###穿神と創神###

 


 ミドリたちが行動し始めた作戦開始の9時。

 第二作戦地点である天空の虚像と呼ばれる“誰か”の像に押し入ろうとする4人組が居た。


 クーシルで有名人になっているので身バレ防止の帽子とサングラス、マスクをした不審者であるサイレン。

 自作の戦闘用パワードスーツを身に纏っているのに眼鏡はそのままなパナセア。

 服なんてなんでもいいと学校の制服を着ているウイスタリア。

 そしていつものメイド服を着たマツ。



 以上、コスプレオフ会集団……ではなく天空の虚像攻略パーティーである。



「なんか警備厳重じゃない? やっぱりバレてるのかな」

「あるいは、それだけ賢者の塔には入らせたくないかだろうね」



 文句を垂れるサイレンとそれに応じるパナセア。

 しかし、そんな真面目な二人を他所にウイスタリアとマツは腕を回したり屈伸したりと思い思いの準備運動をしていた。



「よし、全員ぶっ飛ばせばいいのだ! 行くのだぞ!」

「多少は歯ごたえのあるやつが居れば良いんですがね……」



「……正面から行く気満々だね」

「まあそれでモチベーションが上がるならそれでいこうか」



 渋々といった形でサイレンが虚像の方を向いた時には、警護の兵が吹き飛ぶ姿が映った。

 どちらともなく「ヒャッハー」とはしゃぐ声がするが、突撃した彼女らのどちらが発生源かはもはや分からない。



 素手で殴り込みに行った脳筋に続いて中に侵入しようとしたが、パナセアは足を止めた。

 おもむろに指を銃の形にして、そこから高火力の弾丸を放った。


 この地をまとめて焼き払おうとしていたレーザーのを撃ち抜いた。


「サイレンくん、ここは私がおさえる」

「でも――」


「あの二人のボケをさばけるのはツッコミ担当の君だけだからね」

「いやもうツッコミも半ば諦めかけてるからね? ……ってそうじゃない!」


「冗談はともかく、相性的に適任なのは私だ。それに、兵器対面で私に負けるとでも?」

「はぁ、分かった。じゃあ先に行くよ」




 先に行こうとするサイレンに、パナセアは軽く耳打ちしてから武装を展開した。

 耳打ちの内容は大したことない。“水流で虚像内を埋めつくして攻略する”ように言っただけである。



「さて、ここからはギャグもコメディも存在しない血なまぐさいシリアスといったところか。いかにも冗談が通じなさそうだしね」



「――下らない問答は無用だ。我らが至高の主に楯突く者には死をくれてやるのみ【超次元軌道】【魔弾】」



「【形態変化】、大天使ミドリくんモード! 【ハイブースト】【飛翔】【乱射】」



 〘ツィファー〙の第二席ツヴァイとパナセアは空中を滑るように駆け、互いの獲物を放ち合う。

 銃弾はどちらにも当たらないが、遂に体術の練度の差でツヴァイの蹴りが天使のような姿のパナセアに突き刺さる。

 そのままの勢いで民家に突っ込んでいき――


「【形態変化】、球体モード!」

「426、【爆発】」


 その中で盛大な花火が。

 ツヴァイは用意周到なタイプで、避難誘導させている間に民家に500個の爆弾を仕掛けそれぞれに番号を振っていつでも起爆できるようにしたのだ。



「【収束】、全て【爆発】【魔弾の雨】」


 畳み掛けるように一帯の民家から爆弾を引き寄せて起爆、その上から魔弾の雨を降らせる。

 ツヴァイは確実な手応えを感じた。天空の虚像へ向かおうとそちらに向き直る。


 いかな高レベルの人でも耐えることはできない、直撃した以上無事ではないだろう――そんな相手が人であるという前提の思考をしていたからだ。



「【狙撃】」


 ツヴァイの脇腹を、魔弾のような見た目の狙撃が貫いた。

 無機物を使う人として、無機物の頑丈さを見誤った、それだけのミスが致命的な隙を生んだのである。



「【形態変化】、人型モードっと。ふう、危なかったよ。今の総攻撃はそう見れるものじゃない。魔力と神力の両方を内側から破裂し硬質な外装の物理攻撃も含めどんな性質の相手にも対応出来る爆弾――よかったよ。サイレンくんに指示をしておいて」

「何?」



「あの程度の複数層構造なら私の師匠ネルバ教授からいくらでも見せてもらったから私自身が対応できるのは当然だが虚像に入った3人には少し難しいだろう。なぁ、虚像内部にも仕込んでいるのだろう?」

「501から700、【爆発】」



 キーワードを発したツヴァイだが、爆発音どころかなにも起きない。



「私はロマンが大好きではあるが脳筋タイプではない。頭脳派だからね。普通の罠はあのフィジカルエリート二人なら問題はないだろうが絡め手は苦手だ。そして金属の気配が民家からしたから確認したらこれだ」


