###19 【AWO】世界救っちゃったりして【オデッセイ】
現在に戻って来た私はコガネさんをなだめた後、配信を開始した。ふざけてるわけではなく、邪神教との戦いということは他のプレイヤーも巻き込まれているはずだから結末を見届ける権利はあると思ってのことだ。
相手がかなり強そうなのでコメントが見られないのは残念だけど。
「【樹海大瀑布】」
ひとまず【祀りの花弁】にある盤面を整えるスキルを使って周辺一帯を樹海にする。
これならコガネさんも隠れられるはず。
「【人外斬り】」
「おっと危ない危ない」
スキル名しか話さない影の人の攻撃を剣で受け止める。やはりと言うべきか、かなり重い。
だが、負ける訳にはいかない。
「【縮地】!」
敢えて後方に【縮地】を発動。
相手の間合いから外れたところで納刀の構え、そして抜刀。
「――【残花一閃】!」
「【日輪剣舞】」
私の鋭い抜刀と同時に相手の剣戟が展開された。
それらが交差することはなく、お互いに並々ならぬ損傷を与えてすれ違う。
しかし、相手の真夏に咲く花のような剣は収まることを知らず、息つくまもない斬撃が迫るので2本目の剣を取り出して応戦する。
何度も剣を交えて私は相手のちぐはぐさに心の中で首を傾げる。
逞しい武力、実戦に即した技術――だが、何かが欠けていた。戦いで必要な、影が本来持っていたであろう何かが足りていない。
「私は悲しいです。こんな状況、こんな形でなければきっと素晴らしい好敵手になれたことでしょうに」
今、私は手札が少ない。ついさっきまでの戦闘で必殺技足り得るスキルは軒並み使ってしまったのだ。
だが、目の前の相手に負ける道理も無い。
「【英雄技能・
「英雄……ああ、そういう」
私は気付いてしまった。目の前の影が一昔前の世界の英雄であることに。前のイベントで読んだ日記にも英雄の指定云々があったはずだし、欠落して弱体化している要因も繋がった。
影に心は無いのだ。
英雄とはまさしく心・技・体のすべてが揃ってこそ人々の希望となり力を発揮できるのだろう。
だが、英雄であった影には大事な心が無く、眩いはずの生命の輝きも無い。
「これ以上、貴方の魂が穢されるのは心苦しいので――終わらせます」
周辺一帯に張り巡らされた光の斬撃で構成された蜘蛛の巣状の攻撃を、私は闘力と魔力を合成させた神力で守りつつ2本の剣をクロスさせる。
「【
金色の神力がありえないほど光り輝く。
影は咄嗟に逸らそうとしたが、多少の怪我を恐れない私を前にそんな甘ったれた行動がまかり通るはずもない。
「はぁああああ!!」
強引に影を斬り裂いた。
ボロボロと崩れ落ちていく影は、どこか優しく微笑んでいるようにも見えた。
完全に居なくなったのを見届けてから、生やした樹海を消す。
「ほんま助かったわあ」
「困った時はお互い様、それが仲間というものでしょう? 女神ヘカテーよ、我が嘆願の声に応じ、愚かな者を癒したまえ〖セイクリッドリカバリー〗」
「回復ウマウマ」
「ヒヒーン! ――じゃなくて、まだついてこれる体力はあります?」
「余裕や。あの猫はんの加護は消えてはるけど誤差やな」
「敵認定したら消すなんて、曲がりなりにも神だというのに器が小さいですねー」
軽口を叩きながら、私たちは伸びをしたりとストレッチをする。
だいたい準備体操が終わったので、私は翼を広げ、コガネさんは雷を纏った。
空に浮かぶ禍々しい神殿に2人で突入した。
〈意外と早かったね。どうだい? 楽しめたならいいんだけどな〉
リンさんをはじめとしたプレイヤーはこの黒猫に散々煮え湯を飲まされたことだろう。そう考えたら、邪神の企みを挫きにいくヒーロー、ヒロインと言われるかもしれないが、私は自分がそんな大層な立ち位置にいないと思っている。
なぜなら――
「うるさいですね! ポッと出の分際でなにラスボスぶってるんですか! 何の因縁も無い貴方みたいなのが私の大切な仲間たちに手を出して――!」
「沸点そこなんや……。仲間を想うところで加熱したさかい、ギリギリプラマイゼロやな」
何のポイント?
コガネさん好感度ポイントかな?
まあそれはいいとして、私が言いたいのは目の前に佇む黒猫が
「……すぅううう、まあ貴方がどこのどなたであれ、世界を滅ぼそうとするなら容赦はしません」
〈ヒドいなぁ。ボクは君をずっと見ていたというのに。“魅入られし者”って称号とかがあると思うよ?〉
########
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:大天使・(色神)
職業:背水の脳筋
レベル:198
状態:良好
特性:天然・善悪
HP:930/39600
MP:5260/99000
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・旧魔神の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・色の飼い主・復讐者・神殺し・空間干渉者・時をかける者・破壊壊し・真理の探究者・天賦の才・到達者・終末兵器(色)・メデテー乱獲者・死者殺し・運に愛されし者・巨人殺し・並行世界の救世主
神能:色
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・超過負荷10・無間超域・獲物に朝は訪れない(一時貸与)・理想を描く剣・砂粒を掴む
R:飛翔10・神聖魔術8・縮地9・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁(不撓不屈・命の灯火・残花一閃・樹海大瀑布)・水中活動・闘力操作・魔力操作・即死無効・世界の種・神力操作
N:体捌き10・走術7・無酸素耐性7・苦痛耐性7・釣り作業10・打撃耐性5・最大MP上昇10・継続戦闘6
職業スキル:背水の陣・風前烈火
########
そんなのあったっけと思って確認したらあった。
結構序盤……それこそ王国に居る最中っぽい。
そんな前から一方的に見られていたとか怖すぎでしょうに。
後で称号の詳細を見れるよう運営さんに苦情を入れてやらねば。乙女のプライベートを覗き見る
「もういいです。辛うじて部外者ではないようなので――張り切って倒しますね」
「せやな」
私は{
横に立つコガネさんも爪を立てて九つの尾を揺らす。
「【不退転の覚悟】!」
「【神格化】!」
寂れた神殿が、金色の光と白黒の雷で飽和した――
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