147.猫も承知の羞恥プレイ(前)
スクリーンに流れたのは、僕と彩ちゃんが白扇高校の探索部と模擬戦をやったときの映像だった。
協会の野営自習中に、偶然いあわせた彼らにウザ絡みされ、その流れで試合することになったのだけど、結果は僕と彩ちゃんと、映像は流れなかったけど神田林さんの圧勝だった(第66話~70話参照)。
この時の映像は、あまり人に見られたくない。
何故なら――
「『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』だってさ――はははは。カッコいいこと言うねえ」
あの時の僕は、相手の態度にイラついてたこともあり、いま父兄から声があがったようなイキった発言をしてしまってたのだった。
「ああ、そうか。これ、アレだ。美子が言ってたアレだろ? この白扇高校っていう学校の奴らが舐めた態度とるもんだから、あのビガ、ビガ、ビガーパンツじゃえや。ビガピンって子が頭にきて、それで相手をコテンパンにしてさ。それで、ビシッと言い返したってアレだ。いやあ、カッコいいねえ。『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』。いやあ、俺もこんな風にカッコつけてみたいよ。『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』『こんなのでも、単独で探索できるんですよ』。こりゃしばらく忘れられねえな。いやあ、カッコいい! 美子が夢中になるのも当然だよなあ! 実際、見てみたら俺もファンになっちゃったよ!」
あの……忘れてください。忘れてください。それとお父さんの隣で『消えてしまいたい』って顔をしてる、多分『美子さん』。ごめんなさいごめんなさい。僕のせいでこんな恥ずかしい思いをさせてしまって……
会場にくすくす笑いが広がる中、口角を吊り上げ、明らかに笑いを堪えてる表情で美織里が言った。
「もう1度言いますが、白扇高校探索部の『高校探索部技能競技会』で全国ベスト4になったレギュラーメンバーと、我が校の
さっき声を上げたお父さんがまた何か言おうとしてたけど、隣の『美子さん』が必死で止めていた。
会場を見渡し、美織里は続けた。
「しかし、それでも2人が圧勝したのは、単純に強さで圧倒したからです。最初にこう言いましたね。探索部の活動には『探索指向』と『競技志向』――2つの方向性があると。我が校の2人は『探索指向』です。探索の中で強さを培った2人です。単純な『強さ』において『競技志向』は『探索指向』に遠く及びません。しかし――」
再び、スクリーンに映し出されたスライドは――『探索者部の有無による比較』
「探索部のある学校の生徒で事故に遭ったのは17名。更に内訳を調べてみると、この17名のうち15名が『探索指向』の学校の生徒でした。つまり、ダンジョン内での安全においては『探索指向』より『競技志向』の学校の方が勝っているということになります。もちろん、これには理由があります」
『探索指向と競技志向の比較』
「『探索指向』の探索部では、監督の個性に依存した指導が行われています。監督の持ってる技術が漏らすことなく生徒に伝えられる、といえば聞こえがいいですが、逆に言うと、監督の知見の限界がそのまま指導の限界となってしまうということでもあります。もっともこれは、『競技志向』の学校でも変わりはないのですが――いまお見せしたような『模擬戦』に限っての話です」
『高校探索部技能競技会で行われている競技』
「『高校探索部技能競技会』で行われている競技は『模擬戦』だけではありません。ロープ渡河や登坂、負傷者を抱えての障害物突破、野生サイトの設営、森をダンジョンに見立ててのオリエンテーリングといった競技も行われています。そしてこういった、探索者としての基礎を養うのに有用な競技においては『探索指向』は『競技志向』の足下にも及びません。何故ならこれらはタイムや正確性を競う競技だからです。そういった競技で勝つために必要なのは、指導のマニュアル化とより広範な技術の吸収――指導者の個性……はっきり言いましょう。エゴは害にしかなりません。『高校探索部技能競技会』の参加校間では練習試合により技術の交流が行われ、また市や県単位で指導マニュアルを共有する流れもあるそうです。これは私個人の考えですが、この流れはいずれ、全国各地のマニュアルをとりまとめたものが、探索者協会から発行されるという形に行き着くのではないかと思います。では、これまでお話しした内容を踏まえて――」
『本校探索部の活動方針』
「私達の探索部の活動方針ですが――『探索指向』と『競技志向』を取り混ぜたものにしたいと考えています。探索の基礎は『競技志向』のマニュアル重視の指導で学び、戦闘については『探索指向』――指導者の個性に依った指導方針をとります。なぜなら、戦闘のマニュアル化には限界があり、上達には指導する側と指導される側の両方の個性を鑑みたカリキュラムを組む必要があるからです。もっとも先ほどの
美織里の話が終わると質疑応答の時間になった。
そこで、父兄からこんな質問があった。
「あのお……部活で頑張ったら……うちの子も、イデアマテリアに入れてもらえるんでしょうか?」
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