#80【勤勉】な復讐者



「【勤勉の天使】」



 砂埃が晴れて、大きな翼と光輪を携えた男が現れた。



「貴様だけは……殺してくれる!」


 距離を詰め、剣を振ってくる。

 それを私が剣で応じて受け止める。


「【適応】」



 適応魔剣が大きく、オレンジ色に染まっていく。


 これ、両手で握ると大剣サイズになるのね。そして、私の強さにも合わせて強度が増してるようにも思える。



「とー」

「ふんっ」


 横からキャシーさんが斬りつけるが、まさかの素手で受け止めている。



「というか、お二人はどういうご関係なんですか?」


 今更ながら、ずっと気になっていた根本的な問いかけをする。大男は眉をしかめ、キャシーさんは変わらない表情で、同時に答える。



「知らなーい人」

「妻を殺した憎き敵ですな!」


 想像より重い話だった。

 キャシーさんもなかなか酷いな。


「妻ー?」

「貴様が滅ぼした国の騎士団の団長だ!」


「んー、わかんないや」

「貴様ッ!」



 私をほったらかしで口論から殺し合いに発展していく。


 何にせよ、隙ができた。今のうちにステータスを見よう。

 冷静さを失っているから凌げているが、ステータス差があるのかそれでも押されているし、急いで確認しないと。



「ステータスオープン」



 ########


プレイヤーネーム:ミドリ

種族:大天使

職業:――

レベル:??

状態:執着

特性:善

HP:?????

MP:????


称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・生の体現者・最多死亡者



スキル

U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・肉切骨断


R:飛翔8・神聖魔術8・縮地6・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟(使用不可)・祀りの花弁(■■・■■■)(使用不可)・死耐性5


