##59 【AWO】pulse“い”【新生・ミドリ】
謎めいた言語の光が徐々に収束していく。
「さぁ、私の可愛らしい天使ミドリ。希望を宿す剣を抜き、失いし翼を取り戻しなさい」
「……」
フェアさんのそんな臭いセリフに、私は無言でジト目を向ける。
「あ、あれ? 無視……? というかそんな睨まなくても……」
「……」
「い――」
「い?」
「いいじゃない! ちょっとぐらい私も女神っぽいことしたかっただけなんだから、生唾を飲んで聖剣を抜く勇者みたいな感じでやってよ!」
「うわ」
羞恥心に焦がされたのか、半ばヤケクソ気味にイチャモンをつけてきた。そんな駄々っ子女神をガン無視し、私は地面に埋まった剣を握った。
「――!」
重い。
……いや、剣の重量自体に変化は無い。ただもっと別の何かが、私の肩にのしかかる色んな人の思いと同じような、特別な何かが詰め込まれているような気がした。
意を決して剣を引き抜く。
瞬間、私の背に翼が、頭上に大きな光輪が出現した。翼の数は四つ。それが示すのは――
「ステータス、オープン」
########
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:大天使
職業:背水の脳筋
レベル:106
状態:微興奮
特性:天然・善悪
HP:21200/21200
MP:5300/5300
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・旧魔神の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・色の飼い主・復讐者・神殺し・空間干渉者・時をかける者・破壊壊し・真理の探究者
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・超過負荷3・無間超域
R:飛翔10・神聖魔術8・縮地8・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈・命の灯火・残花一閃)・水中活動・間斬りの太刀
N:体捌き10・走術7
職業スキル:脳筋・背水の陣・風前烈火
########
スキル
【飛翔】ランク:レア レベル:10
空中を自由自在に飛び回れる。
スキル
【神聖魔術】ランク:レア レベル:8
神聖なる力で回復から攻撃までこなす。
〖使用可能な魔術〗
・セイクリッドリカバリー
・ディバインウォームス
・フォンドプロテクション
・ゴッデスティアーズ
・フェイントスケイルズ
・エンジェリックハート
・リリジャスディード
・ヘブンスジャッジメント
魔術
〖セイクリッドリカバリー〗
対象者の傷を癒す。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ」
消費MP:40
魔術
〖ディバインウォームス〗
対象者の
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が
消費MP:500
魔術
〖フォンドプロテクション〗
対象者に強固な防壁を張る。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が祈祷の声に応じ、弱き者を守りたまえ」
消費MP:200
魔術
〖ゴッデスティアーズ〗
不死系の生物を黄泉に送る。
「女神ヘカテーよ、我が憐憫の情を聞きつけ、歪んだ者を安寧の世界へ運びたまえ」
消費MP:400
魔術
〖フェイントスケイルズ〗
対象者の見た目が小綺麗になる。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が
消費MP:1000
魔術
〖エンジェリックハート〗
天使の鼓動を半径10メートル内で響かせる。
詠唱:「女神ヘカテーよ、天使の鼓動を聞かせたまえ」
消費MP:10000
魔術
〖リリジャスディード〗
善い行いは、きっと自身に返ってくる。
対象者のカルマ値が高いほどパラメータを上昇させる。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が行いを見守り、行く末を押し広げたまえ」
消費MP:1500
魔術
〖ヘブンスジャッジメント〗
敵に裁きの光を落とす。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が清き声に応じ、世界の錆を洗い流せ」
消費MP:1000
スキル
【間斬りの太刀】ランク:レア
空間ごと斬る――ただそれだけの剣技。
【祀りの花弁】ランク:レア
離れていても、その心は一つ。
「別れ」の際にスキルをランダムで一つコピーする。プレイヤーは対象外。五つまで。
・不撓不屈
・命の灯火
・残花一閃
・――
・――
スキル
【
生命を火に変える。小さな火ではあるが、欠片程度でもあらゆるものを消し炭にするほどの火力を持つ。また、同系統のスキルと合わせると相乗効果が生まれる。
詠唱:『紅く輝け』
スキル
【残花一閃】ランク:レア
散る間際の美しき斬撃を放てる。HPが残り50を下回っている時のみ発動可能。
CT:30秒
スキル
【走術】ランク:ノーマル レベル:7
走り上手になる。走ることに補正がかかる。
アーツ:ダッシュ・持久走・疾走・スタートダッシュ・スライディング・壁走り・空蹴り
アーツ
【空蹴り】
空中を一時的に足場にすることができる。パッシブ。連続2回までしか使用できない。
########
やはり大天使になっていた。
そしてなんか色々増えたり減ったりしていた。
MP総量的に使えない魔術があるのも気になるが……私が自力で空間を認識して足場にできていたというのは気の所為だったようだ。パッシブだし、知らぬ間に発動させていたのだろう。
――恥っず!
