###戦神と白金###
ミドリたちが螺旋塔の1階から最上階まで飛んで行った後、その場で鍔迫り合いをしていたアインスと白金はお互いに後退して距離をとる。
片や黒と金の鎧を身につけたのが戦神の力を思うがままにするアインス、片やその劣化コピーの白と金の鎧を身につけながらも超人的な第六感で
この最強格同士の決戦に割り込めばどんな強者でも粉微塵になる――そんな危険な空気が漂っていた。
「どこからでもくるといい」
「はい――!」
片手で剣を持ち、もう片方はダラリと脱力させたアインスの言葉で白金が動く。
両手で剣を握る彼女が一振り。すると斬撃が威力は据え置きで分裂した。
軽く剣を振って四方八方から迫る斬撃を薙ぐと、その衝撃で爆発した。爆煙の中、白金が追撃に走る。
「しっ――」
「まだ足りんな」
必殺の一太刀を片手で受け止めるアインスに、マズいと感じたのかすぐに距離を置いた。
――解説すると、初手で【爆裂斬】【恒常斬】【分裂斬】という技を重ねがけした上で、ミドリが使う【
「確かに経験から技を借りるのは時に役立つが……己が剣でなければ私を超えることはできない」
「私の、剣――」
事実、アインスが装備している鎧は戦神アテナの神器の一つであり、装備者にはあらゆるスキル・魔法・魔術・神能を無効化する効果があるのだ。
なので露払いはともかく、本気で倒すには自身の力で成し遂げねばならないのだ。
一瞬の思考の合間を縫うようにアインスは肉薄した。
「くっ……」
振るわれた横薙ぎを、白金は咄嗟に剣を片手だけ逆手に持ち替えて剣先を、アインスの剣の横に突き立ててクルッと上に回避した。
白金の強さの秘訣は確かに鎧由来のスキルコピーにあるが、それを支える彼女の
運営が独自に計測した、現実とVR内における身体操作技術の差を倍率で判断した指標――VR適性に関しては白金は歴代最高なのだ。分かりやすく例えると、常に全てが高水準のミドリやVR適性を買われてαテスターになったクーロはスキル補正無しで壁や天井を縦横無尽に動けるのに対し、白金は短期集中型の代わりに、予知に近い知覚機能や二段ジャンプを可能にするほどの身のこなしを備えているのである。
「よく動くな」
「褒め言葉として受け取りましょう」
皮肉か称賛か判断に困るコメントをしてから、アインスはジグザグに迫る。白金は残像の間を軽やかに通り抜けてすれ違いざまに斜めに斬る。
しかし、いかに白金の鎧で真価を発揮した剣であれどその刃が通ることはなかった。
逆に白金の鎧は正面から斬撃を浴びて亀裂が入っていた。超人的なPSの白金に対して、アインスは数多の傑物の力を内包した戦神の力に過去唯一適応した強者。一般人が身につければ筋繊維がズタボロになって内側から破裂する力を掌握しているのだ。
まさに上澄み同士の対決、しかし戦況はアインスの方に傾いていた。
ただ、
「はぁ……はぁ……」
「失望させてく――ほう」
片膝をつく白金を見下ろすアインスだったが、自身の鎧の胸部に切り傷が入っているのに気付いた。
白金が食らいつけている証である。
「よくやった。だがこれが限界だな」
「ま、だ――」
震える膝を伸ばして立ち上がる白金の背後に、アインスは一瞬で移動した。
アインスが剣を下に振る。
――直後、無数の斬撃により白金の鎧が砕け散った。
「くぅ……」
両膝をつき、剣を床に突き刺して倒れないようにしたまま天井を仰ぐ。
鎧は粉々になり、光となって消えていく。
「上出来ではあるが、やはり紛い物ではこれが限界か。同じ装備同じ条件下であればきっといい
「……まだ、終わってなんかいません。鎧は無くとも剣がある限り必ずあなたを解放してみせる」
満身創痍な白金の胸がプラチナ色に輝く。
「【
エンジン音のような心臓の鼓動が響く。
鎧が砕けたことで顕になった彼女は立ち上がる。
白金のショートカットの髪にタレ目気味ながらも戦意のこもった青色の双眸。誰よりもこの戦いを待ち望んでいた少女の口元は微かに緩んでいた。
「私がここにいる理由はあなただけでした。あなたが私を熱くしたんです。この剣が例え借り物だとしても、私自身の剣でなくとも――」
