###“蝕呪”と創神&騎士###

 


 毒々しい空間。

 パナセアと、貫かれて穴の空いた胸をおさえる正義のつるぎが、ほほ笑む1人の女性と相対していた。女性は薄紫色の髪を編み込んで首に巻き、黒を基調とした簡素な戦闘服に妙にマッチしていた。


 桃色の瞳が妖しく輝く。

「【束縛の魔眼】」


「……いきなり金縛りとは。一体どんな教育をうけたのかね」

「ふぬぬぬ……!」



 強力な金縛りを食らったパナセアは冷静に相手を挑発し、正義の剣は力んで強引に動こうとする。

 仕掛けた女性は変なものでも見るような目を向けながら会話を続けた。



「……心臓が貫かれてるのにそんな力んで大丈夫なの? というかなんで生きてるの?」



「それは私も思った」

「気合いです! あと保って5分だからパナセア氏、さっさとこの幹部らしき人を倒してしまいましょう! ふんっ!!」



 そう言って正義の剣は根性で金縛りから抜け出して剣構えた。それを見た敵味方両方、脳筋具合に若干引きながらそれぞれ応じた。


 パナセアは【形態変化】で拘束された外皮を脱ぎ捨てて脱出。女性は懐から小さな髑髏が付いた杖を取り出して臨戦態勢に入る。



「【リフレクション】」


「【神格化】」

「【騎士の意地】! 【全力全開】!」


 自身のダメージを相手に返すバフを撒いた女性。

 スケルトンボディと“カミオロシ”製のサポーター、不気味なヘルムで覆われている創神パナセア。

 逆境系スキルを発動して身体能力を強化した正義の剣。



「【縮地】! 【白紙の剣】!」


 正義の剣の攻撃が女性に入った。傷自体は浅いが、ダメージを狙った攻撃ではないのだ。

 本来なら即座に裂傷が攻撃主に移るのだが、それが起きることはない。


 正義の剣の【白紙の剣】は斬った相手のバフをすべて剥がすという強力なものだったのだ。【リフレクション】も効果は破格のものであったが、その分CTクールタイムは長い。それこそ張り直すなんてできない。




「消し飛ぶといい」


 パナセアの手のひらから途方もない熱量の光線が放たれた。それを真っ向から食らってしまった女性は、杖を構えたまま平然としていた。


  「用意した肩代わりアイテムが8つも消し飛ぶなんてこわいものね。『世界の黄昏に、絶望は侵食する』」


 女性の舌にある黒猫の紋様が輝く。

【変幻自在の神の加護:蝕呪】 が使用されたのだ。パナセアと正義の剣の全ての指先が紫に変色した。少しずつ、紫が広がっていく。



「指先が動かない? 機能を停止させる呪いといったところか」

「【斬鉄】!」



「【錆融の呪い】【欠損の呪い】」




 剣は錆びて融け、騎士の利き腕が腐り落ちた。

 すかさずカバーにパナセアが射撃の構えに入る。



「【暴発の呪い】」


「――!」


 パナセアの腕から放たれようとしていエネルギー弾が逆流。彼女はすぐさま腕を外して難を逃れる。


 女性の呪いは 【変幻自在の神の加護:蝕呪】 の対象者とその所有物なら無機物でもお構い無しに蝕むのだ。優れた火力を持つパナセアと正義の剣だからこそ、それが活かせない今の状況はかなり厳しいものである。


 ただのアタッカーなら勝ち目は無かった。

 しかし、パナセアは発明家で、創神なのだ。



「騎士くん、すまないが彼女を体で捕縛してくれないか。君ごと叩き斬る」


「構いませんよ! それが勝ち筋だというなら、正義の名のもとにこの身朽ち果てようと――! 【ダッシュ】!」



 甲冑をガタガタと揺らしながら突っ走る。

 当然そのまま捕まる気は毛頭ない女性も呪いで殺そうと試みる。



「【激痛の呪い】【脱力の呪い】」

「甘い甘い甘ーい!! 気合いさえあれば、呪いなんて効きませんよ!」



 ガッシリと、心臓の無い満身創痍なはずの騎士は全身で女性を捕らえた。



「――『蒼き万物の胎動、其は蓋世の導きを与え、終焉にこそ創造の営為をもたらす』【神器解放:玲瓏拓発条デミウルギア・スプリング】」


 パナセアのコアが蒼く輝く。

 創神の神能、その本来の力が万全に発揮できるようになった。取り外して失った左腕を創り、新たに創造した透き通るような刀身の剣を両手で握った。


「【損壊の呪い】」

「無駄だよ。君がどれだけ壊そうとね」


 呪いによって砕けた剣が再生された。

 破壊を司る神でもなければ彼女の創造に抗うことなどできやしない、それを見せつけてからパナセアは滑るように未だ正義の剣によって羽交い締め似合っている敵の元へ。



「剣を振るなんて滅多にしないが――」



 彼女の目の奥には勇敢な天使の姿があった。



「どれだけ彼女と共に旅をしていたと思う? 少なくとも、熱狂的なファンである君よりもずっと見てきたんだ」



「――!」




 女性の桃色の瞳に嫉妬と羨望が宿ったようにパナセアには映った。そしてパナセアは、どこぞの大天使ほどとまでは行かずとも美しい軌跡を描いて正義の剣ごと敵を斬り裂いた。



「騎士くん、この様子だと町にはアンデッドの軍勢が送り込まれているはずだ。そちらの指揮と殲滅は任せたよ」



「ええ! 任されました!」

「……」


 元気な正義の剣とは対照的に、悔しさを滲ませる女性もポリゴンとなった。それを確認してから【神格化】を解いたパナセアは、息を整えながら外に出た。





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