149.猫と一緒にダンジョンデート2(前)
さんご:君は何もしなくてもいいから
と言って渡されたアクションカメラ付きのジンバルは、AIなのかさんごの操作なのかは分からないけど、何も操作しなくても勝手に動いて、角度やズームを変えてくれる。
それより困ったのは……
「何を話したらいいのかな……普段のままだったら、問題あるよね」
「いいんじゃない? 不味いこと言っても、
とは言われても、こうして改まって美織里と2人きりになっても、何を話したらいいのか分からない。普段は2人きりなんて珍しくないのに、そんな時なにを話してたかさえ思い出せなくなってしまっていた。
「エスコートはあたしがするから。光はいつもみたく『うわー』『すごいねー』『おいしそー』って言ってればいいのよ」
そんななんだ……普段の僕って。
「ほら、まずはあそこ――『パンダ広場』よ」
手を引かれるままついていくと、そこは巨大なパンダの彫像が置かれた広場だった。
「ここの施設って、アメ横がモデルらしいの」
「アメ横って、上野の?」
「そう。あのアメ横――あそこって外人客が多いでしょ? ここに来る途中でマンションがあったじゃない。あのマンションに外国の富裕層を呼び込みたいって考えみたいよ――あ、あれ食べたい」
広場には屋台が並んでいて、美織里が食いついたのは『浜松ドッグ』という、
でも似てるのは見かけだけだと、調理工程を見たら分かった。串で刺したチーズを揚げるのがチーズハッドグだけど、浜松ドッグはソーセージを串で刺した後、チーズと豚肉を巻いて揚げている。衣にジャガイモを混ぜてるところを除けば、元祖であるアメリカンドッグの方により近い。
受け取った『浜松ドッグ』とコーラを持ってパンダ像の前に移動。SNS用にスマホで写真を撮った後、美織里は『浜松ドッグ』にかぶりついた。
「うおっ! うまっ! 肉汁すごっ!」
コーラで口中をリフレッシュし、再び『浜松ドッグ』にかぶりつく美織里。今日の美織里は白いワンピースにつば広帽子という出で立ちで清楚ともいえ、でも――いやだからこそ、その下の張り詰めた胸やお尻やくびれた腰とのギャップが凄いことになっていて、そんな美織里が口元を脂で汚しながら棒状の食べ物を口にする姿を見ていると、昨日、あの口で、舌で、唇で何をして――いや僕がさせたかを思い出して、僕は、僕は……
「どうしたの?」
と、怪訝な顔をされるくらいに固まってしまっていた。
「ほら、光も――」
差し出された『浜松ドッグ』を、僕も食べてみる。
「……美味しい」
「でしょ?」
豚肉の下味にハーブが使われてるらしく、チーズのくどさを上手く中和している。加えて、衣に混ぜられたサイコロ状のポテト――たとえばラーメンがフルコース料理のパロディであるように、これはファーストフードのセットのパロディと呼べるのかもしれなかった。
「これ、さんごチャンネルの動画で作ってみようかな。衣にソーセージミートやベーコンを混ぜても美味しいかもね」
「あ……」
話しながらハンカチで美織里の口元を拭ったら、今度は美織里が固まった。
「そういうこと……自然にするよね」
顔を背けてコーラを飲む美織里は、ちょっと赤くなってた。
それからアパレルショップの並ぶ一角を回って、最後はプリクラだ。案件動画の依頼を誘う意図もあって、3人とも違う傾向のいろいろな店を回ることになってるけど、これだけは共通なのだそうだ。
「こういう機械に付いてるカメラで撮ると……あたしって、凄い悪役顔になるんだよね」
今日撮ったプリクラも、そうなった。
「これまで、どんな場所でデートしたっけ?」
「一緒に装備を買いに行ったのは?」
「あー、あれね~。最初の講習の前だよね」
「あの時借りたお金って、返してなかったよね」
「いいよ、もう……光にはもっと稼がせてもらってるし。それにあれ、デートじゃないでしょ。ただ買い物しただけじゃん」
「それから……OOダンジョンの後」
「ダンジョンブレイクを駆除した後ね」
「ステーキハウス、行ったよね」
「あれをデートって言う?」
「だめかなあ……あとは……家で会ってるのは、なんていうか……普通だし」
「お家デートっていうのとは違うよね。一緒にドイツに行ったりしたけど……あれもデートとは違う気がするし」
「じゃあ、今日が初めてのデートなのかな」
「…………そうだね」
「あのね。美織里といるとさ……いろいろあって、いつも大変なんだけど……でもそれが普通っていうか、変な言い方だけど……落ち着く気がする」
「ふうん……そうなんだ」
拠点のカフェに戻ると、オープンテラスでさんごの撮影会が行われていた。周囲のお店と共同した突発企画らしく、今度は交通整理が行われていて、過剰な人垣が出来たりもしていなかった。
僕と美織里もそれに加わって写真を撮られていると、連絡が来た。
彩:準備が出来ました。ダンジョン神社の前で待ってます
というわけで、2番手の彩ちゃんとのデートに向かった。
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お読みいただきありがとうございます。
今回登場する『浜松ドッグ』は作者の創作で実在しません。
以前、職場の近くの喫茶店で食べた、ソーセージに豚肉を巻いて揚げた料理がモデルになってます。
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