213.猫とみんなに見守られ(1)

Side:光


「「「3,2,1 スタート~!!」」」


 美織里達のカウントで、スタートする。

 背中から――


「頑張れ! ぴかりん!」


 聞こえたのは、ハウル笹塚さんの声だ。『24時間ノンストップ探索』の舞台裏をレポートするためカメラを回してるけど、僕に着いてくるのはここまで。ここからは、美織里達実況レストラン組に密着する。


 だから次に会うのは、24時間ノンストップ探索を終え、戻ったとき――レストランを出て走り出すと、全身が生ぬるいのと涼しいのが混ざったような空気に包まれる。


「「「「「がんばれぴかりん! がんばれぴかりん!」」」」」


バーベキューエリアから声を上げる男鹿高校の生徒達――それに手を振り返して、僕はスピードを上げた。


 プランとして、最初はフィールドの中央を、ひたすら真っ直ぐ進む。


 昼間も走って下見したけど、いまはもう夕方だ。見る景色が変われば、速度の感覚も変わる。まず真っ直ぐ走るのは、それを掴むのが目的だった。


(24,5……4,3……5……4……5……)


スマホでの速度計で、時速をチェックする。


 異世界で『24時間ノンストップ探索』をやった時より慎重なのは、配信で見られてるからだ。


 あの時と違って、失敗は僕だけのものではない。配信に関わってるイデアマテリアのスタッフ……だけではない。UUダンジョンの職員さんや、さっき手を振ってくれた男鹿高校の探索部、配信で応援してくれてるみんなもがっかりさせてしまう。


 だからまずは慎重に、走りきることを優先。


 昼間の下見で違和感を感じた場所には、夜の間は近付かないことにする。


 そういう場所は、たとえばいま走ってる上層だと、フィールドの東側に多かった。


 不自然にモンスターがいなかったり、極端な坂になってたり、それから事前情報とは違う場所でゴブリンが群れてたり。


 数匹で固まって寝てるオークをやり過ごしたりして走ってたら、フィールド北端に着いた。


そこから西側を回って出発地点近くまで戻り、そこからまたフィールド中央を北に。また北端に着いたら――


(ちょうど、1時間)


 スマホで見ると、平均時速は24キロ。イメージと大体あってる。でも、これから食事や排泄でスピードが落ちることを考えたら、もう少し速くしたほうがいいかもしれない。


北端から、中層に移動する。


 UUダンジョンでは、階層の境目はなだらかな坂道になっている。何度か折り返しがあるから、そこでスピードが落ちないように、同時にスピードがつきすぎて転ばないように気を付けながら降りた。


 中層は、UUダンジョンで1番広いフィールドだ。


 ここでも、まずは中央を走った。


中層での要注意地点は西側に集中している。ミノタウロスが待ち伏せしてたり、角ウサギが群生してたり――走り出して10分で、最初の戦闘。


「びぎゅ、びぎゅ、びぎゅ、びぎゅも……」


 木の下で寝転がってたミノタウロスが、僕を見つけて追いかけてきた。併走しながら近付いてきたところへ――


射撃With雷シワック!」


 雷の弾丸で弾き飛ばした。


 下半身だけになった身体で跪くのを置き去りにして、スマホでスピードを確認。


(時速25キロ……よし。戦闘してもスピードは落ちてない)


 中層は、上層とは逆に北端が出発地点だから、当然、目指すのは南端になる。


 フィールドの中心を過ぎたあたりで、昼間はハービーが飛んでた地点に差し掛かったけど、日が暮れ始めてるからか、今度はいなかった。


 分布図で生息地となってる場所に気を向けたけど、そちらからの気配もない。


(夜は、別の場所に固まっている?――ここも、要注意か)


南端に着いたら東回りで戻る。北端に戻ったらまた中央を走って、再び南端へ。


 南端に着くと、スタートから2時間20分。


 上層よりも時間がかかったけど、それは単純に中層の方が広いからだ。戦闘や地形の変化で負荷が高くなった印象はない。


(平均は……時速27キロ)


 ちょっと速すぎる気がするけど、遅めに調整するのは、深層を踏破してからでもいいだろう。


 ここまでで、特に疲れはない。


 あくまで慎重を貫くなら、このまま低層と中層を行き来するか、中層を周回すればいい。でも完走とは別に、求められてるものがあるのも分かっている。


(いや、違う――『求められてるもの』じゃなくて『求められていないもの』だ)


 北端へは戻らず、深層に続く坂道を下る。


 安全策で時間を潰すなんて、そんなのは求められていない。完走出来ないのと同じくらい、それもまた、みんなをがっかりさせてしまう。


 だから、20時20分――日が完全に落ち、フィールドが闇に満たされてるのも構わず、深層に足を踏み入れることにしたのだった。


 更に慎重さを増しながら――『鎖』を、地面に垂らして。


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