#48 面白い提案をされました
何とか人混みをかき分けて、ソティルという店の横に到着した。
「うん? ごめん、コールが掛かってきた。もしもし、うん――――」
同時にサイレンさんが路地裏地
マナさんと邪魔にならないように道の端でパナセアさんとサイレンさんを待つ。
「決勝進出おめでとうっす」
「ありがとうございます」
サイレンさんが居たから気をつかってたんだ。配慮もできる良い子。
「決勝の相手、どのような感じでした?」
「う〜ん……一発で勝ったから分からないっす」
〈どらごん〉
「どらごんが、どらごんと同じくらい強そう、って言ってるっす」
「なるほど」
配信中だから、どらごんが強いとバレるのはあまり宜しくないので適当な返答をする。でも、どらごんくらい強いとなると、かなりしんどいなー。
[ゴリッラ::一瞬やったな]
[カレン::どらごんってあんなに強いの?]
[芋けんぴ::どらごんも見栄を張りたいお年頃か]
[死体蹴りされたい::目で追えなかった]
[壁::ぶっちゃけ勝ち目は薄そうやで]
「そんなにですか……」
情報が無いから対策もできない。また【天眼】頼りになりそうだ。
「まあ負けるつもりはサラサラないですけどね」
「頑張ってっす」
〈どらごん〉
「どらごんは何と?」
「精々励めよ、下っ端、だそうっす」
毎回思うけど、本当にこの植物は何目線なんだろう? 一回くらい痛い目見てもいいと思う。
「少し貸してくれませんか? 握りつぶしてやります」
「ダメっすよ!」
〈どらごん!〉
どこか勝ち誇ったような顔をしている。ムカつく。
――ガヤガヤ
急に周囲がざわめき始めた。
何があったのか辺りを見渡してみると、揃いも揃って上を見上げていた。
「え」
「あ、パナセアさんっすね」
帝都の空に、パナセアさんが浮いていた。
キョロキョロしているのは、私たちを探しているのだろうか。
「こっちに来ましたね」
「っすねー」
目立つ登場はご遠慮願いたい気持ちを知ってか知らずか、私たちの前にゆっくり降り立つ。
「いやー、すまないすまない。店の場所を聞いていなかったから目立ってしまったよ」
「よく見つけれましたね」
「マナも飛んでみたい……」
「二人とも髪色が独特だからね」
「なるほど」
マナさんの願望は覚えておいて、どこかで一緒に飛んでみたい、と思考が分裂しかけるが戻す。
確かに緑や白っぽい色の髪色の人はあまり見かけない。灰色とかならそこそこ居るけど。あ、白色はネアさんが居た。まああの人は二人とも知らないし、言わなくていいや。
「確かに、マナとかミドリさんの髪と同じ人って見ないっすね?」
「何なんでしょうね」
「何か法則があるのかもしれない」
コメントの人達は知ってるかもしれない。
[死体蹴りされたい::茶髪多めよな]
[太郎::なんでなんやろな]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::謎やな]
[カレン::不思議だあ……]
[ベルルル::白髪で人間にしたけど実際は灰色になった。ちなみに緑色の髪はエルフがいる]
私みたく種族によって変わるようだ。何か法則性でもあるのだろうか?
