#60 【AWO】実は、下山に必要な体力は登山の半分なんですよ。知りませんけど【オデッセイ】
色々あって大変だった昨夜は過ぎ去り、私たちは元気に下山していた。
「サイレンさーん、遅いですよー」
「そうっすよー」
「はぁ……ひぃ、おかしいでしょ……」
かなり後方をふらつきながら歩くサイレンさんに向かってのんびり手を振る。
私達は平気なのかって? 今日は【飛翔】を使ってマナさんと先行して、効果時間が終わったらクールタイムが終わるまでその場で待つ、といったムーブなので余裕なんだなー。
……誰に向かって話してるんだろう、怖。
「それにしても、クリスさんって意外と体力あるんですねー」
「確かに意外っすね」
私たちのクールタイム待ちで先に進んでいったサイレンさん以外の人達の背を見る。優しいパナセアさんがサイレンさんの介護してるから、クリスさんとシフさんだけなんだけどね。
[隠された靴下::効率的でいいね]
[階段::パナさんがサイレンくんを抱えて飛べばいいのに……]
[カレン::頑張れ〜]
[天変地異::そろそろ着くんじゃない?]
[ヲタクの友::クリスさん性格の割に強いな……]
クリスさんに配信の説明をして軽く挨拶してもらったけど、直接話してるわけでもないのにしどろもどろだったからねー。あの様子からこんな無尽蔵の体力は想像がつかないのだろう。さっきは意外とか言ってみたけど、私は薄々そうじゃないかと勘づいていたよ。
心の中で後方敏腕スカウトマン面をしていると、クールタイムが終わっていた。
「マナさん、時間です」
「了解っすー」
「【飛翔】」
マナさんを背負って飛ぶ。比較のため、翼は出していない。
「やっぱり翼ありの方が速いですね……」
「何か言ったっすか!」
「何でもないです!」
かなりの速さで飛んでいるから、向かい風のせいで声を張らなければ聞こえないのが、何とかして欲しいところ。マナさんとの会話がまともにできやしない。
クリスさんとシフさんを追い越し、スイスイ進む。あの二人、何話してるんだろう?
「よいしょ」
「ありがとうっす!」
「いえいえ、ここからは私たちも歩きましょうか。目的地は目の前ですし」
「そうっすね。あとは後ろの人達を座って待つっすよー」
いい具合の切り株に腰をかけ、私の膝にマナさんが座る。風のせいで髪が崩れているので、簡単に直していく。
「ミドリさーん、新しいスキル何だったっすかー?」
マナさんが足をブラブラしながら尋ねてくる。
新しいスキルって何のこと……スキルスクロールの話か。すっかり忘れてた。
「まだ使ってませんでした。でも今の所スキルは困ってないんですよねー。要ります?」
「ダメっすよ。ミドリさんの頑張りなんすから」
「それは……確かにそうですね」
「そうっすよー」
髪を整え終えたので、早速ストレージからスキルスクロールを使ってみる。
『スキル:【祀りの花弁】を獲得しました』
「次はマナがミドリさんの直すっすよ」
「おー、ありがとうございます」
マナさんが立ち上がって、私の後ろに回り髪を触り始めた。何か嬉しい。
「ステータスオープン」
少し頭部がこそばゆいのを感じながら確認する。
あ、職業に星が付いているのは進化できるとか注釈が小さく書いてある。勿論進化っと。そして職業を新しい……いや、武器が大剣から片手剣になったんだ。
ならこれで――――
########
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:天使
職業:魔法剣士(火)
レベル:31
状態:正常
特性:天然・善人
HP:6200
MP:1550
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛
R:飛翔5・神聖魔術4・縮地3・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁()
N:体捌き9・走術4