白金が構えると、アインスは容赦なく剣を振って真っ二つにした。
――塔の柱を。
ネアのユニークスキル、【チェンジ】のコピーで柱と自身を交換したのだ。
しかし、アインスもそれに気付いて空中に投げ出された白金を無数の斬撃で切り裂かんとする。
白金はクロのユニークスキル【スリップ】のコピーを使い空中で不自然にコケて斬撃を回避。
身を翻して天井に足をつけて力む。
そして爆発的なオーラが身を包む。勇者ハクの【限界突破】である。
「【臆病世界】【世界凝縮】」
世界スキルを自身だけに押し込め、臆病を力に変えた。
もはや彼女を縛るものはない。彼女が最も恐れる人とのコミュニケーションもない。
剣を振る――ただそれだけに白金は集中力を注ぐ。
「……これほど昂ったのは賢者様と相対した時以来だ」
「――――斬る」
アインスの声は、
天井を砕いて神すら凌駕する速度で肉薄した。
「来い、白金。【始原の刃】」
刃に穏やかなオーラが乗る。しかしその実、次元を斬り裂くのも容易な火力を内包していた。
「――に゛ゃぁぁあ!」
珍しく全身全霊で力を込めたのもあって奇声が漏れている。
そんな可愛らしい声とは裏腹に、白金の剣に禍々しい破壊の紫、神を塗り替える虹色、無機質な世界のシステムを覆す無色透明な力が乗っていた。
終末兵器と呼ばれている三柱の力を無意識下で再現したのである。戦神の偽りの剣があるとはいえ、コピーの効果を最大限極めて歴史からコピーしたのだ。
ひとつひとつは彼女の力ではないが、全てを組み合わせられるのは白金だけ。
世界で彼女だけの剣が、最強の刃と衝突する。
2人にとっては永遠にも感じられる時間の後、ついに白金の剣が戦神の剣と鎧を叩き斬った。
戦神の遺した神器はその力を失い、砕けて消えていった。
しかし、中身のアインス――否、縛りから解放された
白金は力を使い果たし、ポリゴンとなって消えた。
「人が神を超える、実に素晴らしい――そうは思わないだろうか? 賢者ソフィ・アンシル」
和服姿の虹色のロングヘアをひとつにまとめた芹栖は、その三本皇国人特有の黒茶の瞳を柱の裏に向けた。
「そうね。どこかで見た光景――」
「『来い』神刀{草薙}」
芹栖のもとに、空間を割くようにして一振りの太刀が出現した。それを握ると同時に、ソフィの体に幾重もの斬撃の線が走った。
芹栖は刀を腰に提げる。
誰も目で追いつけない速度で抜刀と納刀をしたのだ。
「……まさか私を倒すつもり? それができるとでも?」
「貴様のせいで妹達が死んだ。だから今のは私の八つ当たりだ。8000が5になったところで貴様の計画に支障は出まい。もしそれで失敗するようなら貴様の力不足だった、それだけだろう」
「わざわざ本命だけ残してご苦労なことね。行くの?」
8000あった、ソフィ・アンシルの
「
「そ。…………本当にあの時鎧で抑えつけておいて正解だったわね」
芹栖が剣神であり自身の父であるフンフのもとへ向かったのを見届け、ソフィは冷や汗を拭う。
それもそのはず、七草芹栖はかつてソフィ相手に本気を引き出した挙句、力を抑え込むという方法でしか従えられなかった人物なのだ。
戦神アテナの神器で、アテナの強さ並にするという本来なら神に近づける効果なのだが芹栖にとっては制限でしかなかった。
――
地上最強の
「ま、あの様子なら世界が終わろうとどうでもいいのね。さっさと終わらせましょ」
保険として用意していた多数の
もともとこの場所へ来たのも独断専行で邪神をぶちまけたフィアの尻拭いが理由だった。もはやミドリたちが対処したので問題ないのである。
しかし、白金が勢い余って真っ二つにした大陸もちゃっかり戻している辺り、この天の地の支配者であることを見せつけていた。
ソフィが世界を滅ぼすか、あるいは彼女の野望を打ち砕く者が現れるか、あるいは――
確実に言えることは、最後の瞬間が刻一刻と迫っているということだけである。
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