「お待たせー、お、着いたんだ」
サイレンさんが通話から戻ってきた。パナセアさんの悪目立ちを知らずに。
「あー、ちょっと話し合いたいことがあるんだけど……」
サイレンさんは続けておずおずと言葉を
「配信、切って欲しいなーって……」
ふーん、
「分かりました。というわけで、また決勝の始まる頃から再開しますので、一旦解散です。お疲れ様です」
[あ::おつデッセイ〜]
[ホッキョクグマ::即決で草]
[紅の園::はーい、おつデッセイ〜]
[壁::おつ〜]
[枝豆::躊躇しないんかい]
[天変地異::素晴らしい判断速度]
[階段::おつデッセイ]
[カレン::おつデッセイ〜]
配信終了、っと。
そうして改めてサイレンさんの方に体を向ける。
「切りましたよ」
「ありがとう、今からぼくの叔母が来るみたいで――」
「どうもー!」
サイレンさんを遮って聞き覚えのある声が入ってきた。誰かと思って見てみると、黒髪のベリショが目に入った。
「サイレンの親族のキンモクですー、よろしくお願いします」
私に服をくれた、王都の服屋の店長さんだ。
サイレンさん繋がりがあるなんて驚いた。確かにセーラー服を作れる人なんてそうそう居ないし、納得だ。
「まだ何も説明してないから、任せる」
「あら、早かったのね。配信は見てたからそこの店で話しましょうか」
マナー云々は大丈夫なんだろうか……ま、その時はその時かな。
「そうですね、行きましょう」
「お肉っす〜♪」
揃って入店する。
店の中は落ち着いた雰囲気のマンガとかでよく見るバーみたいだ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
店員さんの言葉を聞いてキンモクさんが歩いていく。迷いなき足運びはここに来たことがあるのを思わせる。
そのまま個室席へ入っていく。
店内の穏やかな空気に当てられ、私達も静かに座っていく。
奥側にキンモクさんとパナセアさん、キンモクさんの隣にサイレンさん、パナセアさんの隣に私といった並びで座っていく。最後にマナさんが嬉々として誕生日席に座る。
「先に注文しましょ」
「そうですね」
「……結構高いなぁ」
「なかなかバリエーション豊富な店だな」
「お肉っす……」
コソコソと相談して各々メニューに目を通す。
パナセアさんの言う通り、今までゲーム内で見てきた食事とは違って様々な品揃えがあるようだ。
ハンバーグ、ステーキ、カルボナーラ、マルゲリータ…………よりどりみどり。
メニューを見て思ったんだけど、完全に高級レストランとかではなく、ならず者が追い出される店って感じなのかもしれない。
私は安定のカルボにしようかな。カルボで店の格が決まると言っても過言じゃないとか過言とかお偉いさんも言ってたし、知らないけど。
「決まりました」
「マナもっす」
「私もだよ」
「あとはあんただけだよ」
「ちょ、ちょい待ち……え〜っと…………」
サイレンさんが迷っている。何故かサイレンさんらしいと思うのは失礼だろうか。
「……よし、決まった」
「ご注文はお決まりでしょうか」
一体どうやって察したのか、ヌルッと店員さんが注文を取りに来た。
「ミュセフシナをグラスで、フレキム葉コースも」
ミュセ???
グラスってことは飲み物かな?
何も分からないけど、かっこいい。
「かしこまりました」
「私はこのパンシアというのをグラスで、それとミラルコースを」
「かしこまりました」
パナセアさんまで何かオシャレなやつだ。
これ、私だけカルボナーラとか言ったら変な目で見られない? 何か、何か……あ、このワインリストとかいうのがオシャレなやつか。
でも私18歳だから飲めないんだよなー。どうしよう……。
「ぼくはハンバーグ定食とぶどうジュースで」
「マナはミノのステーキを三つでお願いするっす。柑橘ジュースもお願いするっす」
……これだ!
ワインリストに丁度良いのがあった。決定!
「シュヴァルツェ・カッツ・モクテルをグラスで、あとカルボナーラもお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
立ち去る店員さんを見送り、居なくなったのを確認してから一息つく。シュヴァルツェ・カッツ・モクテルは、完全なノンアルコールで、色々なのを混ぜてワインに似せたものらしい。とりあえずカッコはついたし、よし。
「本題に入ろうよ」
「そうですね。何かあったんですか?」
サイレンさんに続いて質問する。
「あなた達に、衣装を作ってきました」
私はもう十分だけど、非常に有難い。
「でもタダであげるのもなんだし、提案がありまして――」
私には実質タダでくれたのは夢だったのかな?
