#21 ゴブリン、討伐します
「こっちかな」
サイレンさんの先導に従って歩く私達一行。
頼りになる人で本当に助かる。
平原地帯から森林へ入る。
「少し待って」
「はーい」
「了解っす!」
立ち止まって、息を大きく吸い込み始めた。
「【超音波】、――――――――」
小さく呟いてから、何かを叫ぶように息を吐いているが、何も聞こえない。
そして耳に手を当て、目をつぶって集中している。
スキル名から推察するに、超音波を放って反響させて聞き取り、獲物の位置を把握するとかなのかな。確かエコーロケーションとかいう名称だったはずだ。
「いる。奥から3匹、向かって右から回り込んでるのが2匹」
「ありがとうございます。でしたら、私が正面を倒すので、戻るまで
「OK」
「任せるっす!」
攻撃できるのが私だけってのは面倒だけど、何とかなる、はず。
目視できる範囲にゴブリンが近づいてきた。
ゴブリンは、多くの伝承の中で共通しているように、まさに醜悪な妖精って感じだ。
先手必勝。
「【ダッシュ】」
前方向に進み、ストレージから大剣を取り出して、
「【パワースラッシュ】」
肉を引き裂く音が、感触が手に伝わる。
もちろん、骨も叩き斬る。
「次」
【天眼】によって攻撃のラインが見える。
それを
横からゴブリンの棍棒による打撃が襲いかかる。
が、
「そっちからなのは失敗でしたね」
大剣を振り始めたのは右側。
ゴブリンが攻撃してきたのは左側。
私の攻撃と同時なら完璧だったが、遅い。
右足を前に出して、足先を左に向け、大剣を振り回したまま回旋。
「はあ゛あああああ!!」
「ギャガギャ!?」
一閃。棍棒ごと真っ二つに。
これで正面ゴブリンは終わり。
武器をストレージに入れ、二人の方へ走る。
飛ぶという選択肢もあるが、場所が悪い。木をスルスルと抜けながら飛べるほど慣れていない。
二人のもとに着くと、微笑ましい光景が映っていた。
「~~♪~~~~♪~~~~~~~♪」
名前は知らないが、最近流行の歌だ。
サイレンさんが歌っていて、ゴブリン2匹と、マナさんまでもが聞き入っている。
確かに普段とは別人のように上手で美しい歌声だけど、マナさんまで呆然としてたらいかんでしょうに。
「【パワースラッシュ】!」
横並びになっている2匹をまとめて斬り裂く。
「~~♪ あ、お疲れ」
「そちらもお疲れ様です」
「凄かったっす!」
マナさんの拍手に合わせて私も拍手する。
「歌で足止めってできるんですね」
「失敗することもあるけど、スキルがあればできるんだ」
誰でも出来る訳では無いのか。そりゃそうか。
「では、解体と回収しましょうか」
「だね」
「分かったっす」
来る前に買った解体用ナイフを各々手にし、ゴブリンの死体のもとへ行く。
「私はあっちのをやってきます」
さっきの3匹の方へ向かう。
ゴブリンは素材として使えないので、両耳を切って提出するそうだ。他の部位は火葬するとのこと。
「はあ」
今更になって罪悪感が湧いてきた。
魔物とはいえ、人型の生物を殺したことへの嫌悪感も。
こればかりは数をこなすしか解決策は無さそうだ。
「何か疲れました」
[天麩羅::お疲れ様]
[芋けんぴ::大丈夫?]
[カレン::大丈夫だよ。私たちもついてる]
[壁::休んでもええんやで]
[蜂蜜穏健派下っ端::休んでもろて]
[セナ::アーカイブたんまりあるし、休んでも大丈夫だよ]
[唐揚げ::人型は、ねぇ……]
私の心とは対称的に、コメントは温かく、天気も快晴だ。
「そうですね。明日は丸々休養します」
ゲームで休養しなきゃいけないのは本末転倒な気もするが、それだけリアルということだ。
それにこういうのは、続ける内に慣れて何も感じなくなるだろう。今だけの感情かもしれないし、大事にしたい。
「6っと」
ゴブリンの耳を切り、ストレージに収納。
残った死体も収納。ゴブリンはこないだの熊と違って、そのまま収納できるみたいだ。
「お待たせー」
「終わったみたいっすね」
二人が追いついてきた。
「平原で焼きましょうか?」
「だね」
「いいっすね」
三人でのんびり平原に足を運ぶ。
マナさんが落ちてる木の枝を拾って指揮棒に見立て、音楽隊とかの行進みたいなことを始める。
私とサイレンさんは顔を見合わせ、微笑みながら、その遊びに付き合う。
マナさんがしている鼻歌は、現実の曲だ。
私の親の世代だから、サイレンさんは気づいていないようだが……。
[ゴリッラ::懐かし]
[あ::教えたん?]
