#11 …………照れますね
「これが、キメラか……」
「そうです」
冒険者ギルド、もはや恒例になりつつある奥の部屋。ギルドマスターがキメラを凝視している。
「先程述べた状況から、清掃員にも尋ねたいことがあります」
「清掃員はないと思うがな」
「それはどういった理由で?」
こちらの意図が伝わったようだけど、否定される。状況的には一番ありえると思ったんだが。
「そもそも、ドブネズミは一定の周期で現れ、地下水路を汚すやつらだ。それに合わせて依頼を出してあるが、清掃員は直接依頼を出していない」
「しかし、それでも最後に入ったのは清掃員ですよね?」
依頼の有無に関わらず、あそこに行ける人間は限られている。
「
確かに。今日の出来事ではないのに、下手に関連性を求めすぎていた。視野が狭かったか。
「それに今は調査の結果を待つしかないだろう」
「そうですね」
事情を軽く説明したら調査隊が派遣され、監視員の宿舎と、洞窟を調査している。フットワークが軽くて助かる。
今はその結果待ちで、ここでギルドマスターとのんびりお茶を飲んでいるわけだが、どうも結果が気になって落ち着かない。
一応私も容疑者の一人な訳だから、それも当然だろう。
そうだ。今のうちに確認しておこう。
「ステータスオープン」
小声で呟き、眺めてみる。
######
プレイヤーネーム:ミドリ
種族:天使
職業:大剣使い
レベル:18
状態:正常
特性:天然・善人
HP:3526
MP:882
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛
R:(神聖魔術2)・飛翔2・天運・天眼
N:体捌き2・走術1
職業スキル:筋力増強3・大剣術2
######
スキル
【神聖魔術】ランク:レア レベル:2
神聖なる力で回復から攻撃までこなす。
〖使用可能な魔術〗
・セイクリッドリカバリー
・ディバインウォームス
魔術
〖ディバインウォームス〗
対象者の
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が
消費MP:500
スキル
【大剣術】ランク:ノーマル レベル:2
大剣の扱いが上手になる。
アーツ:パワースラッシュ・ヒートアップ
アーツ
【ヒートアップ】
一時的に力を爆発的に上昇させる。使用後倦怠感に襲われる。
効果時間:30秒
CT:1時間
######
変化があったのはこの二つ。一気に上がったな〜。新しい魔術では
《こちらブロン、報告する》
「ああ、頼む」
机に置いてあったスピーカーのようなものから渋い声が聞こえる。
「これは何です?」
「ん? ああ、魔伝器だ。子機と繋がって会話ができる魔道具だな」
電話のような物かな。
あんまり報告の邪魔はしたくないからこの辺にしておこう。魔道具のことはいつでも聞けるし。
《宿舎に殺害現場と考えられるほどの血痕があった。死体や血を調べたが、一週間程前だと推測される》
「犯人の目星は?」
《今のところ全く分からない》
「……引き続き頼む」
《おうよ》
ランプの点灯が消え、通信が途切れる。
「迷宮入りですか」
「ああ」
悩ましげに頭をひねっている。何かの助けになるかもしれないし、私の推測も言ってみようかな。
「私の個人的な推測になるんですが」
「ん?」
「こうも立て続けに起こると関連性を疑ってしまうという面もあるのかもしれませんが、昨日の朝の町中に現れた狼、麻薬、キメラ、地下水路、これらの全てが繋がっているように思うのです」
「なるほど……」
「狼の正面から入ったりした目撃情報はありますか?」
「いや、無いな」
なら、狼は地下水路からマンホールで上がってきた可能性が高い。それが一番簡単なのだから。
「では、麻薬を売買しうる組織、団体は?」
「ある。小さな組織だが、大きな組織との関わりも噂されている、ラットパイプという裏組織だ」
ビンゴ。おそらくそれだ。
更に問い詰める。
「その大きな組織というのは?」
「ドラゴンウェアだ。王都に新たにできた、ならず者の集まりだ。実態はまだ把握出来ていないそうだがな」
「私の視点だとそこが元凶に見えますね」
そこなら全てが綺麗に繋がる。別口の可能性もあるから、確信ではないけど。
「理由はあるのか?」
「順番に行動を並べますと、最初に監視員を殺して操ります」
「うむ」
「次にキメラを近くに待機させ、予行演習として狼を地下水路から町に入れます」
「……」
「騒ぎの裏で同じく地下水路からラットパイプとやらに麻薬を売りに行きます。そこで売りますが、手持ちを全て出すわけがありません。売り値を上げるために、在庫をある程度残したまま路地裏まで走って帰ります」
「……」
「そこで私とすれ違い、麻薬を落としてしまいます。落し物を届けようとした私は追いますが、居なくなっていました。傍にあったマンホールから地下水路に入ったのでしょう」
「ほう」
「その後、偶然私とオックスさんがキメラと遭遇、バレたのを隠すため地下水路にキメラを入れます」
「む」
「そして今日になり、キメラが殺されたのを察知し、逃げたのでしょう」
「…………なるほど。筋は通っている」
改めて考えると、何故か私が凄い巻き込まれている感じになっている。もしや狙われている?