次の言葉を待って、誰かが喉を鳴らす。
「お待たせしました。先に飲み物、お持ちしました」
緊張が走った瞬間に店員さんが入ってきた。
うぐぐ……焦らしてくるなー。
「こちらミュセフシナです」
「んー、この匂いがいいのよね」
それほど強くはないのに、芯を持った香ばしさのあるワインがキンモクさんのグラスに注がれる。
「こちらは――――
◇ ◇ ◇ ◇
全員に飲み物が注がれ、軽く乾杯をして話の続きを始める。
「ライブをして欲しいんです」
ライブ? LIVE? らいぶ?
「配信はしてますよ?」
「そっちではなく、アイドル的な方の歌って踊るライブです。どうでしょう?」
アイドルという単語にビクついている辺り、サイレンさんが自分の職業を明かした訳ではなさそう。偶然って怖いなー。
アイドルかー、私はあんまりやりたくないかな。
キャピキャピしてるのは恥ずかしいし。
「歌って踊りたいっす」
「でしたら私も」
マナさんがやるなら話は別。羞恥心なんてドブに捨てて踊り明かしてみせよう。
「私はやらないよ。そういうのはちょっと……」
パナセアさん、まだ若いと思うんだけどなー。かっこ可愛いし。
「研究者と聞いて、面白い服を作ってきたんですけ――」
「どんな機能なのかな?」
食い気味だ。横を見てみると、目を輝かせ童心に返ったような表情をしていた。
「一瞬で収縮する素材を使って、たとえ消し飛ばされても安心な設計――」
「アイドルになりたいと思っていたところなんだった。忘れていたよ」
滅茶苦茶な嘘つくじゃん。
流石に無理があると思う。
「よかったー、で、皆やるそうよ?」
「うぐっ……でもぼくは男だし……」
サイレンさんは、追い詰められたネズミのようにタジタジになっている。
折角だし皆でやりたい。というか本職をおいて素人だけでやるのはダメでしょ。援護援護〜。
「男性アイドルとかいますよ」
「そうだけど、今回は絶対かっこいい路線じゃないからな……」
「そうなんですか?」
「この人が男性向けの服を作ったの見たことないよ」
キンモクさんの方を見てみると、どこか自慢げに頷いていた。
「というか、女装好きなんだし平気でしょう?」
「ち、ち、違う! 女装はぼくじゃなくて叔母さんが――」
「勧めたのはあの一回だけじゃない」
「ぐごっ……」
図星を突かれて言葉が出なくなっている。
なるほど。サイレンさんに女装を勧めたのはキンモクさん、それでも自分から女装するようになったと。へー。
「まあ何にせよ、楽しいイベントはやるに限りますよ」
「そうだけどさぁ……」
「サイレンさんはやりたくないんすか……?」
「え゛」
マナさんがつぶらな瞳で首を傾げて問いかける。
その姿はまさに重要文化財に指定されるレベルのやつだ。なんなら世界遺産でも良い。
「皆でやらないならマナもやらないっす……」
「…………」
「ヒッ……!?」
マナさんのアイドルデビューを妨げる障害は排除すべきだと思うんだよねー。
「やりたい。ぼく、アイドルになりたいなー!」
「一緒に頑張るっすよ!」
「う、うん!」
よかったよかった。若干棒読みな気がしないでもないが、本職だし本心ではアイドルになりたかったはず。きっとおそらく。
「練習もしましょうね」
「楽しみっす!」
「年甲斐もなくやる気が湧いてきたよ」
「……おー」
「じゃあそれまでにこっちでも準備しておくから、よろしくお願いしますー」
キンモクさんが既に満面の笑みで、今にも踊り出しそうな機嫌だ。
アイドル云々の前に、私は決勝があるからあまり浮かれすぎないように、運ばれてくるカルボナーラに心を躍らせる。
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