#研究者エディのメモ#



 キメラの作製に成功した。


 儂は何をしているのだろうか。

 何十年と生きてきた結果出した答えがこれでいいのか、己に問い直す必要がある。



 伝承通りのキメラを作り、竜を倒し、自分と竜のキメラを作る。それが一番効率が良さそうだ。


 そのためには、もっと増やさなければいけないが、この研究所だけでは入りきらなくなってきた。



 王都で革命が起きた。

 買い出しで城がひっくり返る瞬間を見た。

 何かが、変わるかもしれない。




 研究資金の援助をしてくれてた貴族が軒並み潰されたようだ。場所を移さねば。荷物が多すぎる。助手が欲しい。



 新居はなかなかいい場所だ。

 前より少し広い。

 しかし、このメモを忘れそうになったのはヒヤッとした。日記とかの方がいいかもしれないが、買うのが億劫おっくうだ。


 メモでもこうやって書くのが最近の楽しみの一つだ。文学者を気取って悦に浸るのはなかなかどうして心地が良い。




 男と取り引きをした。

 どうやら新政権のトップがそいつと同じ、裏社会の人間らしい。


 こちらはキメラなどを提供、最後の詰めで動く代わりに、素材と研究費の捻出を約束してくれた。


 まだ、儂が直接動くのは考えているが、キメラの貸し出し程度、問題無い。


 話に乗った。





 キメラの縫合部から遠い部分で、変異した皮膚を発見した。そこは異様に硬く、再生速度も速い。医療業界で何か役立つかもしれないが、今更儂にはどうしようもない話だ。


 皮膚というか、皮膚の粒一つ一つのような感じだ。皮膚は何かの集合体で成り立っているのかもしれない。


 明日、集会、王都北西、月光亭、夜。

 夕方出発。





 今日は集会があった。

 例の男と、男の弟と、ピリースのギルドマスターと、妙な女と会った。

 女は死霊術師と名乗っていたが、死霊術師とは初めて会った。少し見せてもらったが、なかなか興味深い力だった。


 作戦、ピリースの地下水路に決行日前日に爆発の遺物アーティファクトを設置するらしい。使い捨てで一回しか使えないから、終わったあとの隠蔽も必要ないそうだ。


 見せてもらったが、仕組みがさっぱり分からなかった。

 スキル書の作製しかり、やはり失われた技術ロストテクノロジーは想像を遥かに超えるものだ。



 続き、傘下のところから、ありったけ金を強奪しておく。男の弟がこれをやるそうだ。地下水路から侵入し、麻薬の渡し人と思わせて、武力で制圧。そのまま地下水路を通って逃げ、地下水路の近くで潜伏。見張りを行う。


 地下水路は見張り番がいるようだが、そこは死霊術師が偽装工作を行うようだ。



 ピリースのギルドマスターが、情報を適度に規制しつつ、やり取りするようだ。



 この作戦で、念の為キメラを一匹用意しろとのこと。死霊術師に研究所まで案内し、一匹引き渡し、儂の仕事は一段落ついた。




 とんでもないものを生み出してしまったかもしれない。おまけに変なのも作ってしまったし。


 変なものは、深夜に眠い中作った、ライオンの体と人間の顔を持ったよく分からない生き物だ。どこかの伝承で聞いたことがある見た目だが、たしかスフィンクスとかだったはずだ。同じ言葉しか話さないので、捨てたが。



 とんでもないものは、確か黒猫だったはずだ。

 どうやって生み出したのか、ハッキリと覚えていない。記憶が曖昧だ。だが、あれが危険な存在ということだけは分かる。



 すぐに消えてしまったから、行方すら分からない。





 このメモがどこかへいってしまって書けなかったが、あれから約三週間が過ぎた。



 作戦の準備をしているようだが、儂はキメラの更なる強化を図っていた。竜を殺すとなると、もっと強くさせる必要があるからだ。




 久しぶりに連絡がきた。どうやら、計画が少し難航しているようだ。キメラと遭遇してしまった異界人がいるらしい。キメラは死霊術師と同じ場所で待機しているはずなのに、妙だ。

 そして、異界人は天使らしい。俄然、興味が湧いてきた。

 更に、ここに来て作戦変更だそうだ。

 その異界人を依頼で釣って地下水路への興味を失わせるそうだ。最悪、頼み込むらしい。


 頭が足りていない。その異界人がキレ者だった場合、確実にバレる。これだから、裏社会の連中は。修正の仕方が雑すぎるのだ。




 どうやら、キメラが倒されたようだ。

 地下水路にキメラが居たらしい。

 死霊術師の裏切りを確信したし、予想通り逃げていたらしい。


 王国で死霊術が使える人間はここ数十年聞いたことが無い。やはり、他国のスパイだったのだろうか?


 しかし、結果的にくだんの異界人を王都に向かわせることができたらしい。男の弟がその異界人と同行しているようだ。


 作戦の最終段階の調整会議。明朝出発。





 天使と思われる少女と遭遇した。やはり、儂のやり方は正しかった。そう認めてもらえた気がした。


 その後の会議で、予定が決まった。


 作戦、王女が居ると思われる屋敷へ男と大量の部下が突撃。王都に火をつけて回り、キメラを暴れさせる。

 王女を捕らえて、ピリースで脅す。




 王女が逃げた場合、儂らが王女を捕らえる。王女とピリースを人質に、脅す。







 儂らの負けだ。

 もう直に死ぬ。

 これを読んだ者のために、遺言でも書いておこう。



 儂は悪人だ。


 でも、キメラ達は違う。


 あやつらを逃が







 *****

 メモはここで途切れている


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る