いや、それは無いかな。特にその裏組織に面識なんてないし。
今回ので顔を覚えられた可能性は大いにありそうだけどね。
「だが、それはあくまでも仮説だ。証拠が無い以上――」
「分かってますよ。私の意見を述べただけです」
誤解のないように正しておく。
若干気まずい空気が応接室に流れる。
「お待たせしました!」
ドアがノック無しに勢いよく開かれる。受付嬢の、確かティミさんだったか。
「これが報酬です。内訳はこの書類でご確認ください」
溜まっていた依頼の報酬をまとめてやってきてくれたようだ。これ待ちだったのか。それならそうと言ってくれればよかったのに。
書類を確認する。
噛みちぎり狼討伐:3000G
薬草採取:1000G
ドブネズミ討伐:5000G
その他:100000G
合計:109000G
とてつもない額だ。キメラの分が高いのかな。
「キメラのようなAランクが相手するような魔物ですから高めなのですが、
それは納得。キメラは結局ツギハギでできただけの魔物だし、ドラゴンとかと比べたら見劣りするだろうし。
「ありがとうございます。そろそろ昼なので、これで失礼しますね」
「待て」
「はい?」
ギルドマスターに呼び止められる。そう命令口調だと、険しい顔と相まって怖がられるよー。
「ここに行くといい」
小さな地図を渡される。指されているのは近くの村だ。
「……?」
「オックスの両親の居る村だ」
「そういう事ですか。分かりました。夕方頃に向かいます」
仇討ちの報告と、お墓参りしなければね。
「ついでにそのまま王都に向かうといい」
「王都、ですか……」
「気になるのだろう?」
確かに事の顛末は気になる。だけど、厄介払いに思えてならないのは被害妄想だろうか?
「……そうですね」
立ち上がり、今度こそ去る。ここに戻ってくるのは二度と無いかもしれないが、律儀に挨拶する程の親しみはない。
ギルドから出て、路地裏で座り込む。
「というわけで、今日の夕方は配信無しです。人のお墓を晒すのも嫌なので。次の配信は明日の朝からやります。お疲れ様でした」
[カレン::配慮ありがとう]
[芋けんぴ::了解! おつかれ!]
[壁::確かにお墓はね…]
[味噌煮込みうどん:¥3000:敵討ちナイスでした!]
[隠された靴下::ゆっくり休んでねー]
[枝豆::のんびりしてきな]
[セナ::おつかれ〜]
[唐揚げ::こちらこそお疲れ様でした〜]
[紅の園::配慮感謝]
[ヲタクの友::把握!おつ!]
[フートコ::ハラハラした熱い戦いありがとう!]
[スクープ:¥50000:gg]
[金木犀::毎日ありがとう]
[天変地異::おつかれ〜]
配信を終了。カメラが消えたのを確認して立ち上がり、宿に向かう。
昼ご飯に、昨日の食べかけの兎の丸焼きに
途中、良い感じの噴水があったので噴水の近くのベンチに座る。肉を噛みちぎりながら町の喧騒に耳を澄ませる。雑音のような音は無く、人々の温かな営みの音が入り交じっている。
「お嬢ちゃん、良い町だろう?」
ベンチの隣におばあさんが座り、話しかけてくる。自慢げに尋ねる表情は、どこか自分の作ったおもちゃを見せる子供のような愛おしさを覚えさせる。
「そうですね。活き活きとした平和な町です」
「
隣で私と同じく肉を
「ご馳走様でした。では、そろそろ失礼します」
「あまり気を張りつめ過ぎないように生きなさい。老いぼれからのちょっとした説教じゃよ」
流石人生の先輩、鋭い。いや、もしかして私の態度がそんなに分かりやすかったのかな?
ここに来てから色々連続してあったせいで、常に警戒心を抱いているのは薄々自覚してたけど……。
「ありがとうございます」
素直にアドバイスを受け取る。もう少し楽にしようかな、折角のゲームなんだし。
食べ終わった肉の骨を骨回収と書いてあるゴミ箱のような場所に捨て、宿に到着。
「ただいま帰りました」
「あ、お帰りなさーい!」
ひょこっと顔を出す宿のお姉さん。そういえば名前すら聞いていなかった。早い段階から割と余裕が無かったのかもしれない。環境が急に変わったんだし、しょうがない。
「今更ですが、貴方たちの名前を教えてくれませんか?」
何かすごくもどかしい感じになってしまった。
「あっ、言ってませんでしたね! 私はミャンで、妹はミュンです!」
可愛い名前。ミャンさんとミュンちゃん、覚えた。
「私はミドリです」
「ミドリさん!」
「何ですか?」
「えへへ、呼んでみただけです」
しっかり者だけど茶目っ気もある様子。姉妹揃ってあざとい。
「実は、今日の夕方からこの町を出て王都方面に向かいます」
「なら……」
「ええ、しばしのお別れです。王都でしばらく活動しますが、偶にはこちらに来て顔を見せますので…………そんな顔しないでください」
「あっ、ごべんだざい」
滝のように涙を流し、顔がビチョビチョになっている。
「というか、そんなに別れを惜しむほど長く居ませんでしたよね?」
「でもでも……グスンッ」
「……」
服の袖で涙を拭って続きを紡ぐ。
「あの子、いつも親が死んでからワガママをしなくて、自分を押し殺していたんです――」
「……そうですか」
「でも、てんs……ミドリさんと出会って、元気になったんです。貴方みたいな優しい人になりたいって、ミドリさん、ミュンを助ける時、笑いかけてくれたそうじゃないですか――」
「……」
そうだったろうか? 子供を安心させるには笑顔が一番なのは分かるが、意識していなかったと思う。無意識に笑いかけていたのかな?
「それで、笑顔で頑張って、立派な聖職者になりたいんだそうです。だから、ミドリさんには二回も救ってもらっているんです。それに、何と言いますか、私にとってもミドリさんが居ると、居心地の良い空間になるんです」
「…………照れますね。もう十分気持ちは分かりました。こまめに顔出しますので安心してください」
「すみません、ありがとうございます!」
ミャンさんに笑顔が戻った。頬に残ってる水滴が反射して輝かしい笑顔だ。
「それでは」
「はい!」
自室に戻って相も変わらず硬いベッドに寝転がって、ログアウト。
まだ半日なのに、色んな意味でお腹いっぱいだー。
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