢に入る。マナさんも落ち着いてきたようで、私から離れていく。
「お二人が所属しているパーティー、オデッセイの規定達成依頼数がDランクへの昇格条件を満たしています」
「ほう。全員揃って昇格ということですか」
「おー」
私が居ない間に結構色々やってたんだなー。少し寂しい。
「はい、Dランクへの昇格はそれに加えて昇格試験向けの依頼で可能となります。ただ――――」
頭が痛そうに間を空ける。
問題児っぽい行動なんてした覚えが無いんだけど。
「帝国御前大会での入賞者が二人もいるとのことで、少し変わってくるんです」
「なるほど?」
「ミドリさんとサイレンさんのことっすね!」
仲間の功績が誇らしいのか、ムフンッと胸を張っている。
胸にお山は無いので、ただただカワイイ。
「個人で活動している方であれば自動昇格、または二つ昇格だったのですが、パーティーで複数……過半数となると例外になるかと思いまして、確認してまいりました」
なぜ大会の結果を冒険者ギルドが把握しているのか、一瞬疑問に思ったが、そもそも大会の受付をしていたのは冒険者ギルドだったし当たり前だと気付く。
「結果、一つ特別な依頼を出しますので、そちらを達成していただけば一気にBランクへ昇格ということに決定しました」
「「B!?」っすか!?」
てっきりCランクへ飛び級とかかと思っていたら、更にその上をいかれた。私たちの力を過信しすぎな気がする。
「正直Cランクで良い気が……」
「なんでっすか?」
「まだそれほど強くないから早いのでは、と思いまして」
「そんなことないっすよ。マナたちの強さははっきり言って少なくともAランクはあるっす。今まで戦ってきた人達が特別強かっただけっす」
そうなの?
全員でかかっても勝てるか怪しい人達を結構知っているから心配が拭えない。
マツさんはワンチャンいけるかもしれないけど、ネアさんやキャシーさん、未だにそこの知れないシフさんあたりは厳しいと思う。
「まぁ、一回その依頼を軽く達成しちゃえばどんなものか分かるっすよ」
「確かにそうですね。分かりました。一度受けてみましょう」
「よろしいでしょうか?」
「「はい!」っす!」
気合いの入った返答の後、渡されたのは拍子抜けな依頼書であった。
「スライムって……」
「馬虎っすか?」
「それを言うならトラウマです。……別にトラウマではないですけど、もっと難しいのを想像してたので気が抜けたと言いますか」
「脱法っすか」
「脱力ですね」
少し間違っているのを訂正して、依頼内容に更に目を通していく。
期間は一週間、場所は王国と公国の国境を作っているデーモス湿地帯。そこに生息している泥スライムとやらに変異種が現れたとかで、それの討伐が今回の依頼内容だ。証明品はスライムの体の一部とのことで、液体を入れるための瓶ももらった。
「これくらいなら二人で余裕ですね。早速行っちゃいましょう」
「っすね!」
「お気をつけて」
◇ ◇ ◇ ◇
余裕綽々、勝ち組の行進と言わんばかりにのんびりおしゃべりをしながら街の外まで歩いた。
「ここからは時短のため飛んでいきましょう」
「競走っす!」
「え?」
「よーいどんっ――【
一目散に走っていったと思ったら、大量の光の盾が宙に現れ、階段のように並ぶ。マナさんはそこに乗り、トランポリンのように盾に弾かれてグングン進んでいってしまった。
[カレン::なにあれ]
[階段::あれがワイの進化後の姿…ってコト!?]
[枝豆::かっけー!]
[紅の園::いつのまにあんな技を!?]
あまりにも流れるような新技に、思考がショートして視界の端にコメントが流れるだけの時間ができてしまった。急いで追いかける。
「【飛翔】」
……これ、追いつけるかな?
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