###21 終結して

 

 私とコガネさんが港町ケネルでリスポーンすると、プレイヤーの皆さんにたかられて胴上げされていた。


 祭りのノリというやつだろう。

 あっ、今どさくさに紛れておしり触った人は通報しておこうっと。


 その後合流した〘オデッセイ〙の皆にコガネさんがそれはもう綺麗な土下座をかましていたりしたが、私は苦笑しながらやらなければいけないことをしにお祭り騒ぎから離脱した。

 不公平さんもどうやら種族の長的な人から念話でのお呼び出しがあったようなので1度帰還するらしい。

 途中まで見送ってから別れた。

 またそのうち会えるでしょう。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 今回の騒動、その主犯格である邪神教側のプレイヤーがどういう集まりなのかはコガネさんから聞いた。



「コガネさんはしっかり責任を果たしたんです。私もわざとではないといえ、間接的に自分がまいた種は自分でなんとかしないとですからね」



[唐揚げ::えらい]

[あ::でも大人しく来るかね?]

[ベルルル::えらい]

[隠された靴下::えろい]

[コラコーラ::えらい]


 先程配信で邪神教のプレイヤーを呼び出したのだ。そのプレイヤー達はどうやら私のファンで、それが行き過ぎているらしい。



「……来ましたか」


 森の中、野次馬が来れないような魔物蔓延る奥地で魔物の死体を椅子代わりにして待っていると、足音が3人分聞こえた。



「は、はじめましゅて! 私、トンクって言います! ミドリ様の妹になりたいです!!」


 む?


「ちょっとトンク!? あ、私はトンクの姉のカレンです。できれば私も貴方のお姉ちゃんになれたら……」


 むむ?


「おーほほほ!! あたくしはエーデルですわぁ! ミドリお姉様、こんな姉妹なんて放ってあたくしとレベリングおデートしませんこと?」


 むむむ?



 ――制服を着た妹志望に、マトモそうでマトモじゃない姉志望、そして癖が強すぎるお嬢様。

 ダメだ。キャパオーバーなんで返品したいんですけど。



「えー……貴方達は邪神教の幹部で、私のファンなんですよね?」


「「「もちろん」」ですわ!」



「なぜ邪神教に入ってたんですか?」


「「強くなって姉妹になれるように?」」

「貴方様に相応しい美しさを手に入れるためですわ!」



 ……うん、分からん。

 何を言ってるのかも、思考回路そのものも。

 これが厄介ファンってやつなのか。とりあえずこのままだと今度は何をしでかすのか知れたもんじゃないから言い聞かせないと。



「…………では、この場にいる貴方達と、これを見てる視聴者の皆さんも含めて聞いてください。本来であれば最初に言っておくべきだったかもしれませんね」



 私はあまり乗り気ではないが、エスカレートする人が増える前にルールを決めて釘を刺すことにした。




「今からこの配信のルールを定めます。一つ目、興味本位、好奇心、好意、どのような類の感情であれ私とその関係者に意図的に関与するのを禁じます」


 これはたまたま会ったり、こちらから話しかけたりした場合は良いといったことも指して今後会うかもしれない人に火種が行かないようにするルールでもある。



「二つ目、私の関係者への誹謗中傷を禁じます。それがどのような意図のものであれ、当該関係者が傷ついたりでもしたらアウトです。あ、私へのはセーフですよ。コメント欄との殴り合いも楽しいので」



 これは無いと思うけど一応。

 ……なんかエーデルさんだっけ? お嬢様RPの人の目が泳いでるね。何か言ったのかな?

 今後はやめてもらおう。



「三つ目、私の家族は母と亡くなった父だけです。意味のわからない関係性を押し付けたり期待しないでください。あ、嫁はマナさんなのでその枠も無いですよ」


 そう言うと妹志望のトンクさんと姉志望のカレンさんが項垂れた。まあ表に出したりしなければ見逃すから。勝手にやってもらって。



「今の所はこれでいいですかねー? 以上三つを誰か一人でも破ったら――私、もう配信やめますから」


 これが視聴者的には一番効くだろう。

 アンチがやめさせるためにこれらをしてきても目を見ればファンかどうかなんてすぐに分かる。

 我ながら即興のルールにしてはいい出来ではないだろうか。



「さて」


「「「はい!!」」」



 私が配信者をやめたら他のファンに滅多刺しにされるだろうからね。かなりおっかなびっくりしながら返事をしてくれた。




「貴方達は私の友人になってもらいます」


「「!!?」」

「……さすがミドリお姉様。お優しい温情、感謝致しますわ」



 私の意図を汲み取った様子のエーデルさんは、恭しく跪いた。意図は分かってるようだけど、それはたぶん友人との距離感ではないと思う。



 まあ、名目上でもいいのだからいちいちツッコミはしない。彼女らをこちら側にすることで先程挙げたルールで守られる。ファンは彼女らを袋叩きしたいけどそうすると私がやめかねない、なんというジレンマか。



 そういう旨をコソッと姉妹に教えてから、3人へ罰を与えることにした。



「貴方達には奉仕活動をしてもらいます。内容はさっき本人に確認したので決定事項なので異論は認めません。具体的には、住民のお手伝いをよく受けるリンさんの補助です。期間はリンさんがもう十分助かったよ〜って言うまでです」


 自分で満足するまでとかでもよかったが、そうすると私に嫌われないようにと永遠に働いていそうなのでリンさんに丸投げすることにした。




 よし、こんなもんでいいかな。あとは直接被害を与えてしまったプレイヤーに謝らせるように言って、「じゃあ今日はここまで」と言って配信を終えた。





 ◇ ◇ ◇ ◇



 邪神教との全面戦争から数日して。



「「できた!!」」



 造船に熱を注いでいたパナセアさんと船大工のレンツさんの興奮した声が造船所で響く。

 私たちの目の前にはそれはもうご大層な、歴史の教科書にのってそうな軍艦が。



「ちなみにこの船の名前はもう決めてたりします?」


「海の魔物絶対殺す号だね!」

「ロドニーだ!」


 そして始まった名付け戦争。私を含む面々としては是非ともレンツが勝ってほしいものだ。パナセアさんはおそらく徹夜テンションでネーミングセンスがぶっ壊れてしまったようなので。



 まあ、何はともあれこれで南の孤島への移動手段は確保出来た。あとはそこへ行って天空へのエレベーターに乗るだけ。着々とマナさんの解放までの道ができあがってきた。

 邪神なんて大した相手でもない。ソフィ・アンシルとの接触までそう遠くはないだろう。


「その前にイベントが先ですけどね」



 取っ組み合いにまで発展した子供のような大人2人を取り押さえる親方とサイレンさんを横目に、私はそう呟いた。







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