 パナセアの懐から、分解された爆弾と思しきものが出てきた。



「ざっと見たところ、これは――大量のに弱いだろう?」




 天空の虚像の入口や窓、隙間という隙間から海水が勢いよく溢れ出した。

 水の中には内装や照明、そしてパナセアが持っている爆弾があった。



「なるほど、完全に読まれたわけか」

「悪いがうちのリーダーが愛する人と再会できるチャンスなんだ。その仲間が敗北なんて情けない結果を持ち帰るわけにはいかないからね」



「だが、あそこには彼女が居る。防衛なら誰よりも優秀なドライ第三席がな」

「それはこちらからも言えるさ。どんな相手だろうと水のように柔軟に戦える彼がね」


 その言葉の後、美麗な歌声が響き渡る。それに続いてアイドルソングも一帯に広がる。

 次第に虚像の外壁がステージのようなものになっていくが、この場にいる最前列の二人パナセアとツヴァイは確実に倒すため、神に至った。


「「【神格化】」」



 創神となったパナセアと、穿神せんしんとなったツヴァイ。


 お互いにこれで決着をつける気だ。




「【魔弾世界】」


 一発一発が世界を穿つ魔弾を内包した世界がパナセアを招き入れた。

 創神になったとはいえ世界スキルを使えない彼女は一瞬で蜂の巣になった。



「――地上の、更に下の世界があった。あの地で起きた悲劇はきっと私がきっと償うべきだなんだ。量産品の聖剣にされた子供達を元に戻す……その願いが叶うまで、私の支えミドリくんの顔に泥を塗るわけにはいかないんだよ。それはきっと私の歩みを止める事に繋がるから」




 ボロボロの体。

 死にかけの見た目に反し、瞳だけは生き生きとしていた。



「『蒼き万物の胎動、其は蓋世の導きを与え、終焉にこそ創造の営為をもたらす』【神器解放:玲瓏拓発条デミウルギア・スプリング】」



 パナセアのコアが蒼く輝く。

 創神の神能が万全に発揮できるようになった。

 魔弾による破壊と創神の神能による再生が休む暇なく繰り返される中、パナセアは手をかざした。



「これが私の……面白い。【塵芥じんかい世界】」



【魔弾世界】の内部にガラクタが創られて浮かぶ。現れると同時に魔弾によって粉々になっていくが、それらはもとより価値の無い物。

 形が何であれ、それらはもとよりただの材料に過ぎないのだ。

 他の世界に共存できる特殊な世界スキルを前に、ツヴァイは冷静にパナセア本体を狙い撃った。

 しかしすぐに別の場所からするので効果は無い。あるとしたらパナセアの減らず口を封じる程度だろう。



「塵も残さす消すまで――!」

「残念ながら君のそれ魔弾はそういう性質のものではないだろう。見かけ上は消せたと思える火力でも、その実僅かな僅かな塵は残る。それだけあれば十分だ」


 その言葉の後、パナセアは魔弾で蜂の巣になった。再度復活――するのではなく、姿形を変えた。


「私が大砲だ」



 ツヴァイを囲うように大砲が出現し、一斉砲火した。

 全てを穿つ魔弾によって大砲の弾は砕かれた。しかしその粉末が弾丸となってツヴァイを吹き飛ばした。

 空中で体を回転させて受け身をとったツヴァイは世界スキルを押し広げて銃を構えた。

 それに気付いてパナセアも銃を創って銃口を向けた。



「【打ち止め】【最後の魔弾ファイナルバレット】」

「反応速度を上げるように調整してよかった。これで終わりだね【射撃】」



 すべてをこめた魔弾と、カミオロシに神力を混ぜた弾丸が激突した。

 周囲一帯を吹き飛ばし拮抗したまま競り合う。



「ソフィ様のために――!」


「っ……まだ火力が跳ね上がるか。だが、私にも負けられない理由がある!」



 弾丸を更に勢いづけるため推進力重視のレーザー銃を創って撃つ。



「たとえ世界が終わろうと、私はきっと彼女ミドリくんの影を追うだろう。彼女の冒険を見届けるまで勝って繋ぐのが私の役目であり――ある種私の推し活だ!」



 見た目はともかくリソース的に厳しいパナセアは表に出していなかった本音想いを、力を込めるのと一緒に吐き出した。


 拮抗の天秤は傾き、弾丸が魔弾を撃ち抜きツヴァイの胸を貫いた。

 直後、ツヴァイの体は光り出して卵となる。

 そこに元の姿に戻ったパナセアが墜落した。ポロッと腕や細かいパーツがとれて転がる。



「なるほど人間ではなかったか。だがその先程の傷だと数日は復活までかかりそうだ。良かった、私も限界だからね」


 卵にもたれかかって数少ないパーツで自分を修復していく。



「はあ……それにしてもあの世界スキル、私のストレージから素材を持っていくとは。おかげで私もしばらく戦力になれそうにない」



 とどめを刺す余力も気力も失ったパナセアは、修復した後這いつくばりながら周囲の瓦礫を回収して素材にリサイクルしていたのだった――

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