###56 【AWO】肝心な時に徘徊中!【オデッセイ+α】

 

 奇跡的にクーシルに転移できた、ビルの屋上。



「はいどうも、人外進化したミドリです。今日も今日とて迷子ということで、大事な決戦の最中ですが皆さんには道案内をしてもらいます!」


[脚フェチ::おひさー]

[芋けんぴ::急になんや]

[階段::大事な決戦? クーシルではそんなことが起きてるんか……]

[枝豆::迷子定期]

[紅の園::この前迷子克服したってつぶやいてなかった?]

[あ::人外進化? 天使やし元から人外やろ]




 うんうん、久しぶりな気がするけど皆さん元気そうでなにより。「かくかくしかじか」で説明できれば楽なんだけどそんな漫画的省略法が使えるわけないので、とりあえず目的地だけ言って案内してもらおう。視聴者は頼られる利用されるほど喜ぶって偉い人が言ってたからね、知らないけど。




「とりあえず地図をスクショから配信画面に貼って……よいしょ、これで見えてます?」


 あらかじめネアさんから共有されたスクショをこちらからは見えないが配信画面には映るように設定して確認。



[唐揚げ::見える]

[壁::おけ]



「それで、〘オデッセイ〙の皆と合流して賢者の塔へ行きたいんです。皆の位置はこの天空の虚像と、この辺の商業地区ですね。近くに店名が“しいたけ”の釣り体験屋さんがあるみたいです。あ、ちなみに私の現在地は分かりませんよ」


[ミラー::有識者〜]

[あげぽ四世::目の前のビル群と店の並び的にもう少し東……左側に進むと釣り体験屋があるはず]

[さいしょはパー::誰か頼む]

[病み病み病み病み::天空の虚像ってやつなら飛べば見えてきそうじゃない?]



 ふむふむ。とりあえず左側へ行けばいいと。

 虹を出して空を滑っていく。

 お、“しいたけ”って看板が見えた。あの近くに――


「ミドリはん!」

「コガネさん! よかったぁぁ!! 一生誰にも会えないかと思いませんでしたよ」



「そ……ん? 思うてないやないか」

「まあ私には優秀な案内係が居ますからね」


「まあええわ。その様子やと行くんやろ?」

「ええ」



「てなわけでライラはんのことは白金はんに任せたでー」

「は、はい!」


 白金さん、鎧無いからめっちゃかわいい。



[ニキビキニ::流石有識者]

[ベルルル::地図読める人ってかっこいいよな]

[耳無::勝ったな風呂吐いてくる]



 さて、あとは皆天空の虚像にいるからコガネさんについていけば問題ないだろう。


「よし、用済……定時ですし配信終わりますか」

「お、配信中やったんや。やっへ〜」


[草::やっへ〜]

[芋けんぴ::やっほ〜]

[めめめ::やっひ〜]

[味噌煮込みうどん::今用済みって言った?]

[タイル::誤魔化すにしても意味不で草]

[供物::終わらないでくれ]

[バッハ::いや早すぎやろ]



「もうコガネさんが居るから案内係は不要なんですけどどうしましょ」

「どうせなら見届けてもらったらどや? マナはんを取り返すんやし」


 なるほど、一理ある。

 私とマナさんの再会をインターネットに永久に刻みつけるのも悪くない。


「そうですね。私とマナさんの愛を見せつけるためにも垂れ流しておきますか」

「せやなー。あ、天空の虚像はあっちやな。こっから見えるあれや」



「おーあれですか」


「――賊め! 覚悟、【スターライトブレイク】!」



 目標を教えてもらったタイミングで剣士が斬りかかってきた。スキルで何か光っているが大した脅威でもなさそうだったので翼を出してファサッと受け止めた。


「不意打ちするならせめて無言がマストでしょうに」


 そのまま敵を翼で吹き飛ばした。



[寿司子::かっこよ!]

[ソンソン::余波でビルが倒壊する攻撃をそんな簡単にあしらえるんか……]

[チーデュ::俺なら死んでた]



「……何か毛深くなっとらん?」

「毛深いって言い方嫌ですね。翼がアップグレードしたのは進化したからですよ」


 雑談モードだったので虹を出して天空の虚像へ滑りながら向かう。



「進化? 種族が変わったん?」

「天使から堕天使、そこから大天使になったのはご存知だと思いますが、今回は根っから変わってる気がするんですよね」


「熾天使とかちゃうん?」

「いえ、分類で言えば邪神なので」


「…………」

「ん! 今が“あれ? 私なにかやっちゃいました?”のチャンスだったりします?」


「言わんでええよ。ミドリはんのステータスに謎が多いんは元からや」

「そうでしょうか?」


 それに関してはコガネさんもだと思うけど。一体どれくらい幻術のバリエーションがあるのか分からないし。


「そのうちよぉ分からん世界スキル覚えそうやし」

「もう覚えてますよ。あ、使うの忘れてました」


 メリットだらけだし効果範囲・時間ともに優秀だから使い得だったのに、迷子の件で頭から抜け落ちていた。危ない危ない。



「【原点真世界】!」


 淡い透明な緑色の膜が一瞬で広がった。

 範囲はMAXだ。

 これで抹消ロスト属性とその他は通じなくなったはず。


「力が滾ってくるんやけど」

「そういう効果もあります」


「ほぇ〜……そういやうちも伝えるの忘れとったけど何か職業もらったで」



 そういえばコガネさんに渡すの忘れてたな。フェアさんがフォローしてくれているらしい。うちのメンバーで私が渡してないのはウイスタリアさん……いや、彼女は元からフェアさんの巫女だし持ってるか。

 しかし、なぜフェアさんは職業を渡してるのだろう。確かに多少は戦いやすくなったりするが、妙にひっかかる。悪意があるわけではなさそうだが、私に説明していないことがありそうだ。


「ちなみにコガネさんの職業は……」

「詐欺師や」


「ものすごく外面は悪いですけどやはり幻術系で?」

「せや。効きがよくてなったり、洗脳みたいなこともできるみたいやで。常識改変とか」


「そ、そうですか」


 それはもう詐欺師の領分じゃないでしょ。薄い本になっちゃうよ。



[ミントふりかけ::大会での前科的に持たせちゃまずいのでは?]