「おーい、仕える神を無視してジャンジャン進めないでねー」
「ああ、すみません。まだ居たんですね。ちなみに仕えてはいませんよ」
「ヒドッ!?」
「ところで、レベルが100を超えたんですけど大天使の上限ってどれくらいなんですか?」
涙目になりつつあるフェアさんに、少し可哀想かと思って話題を変えた。フェア虐はなかなか絵になるが、これ以上やるとガチ泣きして拗ねるのが目に見えているのでやめておく。
「レベル上限? 大天使なら200だよ。まだまだ安心してレベル上げちゃってねー」
「……もしかして今の私のレベルってそんなに強くないんですか?」
「んー、強くはあるけどトップクラスと比べたらって感じかな。でも、それこそジェニーちゃんとかソフィちゃんとかの段階になるとレベル差より、いかに理不尽で相性のいい技を相手にぶつけられるかの話になるからあまり気にしなくてもいいと思うよ」
「なるほど」
低レベル帯では所有スキルの差がほとんど無い場合が多いが、高レベルになれるような者はだいたい強いスキルやら神能を持っていて、それで言わば異能力バトル的なのが勃発すると言われれば納得がいく。
特殊な方法以外無敵、みたいなスキルを持つ敵がいたらレベルなんて関係ないからね。
この一部だけインフレしてる世界だからこそ普通に有り得そうなのが怖いところ。
「その点、この最強無敵な勝利の女神がついているからミドリちゃんは心配無用! どんな難敵にも柔軟に対応できるから実質世界一強いと言っても間違いではないはず」
「……最強無敵な勝利の女神? 一体そんな頼もしい方は何処に?」
「こ・こ!!」
「へぇ〜、ふぅ〜ん」
「もう! そこまで言うのなら私の凄さを教えてあげる。ミドリちゃん、その剣は神器だから詠唱で解放できるの。やってみてー」
ふくれっ面のフェアさんから諸々を教わった私は、弄りがいがあるなーと思いながら言われた通りにしてあげた。
「『
勝手に武器の名前を変えられたが、何かかっこいいので許す。
新たな相棒{
素振りがてら、ストレージから3号も取り出して二刀流で構える。{逆雪}はしれっと葉小紅さんに差し上げたが、3号という思わぬ出会いで懐かしの二刀流ができる。
といっても魔王さんとの戦い以来だからそれほど昔ではないけどね。
「ふんっ! よし、まだまだ私もやれてますね」
「老兵みたいなこと言ってるけど全然現役だからね。それでどう? 私の凄さ、
「うーん……{適応魔剣}の頃との違いは何ですか? 正直大して変わってないと思うんですよ」
「神器だよ!? 前教えた必殺技でもそれなりに連発できるし、前のより火力も上がってるの!」
「そうなんですね。まあ悔しいですけどお礼を言っておきます。ありがとうごさいました」
「何でそんなに私を褒めるのに抵抗があるのよ! ――っと、あんまり長話するのも悪いかしら。地上もてんやわんやになってるし」
フェアさんは、ふと下を向いて呟いた。
確かにおしゃべりに結構時間を使ってしまった。
「じゃあ、私は行きますね。またどこかで」
〈どらごん〉
〈わん!〉
「いってらっしゃい。これからも私の寵愛を授かる天使として、楽しみつついい感じに苦しんでねー! ついでに小さなお友達も元気でねー!」
しれっと酷いことを言われた気がしたが、何にせよ真っ白な床がパカッと開いて空に放り出された。
重量に全身が引っ張られる。
「ふぁわ〜、新鮮な空気が美味しいですね。どらごんもンボ子も、しっかり私の肩に掴まっててくださいよ」
〈どらごん〉
〈わん!〉
折角リニューアルしたことだし、配信でお披露目しよっかな。こういうのは我慢せずに共有した方が精神衛生上良いのだ。
サムネイルにはカメラを適当に調整して背中の4つの翼を使用した。タイトルも、これで良しっと。
「ンボ子は初めてなので説明しますと、今から何か凄い力でこちらからは見えない人達が高みの見物をし始めます。とりあえず私の向く方に挨拶して貰えます?」
〈わん〉
〈どらごん〉
「よし、じゃあ始めますね」
開始ボタンを押す。
……と同時にコメントが滝のように流れていった。
「みなさんどうも、一時覚醒系しっとり美少女の私ですが、この度ちゃんとした覚醒イベントを乗り越えて大天使になりました。今後はより一層崇め奉るように! そしてこちらはンボ子」
〈わん!〉
〈どらごん〉
「何見とんねん、的な感じで言ってるそうです。可愛らしいですね」
[天麩羅::進化した…ってコト?!]
[あ::名前のアクが濃すぎるやろがい……]
[階段::かわいい、のか?]
[供物::飼い主に似るって本当なんだ]
[リボン::あ、タイトルってそういうことね]
[竹とんぼ::ンボ…ンボ…]
ちゃんと馴染めてるね、ヨシ!
そろそろ地上が見えてきたので【飛翔】を使って減速させていく。
「どれだけ強くなったかは――今からお見せするとしましょうか!」
大量の竜同士が暴れあっている戦場に、合流を約束した仲間たちの姿が見えた。
戦況的に、黒い竜と赤い竜が味方で青と白の竜が敵みたいだ。
「どっせーい!」
戦場の真ん中にいる、強そうな白金の竜を踏み潰しながら勢いよく着地した。
「ミドリ、バージョン2.0! 見参!!」
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