213.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(14)-1

Side:パイセン


 光くんの探索が始ったら、レストランに残った私達はフリートークだ。


 といっても、完全にフリーではなく、時間帯ごとに話すテーマは決まっている。


 最初の1時間は、今回の配信のタイムテーブルについて。


「えーと、まず今18時を過ぎたところなんですけど、ここから20時30分まではフリートーク」


「ぴかりんの様子を見ながらですね」


「そうね。戦闘とか、階層を移動したりとか、そういうイベントがあったら解説しつつ、あとはチャットの質問に答える感じですね」


「……投げ銭ウルチャは?」


「今回は投げ銭ウルチャはナシ! というか、今回だけじゃなくて、あたし達が高校卒業するまではナシです」


「そうなんですよね~」


「あたしも光も、学校の探索部に入ったんですよ。それで、多分クレームが来るんじゃないかな、と」


「……高校生の探索を見世物にするとはけしからん、的な?」


「そう。動画の広告収益や探索で稼いだ収入はともかく、投げ銭ウルチャは見世物感が強過ぎるのではないか、みたいな線引きがあるみたいなんですよ」


「でも、高校生の探索者で投げ銭ウルチャもらってる人って、結構いますよね~?」


「うん。でもそういう人って、ほぼ確実に炎上したり、事故とか事件で配信やめてるんだよね」


「……投げ銭ウルチャを投げる側に問題がある気もしますが」


「確かに投げ銭ウルチャしてるうちに色々麻痺しておかしくなっちゃう人っていうのもいるんだけど、そういう人からお金をもらうっていうか、意図してお金を巻き上げるようなことしてる人もいるわけじゃない?」


「……一緒にされたくはないと」


「そうそう。だから、そういうのとは一線を引くって意味もあって、少なくとも学生やってる間は投げ銭ウルチャはナシにしようってことになったのよ」


「……でもみおりんもダンジョン&ランナーズ前の事務所にいたときは……」


「いや、あれはさあ。あの頃はさあ」


 私も、トータルで5000円くらいみおりんに投げ銭ウルチャしているのだが、それについては黙っておくことにした。


「とにかくナシ! もういいや! 一生、あたしは、投げ銭ウルチャを受け取りません!」


 実をいうと、投げ銭ウルチャを受け取らないというのは、みおりんだけでなく、イデアマテリアの配信者全員がそうなる予定だ。


 理由としては、イデアマテリアのライブのやり方にある。


 イデアマテリアは、所属配信者のライブをさんご隊に監視させていて――実は今日の配信がそうなのだけど――チャットで配信者が反応するのは、さんご隊が選んだコメントのみという方式になってる。


 そうなると、困るのが投げ銭ウルチャの扱いだ。投げ銭ウルチャをすると投げ銭の額と一緒にコメントが表示されるのだけど、配信者は、絶対そのコメントに返事をしなければならないという不文律がある。


 いうまでもなく、さんご隊が選んだコメントにのみ対応するというやり方とは食い合わせが悪い。


 イデアマテリアが投げ銭ウルチャナシの方向に動くのも、当然のことといえた。


「で、タイムスケジュールですけど、20時30分からは『グルメ猫さんごのモ肉大好き!』――今日配信してるUUダンジョンはモンスターの肉、いわゆる『モ肉』が食べられるので有名なんですけど、あたしと彩ちゃんが選んだモ肉料理を、このさんご――さんご君に食べてもらってですね、どっちの料理が気に入ったか選んでもらうというコーナーです。だよね! さんご!」


「うみゃ~」


「その後の21時からは素敵なゲストに来てもらってトーク。22時からはあたしとパイセンでなんか喋ります」


「……説明、雑っ!」


「それで22時30分からは彩ちゃんとパイセンがなんか喋ります。23時からはあたしが戻ってきてフリートークですね」


「コメント来てますね~『結局、ぜんぶフリートークじゃねえか』という」


「いや、まあ……そうなんだけどさ。でも、1時。1時からね!『MTT重大発表』のコーナーがありますから! これは注目ですよ!」


「……それは本当」


 言いながら、私は胃のあたりが重くなるのを感じていた。重大発表というのは、MTTが楽曲をリリースするというもので、当然、その楽曲をカメラの前で歌うことになっているのだった……


「うん……重大。これは重大ですよ~」


 そういう彩ちゃんの声は僅かに震えていて、私と同じ心境なのが丸わかりだった。


 そうこうするうちに、20時30分となり『グルメ猫さんごのモ肉大好き!』のコーナーが始まった。


 このコーナーは、私は参加せず、休憩をとることになっている。


 もっとも完全な休憩ではなく、配信場所のレストランを出て、スタッフやダンジョン職員、バーベキューエリアの男鹿高校探索部の様子を探ってくるというミッションも含まれている。


 そうすることで、ダンジョンで何か起こってないか察し、私達だけが事態から取り残されるのを防ぐというのが目的だ。


 そしてこの休憩で、私は見事に目的を達することになったのだった。


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