[寝床扇風機::色々アウト!]

[らびゅー::それは詐欺師じゃなくて催眠術師なんよ]

[天麩羅::捗る]




 ――とのんびり話している間に天空の虚像に近付いてきた。遠目ではあるが自身をいじっているパナセアさんとポーションを飲むサイレンさん、与えられた焼き鳥を貪っているウイスタリアさんが見えた。

 戦闘後なのは見てとれるものの、あちらも平常運転みたいだ。そういえば連絡してなかったけど今から戦いの場に復帰できるのだろうか――いや、そこは気合いでやってもらう。

 フェアさんニートが動くほどの危機なのだから意地でも手伝ってもらおう。



「へい大将、やってますー?」

「塩のもも2本や〜」


「ミドっさんたちが揃って来たってことは行くんだね? ……あと別に焼き鳥屋じゃないからね」

ふぉっはひふほはどっか行くのだ?」

「やはり直接賢者を?」



 寛いではいるがやる気は十分のようだ。ウイスタリアさんに関しては何言ってるか分からないのでノーカンとしてね。


「コホンッ! ――敵は不明! 少なくともソフィ・アンシルさんではないことは確実であります! 〘オデッセイ〙出撃!」


「お〜楽しそうやなぁ」

「戦いならやってやるのだ!」

「また面白いことになっているようだね。私は準備できているよ」

「いつにも増して滅茶苦茶だね……まあ、色々事情があるのは分かったし仲間だからね、どこまでも付き合うよ」



 全員を運ぶ虹の箱舟をつくり、虹の架け橋で空へ向かった。当然私が操縦すると賢者の塔が見ていようとあらぬ方向に行きそうだったのでハンドルを設けてパナセアさんに任せた。


「これぞまさに〘オデッセイ〙ってね! 出航ー!」

「しゅっこーなのだー!」


 虹の箱舟が勢いよく動き出して少し。

 空に亀裂が入って光が差し込んだ。



「空気が――」


 変わった。

 間違いなく何かが起きている。


「ミドリ! 何か光ってるのだ!」

「はい? ……ってこれはマナさんの!」



 剣につけておいたマナさんの盾のキーホールダー、そこにはめこまれた宝石が光っていた。



「ミドリくん! あれを!」


 てんやわんやしている間に到着したようで、フェアさんとアディさんが共闘しているのが視界に入った。相手は白と黒の光の翼を携えた幼女――私を担当してくれていた管理AIのハクサイさんだった。




「情報量規制法違反です!」



[ジョン::あたふた……]

[野球部の田中::そんなものは存在しない!]

[蜂蜜穏健派下っ端::もちつけー]

[コサイコ::一旦ラマーズ法で落ち着いてけ]

[粉微塵::誰と誰と誰が戦ってるか分からんけど頑張れ]



 外野が視界的にうるさいのでコメントを非表示にして、飛んできた攻撃に合わせて虹の箱舟を消した。


 シュタッと膝をついて着地。

 下を向いて気付いた。いつの間にか盾のキーホールダーが無くなっていることに。



「――あの」


「ほぇ?」




 急に間近で話し掛けらたから間抜けな声が漏れてしまった。顔をゆっくりと上げる。

 こちらを見つめる瞳は、宝石のような輝きを孕んでいる。

 少女の目から一筋の涙が頬を伝う。

 しかし、彼女の表情は春の陽射しより温かい笑顔であった。



「すみません、っす。驚かすつもりはなかったんすけど――うん、やっぱりはこっちの方が合うっすね」



「えぁ……」



 きっと今の私は口をあんぐりと開けて呆然としているのだろう。

 膝をつく私に差し出された手の主を見て、涙が止まらない。



「大丈夫っすか?」




 これはきっといつかの日出会いの再現。

 優しい彼女のちょっとした遊び心。それが私の心を優しく包み込んでくれる。

 ――これは出会いではない。再会だ。きっとあの時の彼女と同じ質問を投げかけたら違う応えになる。そこから、私たちの物語は再び動き出すのだ。



「――もしかして、私のことを知っているんですか?」



っすよ。ずっと見てたっすから。誰よりも強く、誰よりもまっすぐに未来を見据え続けた、最高の親友相棒――ミドリさんっす!」


「うぅ……」



 私の目の前にはずっと恋焦がれていた白髪の美少女、マナさんがわらっていた。




「マナしゃあああああああん!!」



 彼女の手をとって立ち上がり、顔をクシャクシャにしながら抱きしめた。

 私はもう二度と、この温もりを離さない。

 そう心に決め、少しハグを堪能してから手を繋いで武器を構える。




「『命を護る薄明よ。影落ちた楽園に喜びを、色褪せた桃源郷に怒りを、荒れ果てた木に哀しみを、追いやられた精霊に楽しみを。さぁさぁ、棘をお仕舞いな』【神器解放:守護之荊翼アイギス・ネフリティス】!」


「『ひらけ、遙か天の先へ至るために』

【神器解放:順応神臓剣フェアイニグン・キャス】!」


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