##81 その結婚、ちょっと待ったー!!
事情を聞いた後、目下に迫る結婚式という機会に乗り込んでストラス――ストロアさんの意志を尋ようと決めた私。
とりあえず色々考えた末に、真正面から結婚式をぶち壊すことにしたのだった。
ストラス(ストロア)ぶん殴り作戦当日――
「あんな大勢の人に囲われて式をやるなんてお偉いさんってのは大変なんですね」
「エルフ族は寿命が長く、ハイエルフのアタシらは特にだしで、そんなハイエルフの結婚式なんてなかなかお目にかかれないものなの」
離れた場所の木の葉に紛れながら様子を眺める私たち。目的地は把握したし、早速作戦開始といこう。
「行きましょうか」
「ええ、いつでも」
「どらごん、準備はいいな!」
〈どらごん!〉
「ったく、やるっきゃねぇよな……」
タバコをふかしてだるそうにしている不公平さんを除いてやる気十分の様子だ。車は大破したので移動手段は足だが――一気に駆け抜ければいい。
式場めがけて突っ走る。
森の異変にいち早く気付いた警備のエルフが取り押さえようと迫るが、徒手空拳でぶっ飛ばしながら進む。寿命が長くて多少レベルが高い程度の相手に剣を抜くまでもない。
「――懲りない方々だ」
警備の異変を察知した盲目の老剣士が、私たちの眼前に立ち塞がった。
「作戦通りに!」
「任せるのだぞ!」
〈どらごん!〉
「わかってるっての。【
帝国の闘技場のような舞台が展開され、セヌス氏とウイスタリアさん、どらごん、不公平さんを囲った。あの場は彼女らに任せて私とスノアさんだけで屋外結婚式へ向かう。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですって。あのウイスタリアさんが秘策があるって言ったんですから心配ご無用ですよ!」
どらごんと一緒に目を輝かせていたからきっと何とかしているはず。この信頼こそ仲間の絆というやつなのだろう。気恥ずかしいから口には出さないが。
◇ ◇ ◇ ◇
鐘が鳴っている。
新たな夫婦を祝福する鐘、そして新芽の前で誓いのキスを交わそうとするハイエルフの2人。
――に、割り込むように勢い任せの突撃をする私たち。
「その結婚、ちょっと待ったー!!」
「お兄様! アタシは認めませんよ!」
相方は私怨しかなさそうだ。
このブラコンハイエルフめ。さて、あらかじめ私の中でのみ決めているプランAを遂行しよう。
「――!」
「ストロア様の妹君に……そちらはどなた様でしょうか?」
わお美人さん。
ウェディングハイエルフさんは気品をお持ちであられるらしい。
「私はスト……ロアさんの知り合いです。彼に用があって来ました」
「ストロア様いかがなさいますか?」
「
なるほど、彼なりに覚悟は決めているようだ。
それなら聞くことはひとつ、やることもひとつ。
「ストラスさん、ちょいと失礼。【縮地】」
一瞬で距離を縮めて彼の眼前に拳を向ける。
そして弾くように指を突き出した。いわゆるデコピンである。黙って出ていったことはこれくらいで勘弁してやろう。
彼は無言でデコピンをして口角を上げている私にバツの悪そうな顔を浮かべている。いつまでたっても面白くない人だ。
「さて、お別れの前にひとつだけ聞かせてください」
「……」
「――私たちとの冒険はどうでした?」
もともと彼の決断を尊重するつもりで、乱入という形になったのはあれだけど私たちなんてそんなことばっかりだし今更だ。はたから見たら迷惑行為かもしれないが、私たちにとっては必要なことなのだ。
ストラスさんは一瞬驚いた表情になったが、すぐに俯いた。真正面にいるというのに何を考えているのか窺えない。
ただ少しばかりの迷いと後悔だけは伝わってくる。
「まあいいでしょう。それではさようなら。ストラスさん」
「ちょっと、お兄様の結婚をやめさせるんじゃ……」
どこの誰に似たのかしつこいスノアさんの口をおさえて耳元で彼女にだけ聞こえるように話した。
「あの人、頑固だから無理です。本当にやめさせたいなら妹である貴方が説得してください。もちろん例の悪霊に関しては私がやっておきますので」
それだけ一方的に伝えて私はこの場における最善手をとった。スノアさんの首筋に3号を添える。
別にスノアさんの命をどうこうなんて考えていない。私はただのストラスさんの知り合いとしか名乗っていないから彼の名声に傷をつけることもないし、そろそろ決着がついているであろうウイスタリアさんたちと人質を盾に合流できる。
こちらの事情を知らない彼女らはそのまま突っ込んで来る可能性があるから一緒にもう一度お縄にかかって、賊を捕まえるという功績をストラスさんに与えつつ討伐対象を探すという作戦である。
「この人の命が惜しかったら指のひとつも動かさないことです! いいですね……」
そろりそろりと来た道を後ずさる。
感想としては人生で一度は言ってみたいセリフランキング第15位の悪役ゼリフを言えて満足だ。
そのままゆっくりとウイスタリアさんたちのもとへ向かう。
そんな私の行動に対して、眉間に皺を寄せながら慎重に取り押さえるように指示するストラスさん。
――そう、それでいいのだ。どうか彼には〘オデッセイ〙のストラスではなく、エルフの長になるストロアとして幸せになって欲しい。
元仲間からできるささやかな願いであった。
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