N:体捌き9・走術6



 ########



スキル

肉切骨断ラストチャンス】ランク:ユニーク

死に際にのみ放てる渾身の一撃。相手の攻撃を受けながらでないと発動できない。

CT:3日


スキル

【死耐性】ランク:レア レベル:5

死にそうになっても、少しの間気合いで持ちこたえられる。



スキル

【神聖魔術】ランク:レア レベル:8

神聖なる力で回復から攻撃までこなす。


〖使用可能な魔術〗

・セイクリッドリカバリー

・ディバインウォームス

・フォンドプロテクション

・ゴッデスティアーズ

・フェイントスケイルズ

・エンジェリックハート

・リリジャスディード

・ヘブンスジャッジメント



魔術

〖フェイントスケイルズ〗

対象者の見た目が小綺麗になる。

詠唱:「女神ヘカテーよ、我が羨望せんぼうの眼差しに応じ、醜き者を整えたまえ」

消費MP:1000



魔術

〖エンジェリックハート〗

天使の鼓動を半径10メートル内で響かせる。

詠唱:「女神ヘカテーよ、天使の鼓動を聞かせたまえ」

消費MP:10000



魔術

〖リリジャスディード〗

善い行いは、きっと自身に返ってくる。

対象者のカルマ値が高いほどパラメータを上昇させる。

詠唱:「女神ヘカテーよ、我が行いを見守り、行く末を押し広げたまえ」

消費MP:1500


魔術

〖ヘブンスジャッジメント〗

敵に裁きの光を落とす。

詠唱:「女神ヘカテーよ、我が清き声に応じ、世界の錆を洗い流せ」

消費MP:1000




スキル

【走術】ランク:ノーマル レベル:6

走り上手になる。走ることに補正がかかる。

アーツ:ダッシュ・持久走・疾走・スタートダッシュ・スライディング・壁走り



アーツ

【スライディング】

正面に鮮やかな滑り込みを決める。

CT:300秒


アーツ

【壁走り】

五歩だけ壁の上を走れる。

CT:600秒



 ########



 前のやつよりかは地味だけど、正統派の進化って感じだ。効果の薄いのもあるけど、選択肢は多いに越したことはない。



「おたすけー」

「【縮地】、せいっ!」


「チッ」


 危ないところをギリギリで助けれた。なぜか破裂する攻撃を打ってこない。楽観的に捉えるならクールタイムだろうけど――


「【勤勉の鳳仙】」

「【飛翔】」



 キャシーさんのまだ残っている方の腕を引っ張って、回避する。



「キャシーさん、見せてくださったあの強いやつ出来ませんか?」

「無ー理ー。もう悪魔の力は無いしー、封印された時にステータスも持ってかれてるからー」



 掴んでいた手を離すと、キャシーさんはどこか寂しげに汗を拭う。


 キャシーさんには言いにくいが、破裂するスキルがあるので私一人の方が楽だ。連携して掻き乱して照準を定めさせないという戦い方も、ぶっつけ本番でできるのか微妙。

 狙いはキャシーさんで、そのキャシーさんは片腕が無くていつやられるか分からない危険な戦い。


 チラッと顔を覗き込む。



「……死なない程度にお願いしますよ。私が基本的に前に出ますから」

「ん」



 作戦は無し。

 連携の練習も一切してない。

 相手は即死級の攻撃を放つ。


 それでも、あんな顔されたら仕方ない。


 いつもだるそうなのに、あんなに楽しそうな表情を見せられたら。



「職業、戦死王」


『職業:《戦死王》になりました』



 ワクワクが伝染うつってしまう。


 一覧からユニーク職業というのを見つけて選択。戦士系の派生らしい。



 ########


職業スキル:死活の狭間・物理耐性10・魔法耐性10・大剣術7・魔術耐性3


 ########


スキル

【死活の狭間】ランク:ユニーク

自身の残りHPを1にし、減らした分だけ全パラメータを上昇させる。

CT:1秒



スキル

【物理耐性】ランク:ノーマル レベル:10

レベルが高いほど物理攻撃に耐性を持つ。



スキル

【魔法耐性】ランク:ノーマル レベル:10

レベルが高いほど魔法攻撃に耐性を持つ。



スキル

【大剣術】ランク:ノーマル レベル:7

大剣の扱いが上手になる。

アーツ:パワースラッシュ・ヒートアップ・プッシュダウン・ジャストガード・アッパーブロウ・ヘビーブースター・メテオスロー


アーツ

【アッパーブロウ】

大剣を振り上げて敵を斬りながら吹き飛ばす。

CT:180秒


アーツ

【ヘビーブースター】

振り下ろす時に重さを乗せて威力を増やす。

CT:210秒


アーツ

【メテオスロー】

大剣を地面に向けて、高威力で投げつける。

CT:300秒


 ########




「最期に聞いとく。お前、名前はー?」

「貴様に名乗る名など、とうの昔に捨てたのですな」


 まったく。

 キャシーさんなりの騎士道精神だろうに。



「私はミドリ。正義でも悪でもない、友達の味方です」

「キャシー。怠惰の力を授かった、しがない田舎娘」


「……ミソレル。復讐のために全てを捨てた、元花屋の男ですな」



 空気がひりつく。

 自己紹介なんて意味の無いことのように、殺し合いが行われるのだ。

 それでも、名前も知らずに戦っていてはお互い失礼というもの。




「【死活の狭間】、【ヒートアップ】、女神ヘカテーよ、我が行いを見守り、行く末を押し広げたまえ〖リリジャスディード〗」

「【怠惰の腕輪】」


 途方もない力が私を包み込む。


 私とキャシーさんの腕にドス黒い腕輪があるが、そこに力が流れているのは勘違いではないだろう。私と同じ光をキャシーさんも纏っているのだ。


 力の増え方には変化はないから、おそらく分割ではなく、共有。いいスキルだ。



「【疾走】!」

「【勤勉の歯車】」


 敵の――ミソレルさんの後ろに大きな歯車が現れ、時を加速させる。


 瀕死の私の、限界を超えた速度についてきている。


 数合剣を交えたところで、キャシーさんが横から斬りかかる。私もそれに合わせて集中力を高める。


「とー!」

「【アッパーブロ――」


「【勤勉の鳳仙】」



「っ、【ダッシュ】!」



 キャシーさんが狙われたので、途中で発動スキルを切り替え、キャシーさんを押し飛ばして庇う。


 HP1の状態で耐えれるはずもないが、気合いで持ちこたえる。そのための【死耐性】だ。



「男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強、戦う私は超最恐!」



 血反吐を撒き散らしながら、歯を食いしばって進む。今止まったら絶対に死ぬから。


「【飛翔】、【肉切骨断ラストチャンス】!」

「返かーん」


 私の腕輪が光る。

 それに合わせて力が倍増した。



「らあ゛あぁああああぁ!!!」

「【勤勉の対価】!」



 お互いの命を賭けた一撃が、火花を散らして激突した――




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