###10 女神と天使と聖水兵器

 


「私、スキルを一度だけ進化させるスキルを持ってるの。今が使い時でしょ?」



 フェアさんいわく、元々【次元斬】は初代剣聖が保有していたユニークスキルらしい。私が言った“黎明”はおそらくそれをコピーしたものであり、マネのマネをジェニーさんがしたのではないかと結論づけた。


 要するに、そっちはユニークスキルなので私の【間斬りの太刀】がまったく同じスキルにはならないらしい。性質的に問題は無いはずだが賭けになるとのこと。



「任せてください。私、結構運が良いんですよ。ついでにこれも使っときましょう【天運】」


「よし、いくよー! 『技神の友、フェアイニグがここに神言を下す。普遍の技能を今、昇華させん』【盟約収束】――【昇技グレードアップ】」



『盟約の収束を確認』

『権限が認められました』

『個体名:フェアイニグから【間斬りの太刀】の昇華が申請されました』

『受け入れますか?』


「えっと、イェスで」


『受理者の承認を確認』

『【間斬りの太刀】が昇華中……』


『――昇華が完了しました』

『レアスキル:【間斬りの太刀】はユニークスキル:【理想を描く剣イデアヴルツァ】に昇華しました』



 何だかオサレなスキル名になって。

 どれどれ、ステータスから確認をば。



 ########


 スキル

理想を描く剣イデアヴルツァ】ランク:ユニーク

 純粋な理性的思考によって、時空を超越した全てを対象に望んだものを斬ることができる。

 ――さらば、絶望。

 CTクールタイム:1日


 ########



「なんか【次元斬】とかより破格そうなスキルが手に入りましたよ。これなら冥界までの裂け目くらい余裕で作れそうです」


「やった! じゃあ善は急げって言うし、もうさっさと乗り込んで世界を救うよー!」


「私は少し作り溜めておいた兵器をかき集めてくる。君たちは飛べたよね? 先に向かってくれ。このGPSを持って行ってくれれば合流できる」



「了解です。ではフェアさん、行きましょうか」

「よーし、終末兵器、行っきまーす!」



 私は虹で、フェアさんは【神速飛翔】で目当ての場所まで滑空した。

 終末兵器に二柱と痒いところに手が届くパナセアさん相手に、冥界の戦力はどれだけもつか。字面だけならこっちがボスみたいだ。

 私は久しぶりに暴れられると少しだけ心を躍らせていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇



「カチコミだー! 【理想を描く剣イデアヴルツァ】!」

「ヒャッハー!」



「これが女神と天使と言うのだから世も末だな。まあ実際に末な世だが」



 地味に反応に困るパナセアさんの呟きを無視して、私はしっかり次元に刃を入れた。

 ――裂け目が開き、私たちは地下の世界に乗り込んだ。




「うわ、死者がゴミのようですね」

「だいたい15万くらいかしら?」

「ああ、半分はこちらにいるようだな」


 あれ? 聞いていた話と違うぞ?

 パナセアさんだいたい10万くらいって言ってなかった?

 その旨を尋ねると、彼女は忘れていたと補足してくれた。


「私の兵器で倒せる数を除いての数だ。数に含めなくていいかと思っていてね」



「つまり総数自体は……」


「地上のを含めて25万くらいだ」



 なるほどね。つまり彼女の兵器で10万は削れると。一体何を用意したのだろうか?



「気になるようだね。といっても冥界の兵士にも通じるように改良した兵器だよ」


「私たちまで巻き込まれません?」



「大丈夫。生者にまで被害が出ないようにアンデッドへの攻撃手段しか搭載していないとも。まあ見ていたまえ」

「そうそう。私も作るのに協力して大変だったんだから。はぁ……ほんともうあの地獄の詰め込み作業はヤダ……サービス残業……仕事……うっ、頭が」



「ニート女神は放っておいて、早速ぶっぱなしちゃってください!」

「ああ、向こうも気付いたようだしね。お披露目だ! 【爆撃】!」



 パナセアさんはストレージから大きな樽の入った大砲を取り出して方に乗せ、待機していた兵士達の頭上に打ち上げた。


「【狙撃】さあ、降り荒れろ聖水の雨よ!」

「うわ、それは天才じゃないですか」



 樽の蓋を見事に撃ち抜き、開放されたのは聖水が入っているらしい水風船。そして衝撃に反応するようになっているのか、紛れ込んだ小さな爆弾が連鎖反応を起こし、最大限拡散するように聖水の雨が降った。

 聖水が触れた冥界の兵士達は続々と消えていく。

 罪が洗われ、輪廻に戻っていくのだろう。ナムナム。



「よーし、私も暴れますよ! 『ひらけ、遙か天の先へ至るために』【神器解放:順応神臓剣フェアイニグン・キャス】!」


「はあ、私の努力の結晶ぅ……憂さ晴らしさせてもらうからね! そい、聖炎の嵐でも食らってなさいな!」


 私はいつも通り2本の剣を携えて特攻、フェアさんは白い炎を嵐のように巻き起こして殲滅している。あの神、職業神じゃなかったのだろうか?

 まぁ、私のステータスにも“職業神(?)”ってあるし、終末兵器の一角なら戦えてもおかしくないか。じゃなかったら今この場に来ていないだろうし。


 ちなみに私が剣を使う理由はストレス発散だ。

【神聖魔術】に〖ゴッデスティアーズ〗とかいう冥界の人達に効き目の良い魔術があるけど、聖水ネタはパナセアさんがやったからね。

 ……別に爽快感を楽しもうなんてマツさん戦闘狂みたいなことは考えていないとも。



「さぁさぁさぁさぁ! 死にたい人からかかって来なさい! あ、もう死んでましたね。というか私から行くからお気になさらず!!」



「味方が悪役ムーブすぎる件」

「あれが別世界線のミドリくんか……なんて美しくてかっこいいんだ……」


「え? 眼鏡度あってる? 耳栓とかつけたままじゃない?」



 後ろで主にフェアさんがごちゃごちゃ言ってるけど、楽しくてそれどころではない。冥界の兵士さんは肉の切りごたえしないから最初はどうかと思ったが、まるで岩をサクサク斬って回っている感じがして気持ちいい。

 ここまで一方的に自分の力を振るえる機会は滅多に無かったから尚更病みつきになりそうだ。

 え? こないだの災獣? あんなのは弱すぎてノーカンに決まってるでしょ。



 ――今私、最高の気分だ!






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