職業スキル:火魔法4・剣術1
########
スキル
【祀りの花弁】ランク:レア
離れていても、その心は一つ。
「別れ」の際にスキルをランダムで一つコピーする(自動)。プレイヤーは対象外。五つまで。
・――
・――
・――
・――
・――
スキル
【火魔法】ランク:ノーマル レベル:4
火を操る魔法。
〖使用可能な魔法〗
・プチファイヤ
・ファイヤ
・ファイヤボール
・ファイヤウェーブ
魔法
〖プチファイヤー〗
火種を出す。
詠唱:「火種よ」
消費MP:2
魔法
〖ファイヤー〗
火を生み出す。
詠唱:「火よ」
消費MP:4
魔法
〖ファイヤボール〗
火の玉を打ち出す。
詠唱:「火の玉よ」
消費MP:8
魔法
〖ファイヤウェーブ〗
小規模な火の波を放つ。
詠唱:「火よ波打て」
消費MP:15
スキル
【剣術】ランク:ノーマル レベル:1
剣の扱いが上手になる。
アーツ:スラッシュ
アーツ
【スラッシュ】
斬撃を放つ。
CT:80秒
########
新しい称号は無視の方向で。新たなスキル【祀りの花弁】とやらはかなり強そうだ。「別れ」がどういう意味なのかはよく分からないけど、不謹慎な方だったらこれを考えた人は性格が悪い。
「綺麗になったっすよ!」
「ありがとうございます」
タイミングよく終わったようで、立ち上がる。ふと来た道の方を見てみるとシフさんとクリスさんが随分近づいていた。その更に後方では、何か砂埃が激しく舞っている。
「何ですかね、あれ」
「ん〜? 何っすかね?」
[壁::動物?]
[キオユッチ::イノシシとかかな]
[コンビニエンスパーソン::山崩れでは]
[コラコーラ::人影ない?]
[紅の園::魔物かな?]
視聴者さんたちは意見が割れている。相変わらず呑気に眺めながら私たちが首を傾げていると、シフさん達が到着した。
「お待たせー☆」
「お、お待たせですぅ……」
「お二人はあれが何か、ご存知で?」
「変なのがいるっすよ!」
結構な轟音が鳴っているのに、後ろを振り返らない二人に尋ねてみる。
クリスさんはすぐにシフさんに視線で説明を促している。
「三、二……☆」
ニヤリと不敵に笑って突然カウントダウンを始めた。状況的に後ろの砂埃がここに来るまでの時間だろう。
危ないかもしれないけど、それならきっとシフさんが何とかしてくれるはず。
「一、ほいっと☆」
砂利を撒き散らし、工事現場のような騒音の主とは対称的に異様に軽い掛け声で何かを掴んだ。その物体は――
「イテテテ……」
「はっはっはっ! これもある意味良いデータじゃないか!」
疲れ果てた様子のサイレンさんと、目を
「何があったんすか?」
「いやー、へへへっ、サイレンくんの体力が限界に近かったから試作品のそり型車両を使ってみたんだよ。そうしたらなんと大暴走! エンジンフルスロットル、急な下り坂、舗装されていない道、踏み抜いて壊れたブレーキの、4倍役満さ!」
全ての原因は踏み抜いたブレーキにあると思うんだけど。それはもう機械の問題じゃなくて、直接的なヒューマンエラーでしょうに。
「ん? その車は何処へ?」
「あ、それならマナの目の前を通ってあっち行ったっす」
マナさんが示す方を覗き込むと、街の外壁目掛けて突っ走る勇ましいそり型の車が。
「何で止めないんですか!」
「ん〜、わたしが止める必要が無いからね☆ お出迎えが処理してくれるよ☆」
お出迎え?
疑問を抱いていると、微かな金属音の後に車が真っ二つになった。
「ほらね☆」
「そ、そうですねぇ…………」
「凄いっすねー」
〈どらごん!〉
「あ゛ー! 私の試作品172号が……!」
「GIGI……ドウイツノモノガアトニケンアリマス」
「うわ、えぐいなぁ」
「…………」
パナセアさんのミスをカバーしてくれた人の登場に各々反応を示す中、私は何か妙な胸騒ぎを覚えていた。
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