#110 ミドリは 必殺技 をおぼえた!



「――最強の必殺技を伝授しよう!」



 威風堂々とそう宣言した女神は、決めポーズの後、新作のゲームを入手した子供のように大はしゃぎしている。ありていに言えば台無しである。



「でもいいんですか? あの注意書きですと、対策したらより厄介になるって……」

「平気平気! 必殺技一つ隠し通せばいいんだもの。それくらいなら可能、たぶん!」



 心配になってきたけど他に寄るもないからなあ……。

 未来の話が本当かは未だに信じきれていないが、いざという時に足りないよりかはずっといい。



「マナさんが封印されるのは見過ごせませんし、猫の手も借りたいならぬ邪神の手も借りたい状況ですから――お願いします!」

「邪神なんかと一緒にしないでって! ……まあ本気なのはビシビシ感じられるから聞かなかったことにしてあげる」



 ツカツカと真っ白な床を裸足で歩いて私に近づき、腰に差してあった{適応魔剣}を抜く。

 そしてそれをジッとなめまわすように見て、眉をしかめた。



「今のスペックなら本当に1回きりかな…………」

「1回しか使えないんですか!?」


「うん、残念ながら2回目は発動すら耐えきれないね。もう一本の吸魔の方は1回も無理。壊れるとかじゃなくてそもそも詠唱で崩壊するよ。ま、あたしの神殿まで来られたらある程度使えるようにこの剣、強化できるんだけどねー」

「神殿? ここは違うんですか?」


 かなりそれっぽい雰囲気の空間なのだけど。


「こんなのは、そこら辺の道端に開いてる露店みたいなものなの。神殿は竜の渓谷の最深部から入って天の道を上った先にあるのよ。できるだけ早急に使いは出すけど絶対間に合わないから」

「……そうですか。ひとまず一発使えるなら良しと考えます」



「それがいいね! じゃあ早速伝授するから詠唱文を復唱して、指示通りの心をつくってみて」

「え、心?」


「はいせーの――――」




 ◇ ◇ ◇ ◇


 ――――を獲得しました』


 問答無用で始まった短い練習は、無事なんとか成功して一度っきりの必殺技を習得した。

 長めの詠唱文はすんなりと覚えられたが、相応しい心とやらをつくるの苦戦してしまった。


 座禅とかで無になるとかのオーソドックスな感じでなく、世界に対して非情になるなんて、未知の試みなのだ。こればかりは仕方ないと思う。



「完璧だね! 一応補足すると、その技は簡単に言うとプレイヤー以外に対する特効だから、そこは注意してね」

「特効というのはダメージ何倍とかそういうやつですか?」


「まあそんな感じかな。あ、でもプレイヤーには等倍じゃなくて減っちゃうからプレイヤーに使うのはおすすめしないよー」

「了解です」


 1回きりだし使いどころは慎重に選ばないと。



「……おまけに耳寄りな情報はいかが?」

「是非お願いします」



 何かを思いついたようにハッとした顔をしていたので、お願いする。「あたし天才!」と言わんばかりの輝かしい顔だけは腹が立つけれども。



「世界における防衛装置、終末兵器と呼ばれる、あたしを含めた3柱はそれぞれさっき教えた特効を持っているの。破壊神は神以外の非生物への超特効、色神は神への超特効、そしてあたしは異界人以外への特効――まあ本命はシステム系統への超特効だけど」



 破壊神に関しては私も扱ったことのある力だからなんとなく分かる。色神もゲームらしさ満点で単純明快だからいい。

 だからこそ、目の前の神がかなり異質な存在に思えてくるのだ。



「システム系統というのは?」

「色々あるけど、分かりやすいのはAIが搭載された存在とか、あとは魔法・魔術・スキル等々かな。破壊神のそれよりもずっと効いてすっごいんだから!」


「すみません、私の認識が間違ってるかもしれないんですが、それって現地人にも――」

「もちろん!」



 終末兵器などど自称している理由が、今はっきりと理解できた。

 簡単にまとめると、破壊神は地上のすべてを壊すことが可能で、色神は神を滅ぼせて、フェアさんはこの仮想世界そのものを滅茶苦茶にできる存在。3柱でまとめられてはいるが、大きな枠組みで考えるとフェアさんが一番上と捉えられる。



「……あれ? ならプレイヤーに対する超特効は誰が担ってるんですか?」

「ん~、いざとなれば普通に運営が弾くからねー。強いて挙げるなら人神じんしんかなー? 存在による特効は持ってなかったはずだけど、何しろカバー範囲が広いから」



 知らない神様だ。文字通り受け取るなら人の神?

 人をつくった神なのか、人から神になった神なのか。


「その方はどの枠組みの?」

「たしかαテストのリーダーだったっけ。まあ、もうすでにアバターはロストしてるから気にしなくていい話だよ」


「ほへー」

「一気に興味失せたね!?」



 もういなくなったのなら戦う可能性も皆無だし、情報を集める必要もないのだ。



「そろそろ帰らしてくれません?」

「たしかにそろそろマナちゃんが戻ってくる頃だし、そうね。……もう一度注意するけど教えた必殺技は一度きり、使う対象は現地人か魔法・魔術・スキルに、だよ!」



 改めて再確認した後、出口のようなものが出現する。




「ありがとうございました。また呼んでくださいね、それなりに楽しい時間でしたので」

「……! もちろん! あ、でも必殺技を教えてあたしの力も結構あげちゃったし、こういう形では難しいかも。使いの子を出すから、次はあたしの本拠地で会いましょ」



「そうですか、わかりました。ではまた」

「ええ、またね! どんなことがあろうとも、あたしはミドリちゃんを見捨てないし、いつだって見守るから! 頑張って!」



 激励の言葉を浴びて、私は背筋を伸ばして出口をくぐり抜けた。

 彼女の信者ではないが、彼女に選ばれた天使として相応しいように。


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