[紅の園::これすき]
[テキーラうまうま::懐メロやん]
[セナ::有名な曲?]
[壁::懐っ!]
[蜂蜜穏健派下っ端::リアルの歌なん?]
[芋けんぴ::ジェネギャで死ぬて]
[天変地異::うわ、懐かしい]
[病み病み病み病み::昔の曲?]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::今の若者はこれ知らんのか…………]
案の定、ジェネレーションギャップで死亡してる人が。私は親におすすめを聞いたりしてるから、知ってるけど、同年代の子とかほぼ知らないだろうな。
マナさんに配信のこととかを教えたのは、私みたいな場合を除いて、20~40歳の人だろう。
「燃やしますよ〜」
「おー」
「やってることとノリが合ってないんよ」
いいではないか〜。
平原でゴブリンの死体をまとめて燃やしている。
……焼け焦げた臭いも出ていて、不快になってきた。
「そういえば、どうして耳だけで討伐の証になるんでしょう?」
「たしかに、耳だけ狙えば簡単になるっすよねー」
「実戦で耳だけ狙うのは難しいそうだし、それなら普通に倒した方が簡単なんじゃない?」
「なるほど」
「ほえ〜」
それもそうか。
強い魔物だと現物がいるとかになるのかな。
……噛みちぎり狼もその部類だった。忘れてた。
なら、素材として使えないのも大きいのかもしれない。
「さあ、ピクニックということで、食べましょうか」
「そうっすね!」
「だね」
ストレージから買った食べ物を取り出して、並べる。
「いただきます」
「いただくっす」
私達が挨拶したのが意外か、驚いた様子のサイレンさん。そして、緩やかな空気に当てられたのか、
「いただきます」
郷に入れば郷に従えという言葉の、良い意味で体現した図となった。
これが美味しい、これ辛すぎる、色々な物を口にして感想を言い合って、楽しく過ごす。
「とりあえずこの辺で配信は終わりますね。次は明後日です。お疲れ様でした」
[枝豆::おつかれ〜]
[あ::乙]
[カレン::わちゃわちゃ楽しかった!]
[階段::ゆっくり休んでね]
[紅の園::おつかれ〜]
ヌルッと配信を終了し、私とサイレンさんはログアウトして現実での食事を挟む。
配信後も、遊ぶ。
「大富豪で遊びましょう!」
「負けないっすよ!」
「言っとくけど、手加減しないから」
買ったプレイヤーメイドのトランプを芝生に置いて並べる。
楽しい時間はあっという間。
空が夕焼け色に染まってきた頃、片付けを始める。
「どうです? サイレンさんがよければ、固定パーティー組みませんか?」
「あー、ぼくは…………やめとくよ」
「そうですか……」
残念。結構仲も深まったと思っていたのに。
「マナはミドリさんと行くっす」
「いいんですか? ブランさんとか」
「昨日話し合ったっすから」
「そうですか」
それならいい、のかな。
ひとまずマナさんと行動を共にする方針に決定か。
片付けが終わり、揃って王都に向かう。
爆発音。
視認できるほど近づいた王都に、赤い紅い炎が
「なっ!?」
「何が起きたっすか!?」
「はぁ!?」
獣の呻き声、誰かの高笑い、群衆の悲鳴、様々な音が、ここまで空気を伝って響く。
「皆!」
孤児院の子供たちやブランさんが頭に
「待ってください!」
「ちょっ……」
その後ろを、私、サイレンさんの順で追いかける。
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