213.猫とみんなに見守られ(2)
深層に入って『鎖』を垂らした。
異世界でクサリ師父にもらった『首輪』――そこから繋がる『鎖』だ。
異世界にいたときから着け続けているのだけど、いまはさんごに頼んで
これを『探知』に使う。
触れたものから『情報』を吸い上げる。それが師父に習った『鎖』の使い方だ。人に触れれば人の情報が。物に触れれば物の情報が。そして地面に触れれば、地面と地面に触れている何もかもの情報が伝わってくる。
もちろん本当に
だから対象を制限する必要があるのだけど、そういう制限をかけた情報の受け取り方を、僕はこの1,2日の間で身に着けていた。美織里や彩ちゃんやパイセンと、『鎖』を着けて、なんというか……エッチなことをしていたら、自然と出来るようになっていたのだ。
まずは『視覚情報の補強』。見た景色を『鎖』の情報で補正して、ただ見たままより鮮明にする。
2つめは『知覚範囲の拡大』。簡単に言うと、ただ見るより遠くの様子まで知ることが出来る。どんな感じかといえば、目で見た景色の向こうに、薄い輪郭で描かれた映像が重なる感じだ。逆にいうなら、ワイヤーフレームで描かれた景色の中、自分の周囲だけ濃く色が着いてるみたいな感じだろうか。
そして最後が『魔力検知』。いわば魔力のレーダーで、意識を向けた先にある、強い魔力をマップ状にして教えてくれる。
扱いに注意が必要なのは『魔力検知』で、昼間試したときは、対象を広くしすぎて目眩を起こしかけた。
だから、いま使うのは『視覚情報の補強』に留める。
もともと視力はスキルに補強されているから、夜になった今でもそれほど影響はない。そこへ『鎖』の情報が加わって、むしろ昼間よりも視界が鮮明に感じられるほどだった。
「ぶもも、ぶももも……」
100メートルほど先の草むらを、オークが歩いている。3匹。深層に出るからには強化体だろうか? 確認のため、これを使ってみた。
『魔力検知』
もちろん対象は絞って、オークがいる2メートル四方程度だ。検知した魔力は、やはり大きい――強化体。でもそれより……
(なんだ、これ?)
違和感ではなく、明らかな異変が見付かって驚く。すれ違いざまに蹴り飛ばして、オークを置き去りに走り去る。ちょっと離れてから振り向いても、異変は、そのままだった。
「びぎゅも~」
ミノタウロスの強化体。「
(26,7……4,6……8……6……7……)
速度をチェックしながら、何度か戦闘を挟みつつ走ると、1時間で深層の北端に着いた。
ここで、再びあれを使った――理由は、疑問と悪い予感の両方だ。
『魔力検知』
今度は範囲を広げて、目の前の50メートル四方。すぐに後悔した。悪い予感が当たったのと、反応のあまりの多さに。
さっきの戦闘で気付いた異変が、ここにも、しかもずっと沢山、存在していたのだった。
異変。
それはここまでで戦ったモンスター――オークやミノタウロスの、足下の地中にあった。
一言でいうなら、魔力の『塊』だ。
そうとでも呼ぶべきものが、地中に埋まっていた。オークやミノタウロスが動けば『塊』も移動する。そして『塊』は、彼らが斃された後も地中に残り続けていた。
そしていま、ダンジョン深層の北端。ダンジョンコアまですぐの場所。その地中にも。
数百を超える魔力の『塊』が、埋まっていた。
「!!」
足を止めず、僕はその場所を後にする。『24時間ノンストップ探索』の最中というのもあったし、ここにいたくないというのもあった。
探索者になってから、ホラー映画を見て思うことがある。『これなら、勝てるかな』――映画の中のモンスターに対して、そう感じるようになっていた。でもホラー映画は怖い。それは変わらない。
それと同じだ。
『勝てるか』とか『戦って生き延びられるか』とかとは別の種類の恐怖――おぞましさが、僕の背筋を寒くさせていた。
おそらくは、そこから感じられる悪意に。
(誰が……何が!?)
魔力の『塊』。
地中に埋まるそれは、誰かの意思、それとも何かの仕組みによるものなのだろう。だから僕は、ためらわなかった。
『24時間ノンストップ探索』の間、僕は美織里達と連絡を取らないことになっている。ルートの指示や、ヒントを得るのを禁じるためだ。
でも例外はある。
非常事態の場合は、連絡を取っても良い。今がその非常事態だと、そう判断するのに、ためらいはなかった。
メッセージを送った。
光:緊急事態。深層の地中に、魔力の塊が埋まっている。大きさはバレーボールくらい。込められた魔力は、モンスター1体分くらいだと思う
光:最初は、倒したモンスターの足下に埋まってるのを見つけたんだけど、ダンジョンコアの近くまで行ったら、何百個も埋まっていた
光:対処が必要なら指示を。放置していいなら、この探索が終わるまで無視する。気付いた情報は送るから、そちらで判断してほしい
美織里達からの、返事は――
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